性知識イミダス:男性特有の病気~男性生殖器が関わる泌尿器科系疾患について知ろう
イミダス編
(構成・文/加藤裕子)
比較的稀な疾患ではありますが、「持続勃起症(持続陰茎勃起症)」も注意しなければなりません。持続勃起症とは、「性的刺激・性的興奮と無関係である勃起が4時間を超えて持続している状態」で、虚血性(静脈性)持続勃起症と非虚血性(動脈性)持続勃起症に分類されます。強い痛みを伴う虚血性(静脈性)持続勃起症は、薬物(向精神病薬、降圧薬、勃起不全の治療薬など)や、血液がん(白血病や悪性リンパ腫)が原因であることが多い疾患です。虚血性(静脈性)持続勃起症と診断されたら、早急に治療を開始する必要があります。
一方、虚血性(静脈性)に比べて症状の軽い非虚血性(動脈性)持続勃起症の多くは、会陰(えいん)部(外陰部と肛門の間の部分で、男性の場合、陰嚢の後ろから肛門の間のこと)の打撲(外傷)後、しばらく時間が経過してから発症します。非虚血性(動脈性)持続勃起症と診断された場合には、治療を急ぐ必要はありません。患部の圧迫や冷却などの処置で経過を見ることが多いですが、改善しない場合は、打撲(外傷)により出血している陰茎内の動脈をふさぐ手術(塞栓〈そくせん〉術)を行うこともあります。
持続勃起症は50歳未満に多く、特に血液がんによる虚血性(静脈性)持続勃起症は若年層に多いため、小児で痛みを伴う勃起が持続する場合は、血液がんの存在を疑う必要があります。
30代頃から見られるLOH症候群
いわゆる「男性更年期」と呼ばれる「LOH症候群(late-onset hypogonadism syndrome、加齢男性性腺機能低下症候群)」は、加齢によって男性ホルモンのテストステロンの分泌量が下がることで起こるさまざまな心身の症状を指します。女性の更年期と同様に、うつなどの精神症状や倦怠感、不眠、発汗などの身体症状、それから性欲や勃起力の低下などの症状が見られます。ただ、50歳前後に起こる閉経によって一気に女性ホルモン分泌量が低下する女性と違い、男性では、いつ頃、何が原因でどれくらいテストステロンの値が下がるかには個人差があります。若くても、仕事や私生活で強いストレスを受けたことで大きく下がることもあれば、高齢者でも比較的テストステロン値の高い状態を維持していることもあります。LOH症候群が最も多く見られるのは40代後半から50代ですが、早い例では30代でもあてはまる人も出てきています。

日本内分泌学会HP掲載の図をもとに、イミダス編集部作成
テストステロンは、男性にとってのガソリンのようなものです。ガソリンをたくさん使ういわゆる「アメ車」がガス欠しやすいように、若い頃は疲れ知らずで人の何倍も働いていたような男性など、おそらく元気な時にテストステロンがたくさん出ていたと思われる精力的なタイプの人ほど、テストステロンの分泌量が下がったときのダメージを強く受けやすい傾向があります。一方、もともとの男性ホルモンが低めの人は、年をとってテストステロンが少なくなってもその下がり幅が少なく、低燃費の車と同じで、それなりのパフォーマンスが維持できるようです。
LOH症候群の診断は、テストステロンの値を血液検査で測定するとともに、「AMSスコア」という問診票を使い、当てはまる症状が多ければLOH症候群の可能性があるということで、治療を検討します。テストステロンは低くないのに、症状はあるというケースも見られ、なかなか一概には言えないのですが、テストステロンを補充することで劇的に症状が改善されることがあります。気になる症状があるなら、LOH症候群に詳しい医療機関に相談するとよいでしょう。
テストステロンが下がる意外な原因のひとつに、年齢不相応にハードな運動があります。ジョギングでいうと月200キロメートル以上走る中高年ランナーは要注意です。月間走行距離が増えれば増えるほど、テストステロンが低下し、健康被害のリスクが高まります。ハードなトレーニングの結果、タイムは良くなったけど、貧血になった、以前より疲れやすくなった、早朝勃起(朝立ち)がなくなったなどの症状が出てきた、という男性を診察する機会が多くなりました。まずはトレーニングを少し控えめにして、テストステロンの補充を行うと比較的短期間で症状が改善されていきます。

日本泌尿器科学会ほか『加齢男性性腺機能低下症候群 LOH症候群 診療の手引き』(2007年、じほう)をもとにイミダス編集部作成
60代以降から増えてくる前立腺のトラブル
「前立腺肥大症」は高齢男性に起こる病気です。前立腺は男性にしかない生殖器で、膀胱(ぼうこう)のすぐ下にあります。なぜ高齢になると前立腺が大きくなるのか、原因はよくわかっていませんが、前立腺が大きくなることで尿道を圧迫し、尿の出が悪くなる、頻尿や残尿感などさまざまな尿トラブルを引き起こします。前立腺肥大症によって頻尿になっている場合、頻尿を改善させるための市販薬を飲んだりすると、さらに尿が出にくくなって、頻尿の症状も悪化してしまうこともあります。自己判断で薬やサプリメントに頼らず、まずは泌尿器科を受診し、原因を突き止めて、その治療をすることが先決です。
実は前立腺が大きくなっているけれども気がついていない、という人も大勢います。女性の子宮筋腫と同じで、前立腺の肥大の度合いよりも、肥大する位置によって症状の出方が変わってくるからです。前立腺が大きくなっても、尿道への影響が少ない位置での肥大なら症状は出ませんし、逆にそれほど大きくなっていなくても、尿道を非常に圧迫する形で肥大していれば、症状は強く出ます。ですから、治療するかどうかは、前立腺肥大症の有無よりも、排尿症状があって困っているかどうか、どれくらい困っているのかが基準になります。軽度〜中度では薬物療法が基本です。

医療情報科学研究所編『病気がみえる vol.8 腎・泌尿器』(2012年、メディックメディア)などをもとにイミダス編集部作成
「前立腺がん」も高齢者に多い病気で、90歳以上の男性のほとんどは前立腺がんをもっていると言われています。前立腺がんの初期は自覚症状がなく、がんが進行すると、前立腺肥大症に似た尿のトラブルや骨への転移による腰痛など痛みの症状が出てきます。
今、前立腺がんは年々増えていて、日本の男性が罹患するがんでは患者数第1位です。一方、死亡数で見ると6位に下がります。治療方法はさまざまな選択肢があり、予後が比較的良いがんでもあります。進行が遅めなので、悪性度がそれほど高くないなどのケースでは、前立腺がんと診断してもすぐに治療を開始せず、経過観察を続けるという選択をすることもあります。
前立腺がんを見つけるには、前立腺上皮細胞で産生されるPSA(前立腺特異抗原)の値を調べる血液検査を受けます。PSAの数値が高ければ前立腺がんの疑いがあるということで、前立腺生検(前立腺の組織を採取する検査)でがん細胞の有無を調べます。前立腺がんは、早期がんで治療を始めても、がんがある程度進んだ状態で見つかってから治療しても、予後はあまり変わりません(病期Ⅰ~Ⅲ期の5年生存率は100%) 。骨などに転移した状態で見つかった進行がんの場合でも、長期に生存される方が珍しくありません(病期Ⅳ期の5年生存率は63.4%)。そうしたことから、検診として毎年PSA検査を必ず受けるべきかどうかについては、専門家の間でも賛否両論があります。私自身は、50代の男性は2年に1回もしくはオプションの検査(希望する人だけが受ける検査)で、60~70代の男性は1年に1回、80代以上は2年に1回もしくはオプションの検査で受けるというぐらいでもよいのではないかと考えています。もちろん、PSAが高値の方は、もっと短い間隔で定期的に泌尿器科でPSAを調べる必要があります。
おわりに~年齢を問わず、日頃のチェックで早めの受診を
男性の外性器は日常的に自分で見たり触ったりするところですから、なんらかの異常が出たときに気づきやすいと言えます。これまで述べてきた病気のほかに、自分で気が付くことが多いものに精索静脈瘤があります。精索静脈瘤は、男性の15%に見つかるとされており、90%以上が左側に発生します。進行すると精巣周囲の静脈が拡張し、陰嚢皮膚がボコボコと腫れて見えます。男性不妊の原因の3~4割は精索静脈瘤が関係しているため、将来子どもが欲しい男性や妊活中の男性は、このような症状に気づいたら、早めに男性不妊の検査を受けることが大切です。