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性知識イミダス:性的同意について知ろう(後編)~【実践編】「聞きにくい」「言いにくい」を解消するには

イミダス編

(構成・文/加藤裕子)

 

 性的同意が大切なことは理解できても、「実際には聞けるかどうかわからない」「はっきり拒否できるか自信がない」「同意がなくてはあれもこれもやってはいけないのか」と、とまどう人もいるだろう。性的同意は必ず言葉で取らなければならないものなのか、相手を傷つけずに「イヤだ」と言う方法はあるのかなど、性的同意を実践していくために知っておきたいことを、(うしとら)香織・宇都宮大学准教授にうかがった。

【同意ってどうして必要なの?「バウンダリー」って何?「性知識イミダス:性的同意について知ろう(前編)~対等な関係性をつくるために」はこちら!】



 ――性的同意は必ず言葉で確認しなければならないのでしょうか? 言葉にしなくても雰囲気でわかることもあるのではないでしょうか?

 本当に「言葉で確認しなくてもわかる」かどうかは非常に曖昧です。「家に泊まりに来るのはセックスOKのサイン」「恋人(あるいは夫婦)なのだからセックスするのは当たり前」「パートナーに毎回キスやセックスをしていいか聞く必要はない」「ナイトクラブのような場所に来るということは性的交渉を求めているはずだから、わざわざ同意は取らなくてよい」と自分は思っていても、相手は違うかもしれませんし、時と場合によっては「したくない」こともあるでしょう。言葉でコミュニケーションを取りながら確認しなければ、自分の思い込みで相手が望んでいない言動をして、傷つけてしまう可能性もあります

 性的同意について説明するとき、上のような例を挙げて「性的同意が取れているかどうか」をチェックするリストが使われることもあります。ただ、こうしたチェックリストを単にクリアすればよいというものではありません。互いの人権やバウンダリー(自分とそれ以外の世界を分ける境界のこと。その内側は自分の心とからだの尊厳を守ることができるパーソナルスペース)を尊重するということ、対話の大切さを十分に理解しなければ、ハウツーを覚えればそれでいい、という安易な考えに陥りがちな面もあるように思います。

 ――「イヤだ」と言うのは権利だということですが、それでも好きな相手と気まずくなるのは避けたいです。上手に「イヤだ」と伝える方法はありますか。

 まず、お互いによい関係を続けたいという気持ちがあるのなら、「ノー」と言ったり言われたりしても、関係が終わるわけではないのだということを、知ってほしいと思います。

 また、性的同意に関して、「イヤならイヤだと言っていい」という働きかけは多いですが、「相手のイヤを受け入れよう」という啓発は、まだまだ少ないと感じます。若い人たちを見ていても、ノーと言われることは自分を全否定されることだという意識があるのか、一度拒絶されるとそれきりになってしまう傾向が強いようです。けれども、どんなに大好きでも相手は違う人間で、何もかも自分と同じということはありません。つまり、自分はイエスでも相手はノーということは当然起こり得ます。

 では実際にはどうすればいいのか。以前、保育士さんに研修をしたときに聞いた話が参考になると思います。園児の中に保育士さんのお尻や胸に触ってくる子がいて、その子は触ることでコミュニケーションを取って安心したいということだったらしいのですが、触られる保育士さんの方はやはりイヤなわけです。でも、単にバウンダリーを主張して「触らないで」と言うだけでは、保育士さんとコミュニケーションを取りたいというその子の気持ちの行き場がなくなってしまう。

 そこで、その保育士さんはまず「触りたいんだね」「どうして触るの?」と聞いたそうです。そうしたら「柔らかいから」「気持ちいいから」と言うので、「そうなんだ、体って面白いなと思うから触るんだね」と確認した上で、「それはわかるんだけど、私はやっぱりいろんな人に触られるのはイヤだなって思ってるんだ」とはっきり言ったそうです。でも、そこで終わらせず、「触りたい」その子と「触られたくない」自分とのズレがあるということを踏まえて、「でも手をつなぐのはいいよ」「あなたが好きな遊びを一緒にするのはいいよ」「おんぶも大丈夫だよ」と、その子のことが嫌いなわけではなくて、大事に思っているんだと確認するための違う方法を一緒に考えていったと聞きました。

 こういうやり取りは、保育士さんがその子をよく見て、気持ちをわかっていたからできたのだと思いますが、幼いときから「何か1つのことについてイヤだと言われても、自分のすべてを拒否されたわけではない」という経験をしていると、ある部分でズレがあっても良い関係を続けていけるのだということを自然と理解できるでしょう。

 好きな相手にノーと言いたいときは、「これはイヤだけどあなたが嫌いなわけじゃなくて、こういうことならいい」「今日は疲れているから、また今度にしたい」と説明すればいいし、言われた側も「じゃあ何ならOK?」「いつならいい?」と聞いていけばいいのです。そういう率直な双方向のやり取りが、性的同意に欠かせない対等で平等な人間関係につながっていくことになると言えるでしょう。

 ――日本の学校では性的同意を学ぶ機会はありますか? 世界では性的同意についてどのように教えられているのでしょうか? 

 日本の学校で使われている教科書には、「性的同意」とは何かを学習する内容はありません。教科書になくても、子どもたちの現状から「性的同意」のテーマを授業で扱っているという教員はいます。一方、性教育の国際的な到達点の一つとして、包括的に性を学ぶ、包括的教育があります。これはユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(邦訳はユネスコ編、浅井春夫ほか訳『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』〈2020年、明石書店〉)に詳しくまとめられています。ここでは8つのキーコンセプトで学ぶ包括的性教育が紹介されています。扱う内容としては、からだのことはもちろん、人権を基盤とした人間関係のつくり方、ジェンダーの問題や多様性の尊重まで幅広く、対象年齢は5歳から18歳以上ですが、大人が読んでも多くの学びを得られると思います。

ユネスコ編、浅井春夫ほか訳『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』(2020年、明石書店)を参考にイミダス編集部作成

 キーコンセプト4「暴力と安全確保」には「同意、プライバシー、からだの保全」という項目があり、5~8歳で「誰もが、自らのからだに誰が、どこに、どのようにふれることができるのかを決める権利を持っている」、9〜12歳で「望まない性的な扱われ方とは何かを知り、成長に伴うプライバシーの必要性を理解することは重要である」、12〜15歳で「プライバシーと、からだの保全の権利を誰もがもっている」「誰もが、性的な行為をするかしないかをコントロールする権利をもち、またパートナーに積極的に自分の意思を伝え、相手の同意を確認すべきである」、15〜18歳以上で「健康で、よろこびのある、パートナーとの合意したうえでの性的行動のために同意は不可欠である」「同意を認識し、同意を伝える能力に強く影響を与える要因(アルコールや薬物、ジェンダーに基づく暴力、貧困、力関係)に気づくことが重要である」という、鍵となる概念を学びます。

 また、キーコンセプト5「健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル」では「コミュニケーション、拒絶、交渉のスキル」という項目があり、やはり発達度合いに応じて、明確な意思表示が幸せな関係性の構築につながること、すべての人が自分の意見を表明する権利があること、自分の境界線を表現し他者の境界線を理解する重要性、意思を伝える効果的な方法や他者の意思表示に耳を傾け敬意を払う方法などを、知識だけではなく具体的な実践と共に学んでいきます。

 残念ながら、多くの日本の学校では、このような包括的な性教育は行われていないのが現状です。デートDV防止を目的とするビデオ観賞の際、「イヤなときははっきり言おう」などと教えられることはありますが、単にそれだけでは実際に被害に遭ったとき、「イヤと言えなかった自分が悪い」と自らを責めることにもなりかねません。ですから、「対等な関係とはなんだろう」ということを話し合ったり、自分のバウンダリーについて子どもたちに考えてもらったりすることが非常に重要です。でなければ、「性って怖い」「気をつけないと」で終わってしまうと思います。

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イミダス編

いみだすへん

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