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「初音ミク」が世界を獲った!

日本は日本にしかできないものを創り出せ

櫻井孝昌(コンテンツメディアプロデューサー)

 世界中の若者に熱狂的に愛されているニッポン。なぜ愛されるのか、その本質を知って、日本が誇る「ものづくり」に生かすことが急務である。

コスプレは世界の常識?

 世界でたいへんな人気を誇るコスプレ。「世界でコスプレイベントが開催されていない週末はないのでは」という勢いは、もはやブームというより、世代を超えた世界の常識になりつつある。
 コスプレとは、アニメでもゲームでも映画でも歴史上の人物でも、何かに“なりきる”ことである。おもしろいのは、海外の若者にとってコスプレの本家は日本であり、日本製のアニメやゲームのキャラクターになりきってこそ、コスプレという共通認識ができていることだ。

圧倒的人気キャラは?

 さて、そんなコスプレイヤーが数多く出現する海外のイベントで圧倒的にたくさん見かけるキャラクターは何だろうか?
 答えは「初音ミク」に代表される「VOCALOID(ボーカロイド)」で作られたキャラクターたちである。
 アメリカでもヨーロッパでもアジアでもロシアでも、その現象にまったく差はない。
 たとえば、2010年12月、中国の上海最大の同人誌イベント「COMICUP」では、来場者の半数以上がコスプレイヤーという勢いだったが、そのうちの半数以上はボーカロイドのキャラという印象だった。
 初音ミクは、端的に言えば、自分が作った曲をプロに歌ってほしいという夢を実現させてくれる音声合成ソフトであり、そのソフトに登場する仮想アイドルの名前でもある。札幌にあるクリプトン・フューチャー・メディア社の製品だ。
 札幌の企業が発信した日本製品が、20世紀型の大量広告によるメディア露出とは異なる形で世界を席巻し、影響を与えているのだ。

クリエイティブ魂に火をつける

 キャラクタービジネスの場合、通常はユーザーがそのキャラクターを改変することなどは許されない。だが「初音ミク」においては、キャラクターのイメージと規則が提示されるだけで、クリエイターなど使用者は、ミクのキャラを自由自在にデフォルメして、それぞれが思い思いの初音ミクを作成することができる。
 人間のクリエイティブな気持ちにダイレクトに訴えかけたミクに世界の若者が飛びつくのは必然だった。
 インターネット上には数万人にも及ぶミクをはじめとするボーカロイドが歌っている曲と、彼女たちの画像、映像が存在している。
 これら無数の作品は、ビジネスを前提に存在しているわけではない。クリエイティブを求める人間の精神や、初音ミクというキャラクターに対する愛情の結実とでもいえるものだろう。
 そして、そこから逆に商品化され、メジャーヒットチャートの1位を獲得したアルバム「EXIT TUNES PRESENTS Vocalogenesis feat. 初音ミク」も出現している。
 初音ミクという存在が、エンターテインメントの世界にこれまで歴然と存在していた“常識”を次々に覆しているのだ。

札幌の企業が「世界を獲る」ということの意味

 私はこのポイントに、そしてそれが日本、しかも東京ではなく札幌という地方の企業から発信されたという点に、日本経済全体への希望を感じている。
 いまさら言うまでもないことだが、出口のない停滞に苦しみ続けている日本経済。
 だが、その半面、アニメ・マンガを筆頭にした日本ポップカルチャーは、空前絶後の支持を世界で受けている。
 このギャップを埋めるにはどうすればよいのか。そのためには、日本のポップカルチャーがなぜ熱狂的に世界の若者に歓迎されるかの本質を考えなければならないだろう。

日本オリジナリティーの象徴

「日本は日本にしかないものを創り出す国である」
 世界の若者の日本に対する共通認識はこれだ。
 日本のアニメやマンガのようなものは自分の国にはないから、日本しか創れないから、彼らはそこに「メイド・イン・ジャパン」を強く認識し、評価するのである。
 初音ミクは日本のオリジナリティーの象徴のような存在と私は考えている。いわば、日本経済全体の希望の星なのだ。
 抜本的な構造改革が行われなければ、経済的停滞からの脱却もない。誰しもが感じてはいることだろうが、それを実行することが難しいのもまた事実である。
 大量のマスメディア戦略にのっかった人気とはまったく違う、ユーザーがコミュニティーを作っていく形で世界的に圧倒的な支持を得た初音ミク。そのコミュニティーに気づかない人は、その大きさだけでなく、存在すら知らないケースもあるだろう。
 初音ミクが、世界にどれだけ支持されているかを自分自身で気づいてみること。それは直接間接に、日本、そして私たちの明るい未来を再び創りあげる機運になっていく、と私は思うのだ。

著者情報

コンテンツメディアプロデューサー

櫻井孝昌

さくらい たかまさ

1965年生まれ。作家、ジャーナリスト、事業企画・イベントプロデュース等の仕事とならび、世界における日本のポップカルチャーについて研究中。世界18カ国延べ58都市で講演やイベント企画といった「ポップカルチャー文化外交」活動を実施。外務省のカワイイ大使アドバイザー、アニメ文化外交に関する有識者会議委員等も歴任。著書に『アニメ文化外交』『世界カワイイ革命』『日本はアニメで再興する』『ガラパゴス化のススメ』『「捨てる」で仕事はうまくいく』がある。週刊アスキーにて「カワイイ文化追っかけ日記」、読売新聞にて「ルックイースト」連載中。

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