「家族は助け合うべき」は本当に“美しい”のか?
さいき まこ(漫画家)
(構成・文/仲藤里美)
オープンに話すかどうかは、あくまでそれぞれの個人の自由でなくてはならないはずです。 貧困や障害についてオープンに話せない原因は、周囲の人たち自身の中にもあるわけですから、「オープンにすべきだ」と当事者に迫るのではなくて、まずは自分の中にある矛盾や差別意識と向き合うことが重要ではないでしょうか。
もちろん、私自身の中にもさまざまな差別意識はあったし、今もあると思います。
たとえば昔、自閉症の子どもを育てる母親が主人公の漫画『光とともに… ~自閉症児を抱えて~』(戸部けいこ著、01年、秋田書店)を読んでいた時に、「子どもに障害あったら何もかも家族で引き受けなあかんの?」「どっかで勝手に苦しんでろって言われたみたいで」と主人公のママ友が泣くシーンがあったんです。でも、当時の私は「仕方ないよね、家族なんだから」って読み流してしまって……。この考え方は間違っているかもと考えるようになったのは、貧困についての漫画を描くようになってからです。
「家族だから仕方ない」「子どもに障害があるのは社会の責任ではないから、社会に負担を押し付けるのはおかしい」と考える人は多いと思います。だけど、もし自分や家族の誰かが事故や病気で障害を負ったら? 「社会の責任ではない」と言うけれど、じゃあ家族の責任なの? と、一歩踏み込んで考えてみると、見える景色は全く違ってくるのではないでしょうか。
漫画を通じて、その「一歩踏み込んだ」先にある景色を見せることができたら、少しは読んだ人の意識を変えることができるかもしれない。私自身が一歩踏み込むことで見えた景色は、とてもすがすがしいものでした。それを多くの人と共有したくて、描き続けているんだと思います。
「想像」の肩代わりをするのがフィクションの役割
──社会問題を取り上げた最初の作品『陽のあたる家』の発表から5年が経ちますが、社会の意識の変化は感じますか。
生活保護や貧困に対する理解はかなり広がってきたと感じます。17年末に、政府が生活保護基準の引き下げ方針を発表しましたが、それについてのSNSの書き込みなどを見ても、「ひどいことをするよね」という反応が多かったし、年明けに「生活保護引き下げ反対」のデモに参加した時も、露骨なさげすみの視線みたいなものはほとんど感じませんでした。
一つは、支援や制度周知の活動を一生懸命に続けてきた人たちがいることの成果なのでしょう。一方で、自分が生活の苦しさに直面したことで、他人事とは思えなくなったという人たちも増えている。その両方の側面があるのではないかと思います。
また、生活保護バッシングや貧困たたきは減ったかもしれませんが、いわゆる「ヘイト」的な言説は減っているわけではないと感じます。つまりは、ヘイトが新しい対象を見つけて、そちらに移っていっただけではないのでしょうか。分かりやすいのはやはり、在日コリアンなどへの差別的なヘイトスピーチ(憎悪扇動表現)。それに、現政権に批判的な立場の人に対して「反日だ」と罵倒することなどです。
その「新しいヘイトの対象」の一つにもなっている「相対的貧困」を次の作品で取り上げたいと思っています。13年に「子どもの貧困対策推進法」が成立し、メディアが子どもの貧困事例についてしきりに報道したため、貧困状態の子どもたちがいることは周知されるようになりました。
それはあくまで「今日食べる物が何もない」というレベルの「貧困」であって、16年にNHKのニュースで報道された女子高生がバッシングを受けたように、「経済的な理由で進学をあきらめなくてはならない」「お小遣いがなくて友達と出掛けられない」といった相対的貧困に関しては、「それくらいは我慢すべきだ」「その程度で貧困だなんて」と考えている人も多いように感じます。
相対的貧困の何が問題かを、どうすれば分かりやすく伝えられるだろうか、と今考えています。大学の学費や非正規雇用の割合といった客観的な状況を説明するだけでは不十分です。
研究者やジャーナリスト、当事者を支援する方たちは、相対的貧困を「はく奪指標」といった形で伝えようとしています。普通の家庭の子どもが体験できる海水浴やクリスマスにプレゼントをもらうといったことを、貧困状態でどれだけ体験できるかという充足度を指標化していくのです。
でも私は、経済的な理由で進路を自由に選べないといったことが、どれほど子どもの心を壊すのか、その子の人生にどれほど影響するのか。そういう心理にまで分け入って描いて見せることも、必要ではないかと思っています。
よく「どんな事情があるのか、その人の人生を想像しなさい」という言い方をされますが、それをすべての人に期待するのはやはり無理ではないでしょうか。だからこそ、その「想像」の肩代わりをするのがフィクションの役割であり、意義だと思います。テーマはまだまだ山積み。これからも描いていかなければならないと考えています。
著者情報
漫画家
さいき まこ
さいき まこ
フリー編集者などを経て、2000年に集英社「YOU」で漫画デビュー。最近は雑誌「月刊フォアミセス」(秋田書店)で活躍。著作に『陽のあたる家 ~生活保護に支えられて~』『神様の背中 ~貧困の中の子どもたち~』『助け合いたい ~老後破綻の親、過労死ラインの子~』(すべて秋田書店)など、生活保護や貧困、家族の問題などをテーマにした漫画作品がある。『陽のあたる家』で「2014年貧困ジャーナリズム大賞」特別賞を受賞。子どもの貧困や生活保護問題をテーマに、各地で講演活動も。