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変革への闘い

「ストリートチルドレン」と呼ばれて15 路上活動に魅せられた男

工藤律子(ジャーナリスト)

 メキシコシティ中心街の路上に生きる若者たちの間で、ダビを知らない者はごく稀だろう。そう思うほど、ダビ(2026年現在、53歳)は、まさに伝説のストリートエデュケーター。この地域で20年以上もほぼ毎日路上活動を続けているのは、私の知る限り、彼だけだ。ふたつのNGOでストリートエデュケーターを務めた後、2018年に数名の仲間と小さなNGO「テキオ・ポル・ロス・ホべネス」を立ち上げ、路上活動の継続を目指す。

「カサ・アリアンサ・メヒコ」のストリートエデュケーターをしていた頃のダビ(右から2人目)。子どもたちの気持ちがよくわかる彼に、大勢の子どもが気軽に話しかけてきた 撮影:篠田有史

路上活動こそが、幸せ

「彼は路上中毒なんです。ストリート世界に取り憑(つ)かれている」
 ダビをストリートエデュケーターとして雇っていたNGO「カサ・アリアンサ・メヒコ」の代表は、彼のことをそう評した。「それは精神衛生上、よくないこと」と話し、ダビを路上活動とは別の部門に移動させようとしたところ、拒否され、離職された。それくらい、ダビの路上活動へのこだわりは強い。
 ダビは断言する。
「ボクにとって、路上活動を続けることこそが、幸せなんだ」
 はたから見ると心身への負担が大きすぎるように思える仕事も、それこそがやりがいだと感じている。NGOスタッフでダビの情熱と献身に惚れ込んでいる友人は、尊敬の念を込めて彼を、
「ラスト・サムライならぬ、ラスト・ストリートエデュケーター」
と、呼んだ。この友人に限らず、ダビの元同僚の誰もが、これから先、彼以上のストリートエデュケーターは現れないだろうと、感じている。
 そんなダビと出会ったのは、もう20年近く前のことだ。私たちがメキシコシティの路上で子どもたちの姿を追い始めてから、すでに10年以上経った頃だった。だから最近、ダビは私に、
「キミのほうが路上のベテランだよ」
と、冗談っぽく、しかし敬意も込めながら言う。

ダビが「カサ・アリアンサ・メヒコ」のストリートエデュケーターを始めた頃のメキシコシティの路上には、公園や広場など、至るところに子どもたちが集団を作って暮らしていた 撮影:篠田有史

 実は、私たちにとって、ダビは最初、それほど目を惹くストリートエデュケーターではなかった。すでに紹介したジョンやラウル、グスターボに比べると、生真面目すぎて、あまり面白味がないように感じたせいだろう。芸達者で話が面白い、テンションが高くてノリノリだ、歌が上手い、などといった特徴があるわけではなく、とにかく真面目に路上活動を遂行する。そうした印象が強かったために、取材で一緒に路上をまわっても、彼自身のことは、顔と名前と優秀なエデュケーターだということくらいしか、印象に残らなかった。向こうも、ある意味、同じような感覚を抱いていたようで、
「キミたちのことは、ずいぶん前からよく見かけたけど、ほんとうは何をしている人なのか、よくわからなかった」
と、苦笑する。わからなくても、敢えて私たちに直接尋ねようとしなかったのも、ダビらしい。彼は結構、用心深く、他人にどこか警戒心を抱いているようなふしがある。それなのに、なぜ路上の子どもや若者には、初対面でもすっと近づいて話しかけることができるのか? なぜそれがやりがいだと感じ、そこに自らの幸福を見出すのか? そこには、彼自身が歩んできた道が深く関わっていた――。

街中の広場で、ダビ(左側手前)はよく、路上の子どもたちとサッカーをする。参加者の中には、アクティーボが手放せない者(写真中央で拳を口元に持っていっている少年)もいる 撮影:篠田有史

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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