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ひそかに進む自衛隊の「宇宙軍事利用」

半田滋(防衛ジャーナリスト)

衛星コンステレーション構想の登場

 2021年度防衛費は5兆3422億円に達し、7年連続して過去最大を記録した。さまざまな武器の購入や自衛隊員の待遇改善にあてる項目が並ぶなかで、「衛星コンステレーション」という聞き慣れない言葉が登場している。

 具体的には「ミサイル防衛のための衛星コンステレーション活用の検討」とあり、内訳に「衛星コンステレーションによるHGV探知・追尾システムの概念検討(2億円)」と書かれている。HGVはHypersonic Glide Vehicleの略で、直訳すれば極超音速滑空兵器。新型ミサイルのことだ。関連して新型ミサイルを探知するための「高感度広帯域な赤外線検知素子の研究(12億円)」もある。

 衛星コンステレーションとは何だろうか。民間では通信ビジネスの世界で、通信状況を劇的に改善するために軌道上に衛星を配置する「通信衛星コンステレーション」の研究が始まっている。だが、軍事目的ではない。

衛星コンステレーションのイメージ(アメリカ国防高等研究計画局ウェブサイトより)

 防衛省のいう衛星コンステレーションとは、地上から500~2000キロという宇宙の低軌道に数百基もの監視衛星を打ち上げ、本来なら探知が難しい低軌道で飛来する新型ミサイルを追尾する監視衛星群のことを指す。

 弾道ミサイルの探知には、アメリカで開発されて米軍が運用し、日本の防衛省も導入したミサイル防衛システムがあり、放物線を描いて落下するミサイルの迎撃を想定する。

 だが、極超音速滑空兵器と呼ばれるロシアの新型ミサイル「アバンガルド」や中国の「DF(東風)17」は大気圏の上層部を滑空しながら、マッハ5以上の超音速で飛翔し、目標に向かって落下してくる。

 北朝鮮が2019年5月、7月、8月に発射した新型短距離弾道ミサイルも低軌道で変則的な飛行をしたことが確認されている。

 こうした新型ミサイルは水平線の向こうから突然、現れるため、地上レーダーによる探知は遅れが生じ、迎撃失敗となりかねない。

 これに対し、宇宙空間から監視する衛星コンステレーションは、発射から飛翔、落下までを漏れなく監視することができる。

 この衛星コンステレーションをめぐり、政府はアメリカと連携する方針を打ち出している。2020年6月29日、内閣府の宇宙開発戦略本部の会合が開かれ、今後10年間の日本の宇宙政策を定める「宇宙基本計画」が5年ぶりに改定された。

 アメリカ、欧州、ロシア、中国では宇宙空間を「戦闘領域」「作戦領域」とみなす動きが広がっているとし、「宇宙システムの利用なしには、現代の安全保障は成り立たない」と断定した。

 そのうえで「小型衛星コンステレーションについてアメリカとの連携を踏まえながら検討を行い、必要な措置を講ずる」とアメリカとの連携を初めて盛り込んだのである。

 

情報収集衛星から宇宙の軍事利用へ

 宇宙をめぐる政策は劇的に変化している。1969年、衆院は「宇宙の平和利用」を全会一致で採択し、自衛隊による衛星利用などを制限した。

 例外は1998年に北朝鮮が弾道ミサイル「テポドン」を発射し、東北地方上空を横断して太平洋に落ちたことをきっかけに、アメリカから提供されていた偵察衛星の画像を自前で撮影することを決め、「情報収集衛星」を打ち上げたことだろう。

 偵察衛星としなかったのは「宇宙の平和利用」の制約があるためだ。実際には情報収集衛星が撮影した画像の9割は自衛隊が活用しているといわれている。

 カメラで地上を撮影する光学衛星2基、夜間や曇天でも熱を探知して撮影できる赤外線衛星2基により、1日1回は北朝鮮の上空を通過し、ミサイル基地などの撮影ができるようになった。

 情報収集衛星の保有に伴い、防衛省敷地の一角に内閣府衛星情報センターが設立された。防衛省や警察庁から集められた約220人の職員が画像情報について調査・分析を行っている。

 アメリカは最初、日本が情報収集衛星を保有することに強く反対したが、途中から賛成に転じた。偵察衛星の技術は一朝一夕には保有できないので「自前で持てるものなら、やってみればよい」という余裕からだといわれている。

 アメリカの「KH11」「KH12」と呼ばれる偵察衛星の解像度は10センチ四方以下とされるが、日本の情報収集衛星の解像度は当初、1メートル四方程度といわれた。これでは商業衛星と変わらないので、最後はアメリカから提供される画像に頼るほかない。

 しかし、自前の衛星を持つことでアメリカから提供される情報の裏取りが可能になった。例えば、ずっと前に撮影した衛星画像を見せられ、「昨日撮影した画像だ」と説明されても、そのウソを見抜けるかもしれないからだ。

 情報収集衛星が撮影した画像はこれまで1枚も公表されていない。すべて秘密とされ、2014年に特定秘密保護法が施行されて以降はすべて「特定秘密」に指定されている。

 その後、政府は2008年に宇宙基本法を制定し、宇宙を安全保障分野で利用する道を開いた。そして昨年の宇宙基本計画の改定により、明確に宇宙を「戦場」としたのだから、安全保障政策は大転換したといえる。

 まさにスター・ウォーズの世界が現実化しようとしている。

 

「宇宙作戦隊」の発足

 防衛省は宇宙を監視するための「宇宙作戦隊」を昨年5月、航空自衛隊府中基地(東京都府中市)に発足させた。さらにロシアや中国が開発中の衛星破壊を目的とした「キラー衛星」を監視するための宇宙監視レーダーを山口県山陽小野田市に建設中だ。

「宇宙作戦隊」の隊旗授与式(航空自衛隊ウェブサイトより)

 一方、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は望遠鏡を搭載した監視衛星の打ち上げを計画しており、宇宙監視レーダーと併せて効率よく宇宙空間を監視する体制が整うことになる。今や防衛省とJAXAは相互に補完する関係にある。

 アメリカとの連携もある。すでに運用が始まり、2023年に3基の追加打ち上げが予定される測位衛星システムを搭載した準天頂衛星(日本の真上を通る)「みちびき」には、アメリカの宇宙監視機器を相乗りさせることが決まっている。

 ミサイル防衛に関しては、2006年に日米で合意した米軍再編最終報告により、自衛隊とインド太平洋軍司令部(ハワイ)や在日米軍司令部(東京都)との間で、必要に応じて「共同統合運用調整所」が開設されることになっている。

 宇宙を舞台にした「日米の一体化」は、もう始まっているのだ。

 アメリカ国防総省は、迎撃不能になりつつあるロシアや中国の新型ミサイルに対処するため、2019年3月、宇宙開発庁を新設し、最大1200基の衛星コンステレーション網を構築する計画を発表した。22年までに20基の監視衛星を打ち上げ、25年までにシステムの中核となる250基による運用開始を目指す。

 だが、使用する監視衛星の開発が難題となっている。1基数百キログラムの小型衛星になるため、寿命は約5年と短い。すると大量に生産する必要があり、1基当たり1000万ドル(約11億円)程度と安価であることが条件になっている。

 すでにノースロップ・グラマン、レイセオン、レイドス、L3ハリスの4社が衛星網の開発を受注しているが、アメリカ国防総省はこれで十分とは考えていない。

 日本の防衛省幹部は「アメリカは『衛星コンステレーションを一緒にやらないか』と協力を打診してきた。改定した宇宙基本計画とも符合するので、前向きにとらえている」という。

 高い衛星技術を持つ三菱電機、NECなどが参加できるか模索する動きもあり、日米連携の下地は整ったといえるだろう。

 問題は、衛星コンステレーションをめぐる日米連携が進めば、アメリカの戦略に組み込まれる可能性が濃厚になることだ。

 アメリカ国防総省は、衛星コンステレーション構想が発表される以前の2013年、ロシアや中国の新型ミサイルに対処するため、「統合防空ミサイル防衛(Integrated Air and Missile Defense IAMD)」構想を策定した。

 衛星コンステレーションがハードウェアだとすれば、IAMD構想はソフトウェアに当たる。いかに優れた機器であっても、そこに命を吹き込むシステムがなければ機能しない。IAMD構想はアメリカのミサイル防衛には欠かせない戦略なのだ。

著者情報

防衛ジャーナリスト

半田滋

はんだ しげる

1955年、宇都宮市生まれ。元東京新聞論説兼編集委員。獨協大学非常勤講師。法政大学兼任講師。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に『安保法制下で進む! 先制攻撃できる自衛隊―新防衛大綱・中期防がもたらすもの』(あけび書房)、『検証 自衛隊・南スーダンPKO-融解するシビリアン・コントロール』(岩波書店)、『零戦パイロットからの遺言-原田要が空から見た戦争』(講談社)、『日本は戦争をするのか-集団的自衛権と自衛隊』(岩波新書)、『僕たちの国の自衛隊に21の質問」(講談社)、『「戦地」派遣 変わる自衛隊』(岩波新書)=09年度日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞受賞、『自衛隊vs.北朝鮮』(新潮新書)などがある。

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