2022年7月、女優の島田陽子さんが亡くなった。
島田さんといえば、日本人初のゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞し、その後、国内だけでなくハリウッドでも活躍。そんな大女優にふさわしからぬ報道がなされたのは、死後すぐのことだった。
「遺体の引き取り手がいない」「遺体はそのまま渋谷区の施設に安置されている」「自治体によって火葬された」——。
そうして12月21日、朝日新聞に「死後のあなた、誰が引き取りますか 島田陽子さんの最期が問いかける」という記事が掲載された。
同記事によると、島田さんは3年前に直腸癌と診断されたという。しかし、自ら遺作となる映画を企画し撮影。が、21年末の映画の試写の際には参加できず、監督らに「医療費がかさむ」とLINEがあったこともあるという。そうして22年7月25日、69歳で死去。遺体の引き取り手がなかったことから東京都渋谷区が2週間ほど遺体を保管し、8月に自治体によって火葬されたという。
このことを知った時の衝撃は今もはっきりと覚えている。あれほど活躍していた人が、そんな最期を迎えるなんて、と。彼女は癌と診断されても抗癌剤治療などもしていなかったと記事にあったが、それも治療費などの問題があったのだろうか。
その翌日、朝日新聞に別の女性の最期を伝える記事が掲載された。皇室ジャーナリストの渡辺みどりさんが9月末に亡くなったことについての記事には、遺体の引き取りや相続を親族に「放棄する」と言われたこと、終活のために10年以上前にマンションを売却したものの、そのお金はほぼ使い切っていたこと、遺体は長年付き合いのあった弁護士らによって荼毘に付されたことが書かれていた。島田さん、渡辺さんの記事はいずれも「『無縁遺骨』を追う」という連載のもの。
そうして年が明けた1月12日、信じられないニュースを目にした。それはやはり朝日新聞23年1月12日に掲載された記事。
「刑務作業の収入で、賠償してほしいけど 被害者が差し押さえ請求、最高裁認めず」というタイトル記事の内容は、ある女性から多額のお金を騙し取られたものの、全く賠償されないことに憤った男性が、女性が刑務所の中で得る「作業報奨金」の差し押さえを申し立てたという内容だったのだが、逮捕された女性についての記述を読んで驚愕した。
「生き人形」というリアルな作風で知られる人形作家というからだ。
その人形作家のことを、私は知っていた。知り合いではなく、一方的に憧れるという形でだ。
なぜなら私は20代前半、人形作家を目指して球体関節人形を作っていたから。
バイトをしながらある人形作家の教室に通って創作を続けるという形で夢を追っていた当時の私は、とにかくど貧乏だった。そんなあの頃の私にとって、彼女は「なりたい姿」をあますところなく体現していた。
人形の写真集を出せば異例の売り上げを誇り、個展を開けば多くの人が来場し、メディアからも大きな注目を集める。当時の私は彼女に対して、常に嫉妬と羨望が入り混じるような感情を持て余していた。会ったことさえないのに。
あれから、20年以上。その彼女が獄の中の人になっているというのだ。
女性は被害者の男性に「個展を開くためのお金がないんです。貸してくれませんか」と頼み、その額は数千万円にまで膨れ上がっていたという。女性は逮捕され、19年に詐欺罪で実刑判決を受け刑務所に。被害者はお金を取り戻すために裁判を起こしたが、女性には財産がないことから1円も戻らず、その果ての苦肉の策が刑務作業の報奨金の差し押さえだったというのだ。
あんなに活躍していた人が、今や刑務所で、月に数千円の作業報奨金の差し押さえを申し立てられているなんて——。
しばし言葉を失った。いや、動揺はそれからしばらく経った今も続いている。島田さん、渡辺さんに対してだってそうだ。いずれもテレビで見ている有名人で、お金の不安なんかとは無縁の日々で、彼女らを愛する人々に囲まれ、華やかな生活をしているものとばかり思っていた。
20年、渋谷のバス停で60代のホームレス女性が殺害されたことを覚えている人も多いだろう。
あの時、追悼デモには「彼女は私だ」というプラカードが登場した。私もその言葉に共感した一人だが、まさか誰もが知る有名人までもが経済的な不安を抱え、死後は自治体で火葬されるなんて。
おそらく、渋谷で殺されたホームレス女性も、島田さんと同様、渋谷区が自治体として火葬したのではないだろうか。接点のなさそうな2人の、奇妙な符合。
もうひとつ、私の心をずっとざわつかせていることがある。
それは、島田さん、渡辺さんが一人暮らしだったという事実だ。
なぜなら私も40代・独り身。経済的に頼れる人など誰もいない単身フリーランスとして生きてきた。もちろん子どももいない。両親は幸い存命だが、高齢で北海道在住。2人の弟も北海道で、ともに家庭を持つ身である。
さて、そんな「単身女性である自らの今後」について急激な不安が押し寄せた年明け、あるアンケート結果を読んだ。それは「中高年シングル女性の生活状況実態調査」2022年版。
「わくわくシニアシングルズ」(協力 : 湯澤直美/立教大学コミュニティ福祉学部・北京JAC)が22年8月4日から9月20日までに実施したアンケート調査の結果である。対象となったのは、同居している配偶者やパートナーがいない単身女性で、40歳以上のシングルで暮らす女性。独身、離婚、死別、非婚/未婚の母、夫等と別居中の方で子ども・親・祖父母・兄弟姉妹と同居している人、子ども等の扶養に入っている場合も含むという。