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連載

隣人を支えるポーランドの官と民

第27回

木村元彦(ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト)

 共同研究の目的が、今では、ウクライナの文化保全、復興支援をすることにシフトしていっている。これについて、グワジェンスカは、しかしそれこそが我々の使命だと言った。
「ポーランドとウクライナの国境線は何度も変わってきましたが、一方で国境を越えた1000年の共存の歴史がある。私はポーランドの歴史、ウクライナの歴史、ポーランドの文化、ウクライナの文化と言いたくない。私たちの歴史、私たちの文化なのです。さらに言えば、副首相でもあるグリンスキ文化大臣は、スイスの会議で、今回の戦争についても『これは私たちの戦争である』と言いました。『これはウクライナの自由のための戦いだけではなく、ポーランドの自由のため、ヨーロッパ全域の自由のための戦いである』ということを強く強調しています」

 なぜ、自国にとって、都合の悪い事実も出てくる隣国の歴史を研究し、学ぼうとするのか。日本で起きている科研費問題についても説明をした。政権にとって都合の悪い研究者には、研究費を出さないという恫喝じみた事件が起きている。一笑にふされた。
「私たちの研究のスポンサーはポーランド政府ではありません。この研究を奨励しているEUから出ているのです」
 筆者がフランスの歴史学者、エマニュエル・トッドのEUを軽視するような極端な言い切りを信用しないのは、かような人道や研究の現場にいく度も直面したからである。『第三次世界大戦はもう始まっている』(2022年、文春新書)でトッドは「ウクライナに対するEUの立場は、非常に曖昧でカオスと化しています。(中略)そもそもEUがまだ存在しているのかどうかすら、怪しいのですから」とまで断言している。同書は極端であるがゆえに耳目を集め、分かりやすさゆえに支持も集めているが、到底納得はできない。

 グワジェンスカは言う。
「街中のポスターをご覧になりましたか? ポーランド市民の思いとして、2022年2月24日のマリウポリの戦いは、1944年8月1日のワルシャワ蜂起を想起させるもの。同じ痛みとして共有しているのです」
 ポスターには、「(ワルシャワは大戦で7割の居住地を失い)マリウポリは8割の居住地を失った」と記され、「Pamietamy?」(We remember?=思い出しますか?)と末尾で市民に問いかけている。
 
 11月15日、ポーランド東部プシェヴォドフ村近郊にウクライナの防空ミサイルが誤って着弾し、2名の死者を出した。痛ましい事故としながらも、それでもポーランドのウクライナ支援は揺るぎが無い。

著者情報

ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト

木村元彦

きむら ゆきひこ

1962年、愛知県生まれ。中央大学卒業。東欧やアジアを中心に、スポーツ文化や民族問題などの取材、執筆活動を続ける。著書に『誇り』(98年、東京新聞出版局)、『悪者見参』(2000年、集英社)、『終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ』(05年、集英社新書)、『蹴る群れ』(07年、講談社)、『社長・溝畑宏の天国と地獄』(10年、集英社)、『争うは本意ならねど』(11年、集英社インターナショナル)、『徳は孤ならず』(16年、集英社)、『橋を架ける者たち』(16年、集英社新書)、『無冠、されど至強』(17年、ころから)、『コソボ 苦闘する親米国家 ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う』(23年、集英社インターナショナル)など多数。『オシムの言葉』(05年、集英社インターナショナル)で第16回ミズノ・スポーツライター賞を受賞。

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