〈流動化する世界情勢と日本1〉米一極支配と同盟構造の崩壊
岡田充(共同通信客員論説委員)
「中国との関係改善こそ日本がとりうる唯一の選択肢です。アジアインフラ投資銀行(AIIB)に日本は参加すべきだし、軍事力を強化して対抗していくことは賢明な策とは言えません」(「朝日新聞」18年8月22日朝刊)。こう指摘するのは、中国に批判的な米国際政治学者イアン・ブレマーである。これは、軍事力で中国に対抗しようとする安倍政権の安保政策を「愚策」と批判したに等しい。
「北朝鮮の核の脅威はもうない」。トランプは18年6月の米朝首脳会談の後、こうツイートした。彼の外交政策は矛盾と疑問だらけだが、この発言は「軍事的脅威」の本質を突いている。軍事的脅威とは「意図と能力の掛け算」だ。米国が5000発近くの核兵器を保有しても(=能力)、日本を攻撃する「意図」はないと考えられるから、多くの日本人は「脅威」とはみなさない。一方、北朝鮮からすれば、核攻撃を受ける恐れがあるから米国は「脅威」なのである。重要なのは「能力」ではない。「意図」である。
同盟の核心にある「敵対関係」がなくなれば、「意図」への認識も変わる。「北朝鮮の核の脅威はもうない」というツイートは、外交で軍事的脅威を減らす「お手本」かもしれない。軍事力を強化して脅威に対抗するのは愚策である。敵対関係と脅威は外交力で変えることができる。役割を終えた同盟構造に代わって、「パートナーシップ」など「非排他的」な国際関係の構築が必要だ。
こうして振り返ると、安倍外交は100年来の地殻変動に対応できず、時代遅れの「同盟」にしがみつき、軍拡路線によって外交選択肢を狭めてきた。その結果、日本の発言力と存在感が失われていった「悪夢のような」6年でもあった。
連載第2回は、米中パワーシフトと、その核心的争点である「ハイテク経済」をめぐる対立を取り上げたい。トランプ政権は「華為」(ファーウェイ)など通信大手の排除を求めているが、安倍政権はすんなり受け入れ、排除に与しない英独との差を鮮明にした。ボーイング737MAX8の墜落事故でも同様だ。今や思考停止のまま米決定に追従する日米同盟の実相が浮き彫りになっているのである。
著者情報
共同通信客員論説委員
岡田充
おかだ たかし
1948年、北海道生まれ。1972年、慶応大学法学部卒業後、共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て2008年から現職。著書に『中国と台湾 対立と共存の両岸関係』(講談社現代新書、2003年)、『尖閣諸島問題―領土ナショナリズムの魔力』(蒼蒼社、2012年)などがある。