ひそかに進む自衛隊の「宇宙軍事利用」
半田滋(防衛ジャーナリスト)
IAMD構想は「敵のミサイル攻撃阻止のため、防衛的、攻撃的能力をすべて包括的に結集させる」としており、攻撃的能力の保有も含めている。防衛省が衛星コンステレーションの検討を進めれば、いずれIAMD構想への参加に踏み切らざるを得ない。
アメリカと連携すれば、米軍の情報をもとに自衛隊が敵基地攻撃に踏み切ったり、自衛隊の情報をもとに米軍がミサイルを発射したりする「武力行使の一体化」に踏み込むことになる。
浮上する「敵基地攻撃能力の保有」
政府は2018年に「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」を改定する際、IAMD構想への参加を検討したが、憲法上の問題が浮上するとして見合わせた過去がある。
だが、わずか2年の間に国内状況は大きく変化した。昨年6月、推進装置「ブースター」の落下問題をきっかけに、防衛省が秋田市と山口県萩市に配備する予定だった地対空迎撃システム「イージス・アショア」の導入を断念したのと引き換えに「敵基地攻撃能力の保有」が急浮上した。「守れないなら攻めろ」というわけだ。
そして昨年9月、当時の安倍晋三首相は「イージス・アショアの代替策」と「敵基地攻撃能力の保有」の検討を求める談話を残して、退任。「安倍政権の継承」を明言する菅義偉首相は12月の閣議で「イージス・システム搭載艦2隻」の建造を決めた。
「敵基地攻撃能力の保有」については、「抑止力の強化」と言い換えて「引き続き政府において検討を行う」として留保する一方、敵基地攻撃に転用できる「12式地対艦誘導弾能力向上型の開発」を決定した。
政策決定を先送りしつつ、長射程ミサイルは開発するという、一見、ちぐはぐな対応により、「敵基地攻撃能力の保有」はなし崩しのうちに実現する可能性が高まった。
その意味ではアメリカの衛星コンステレーション計画への参加もIAMD構想への「巻き込まれ」が既成事実となって、やはり「敵基地攻撃能力の保有」につながっていくのではないだろうか。
2021年度防衛費には、先の閣議決定を反映して「12式地対艦誘導弾能力向上型の開発(335億円)」が計上されている。

12式地対艦誘導弾(陸上自衛隊ウェブサイトより)
現在、百数十キロとされる射程は報道によると1000キロ以上に延長され、敵基地攻撃に転用できる。護衛艦や戦闘機から発射できるようファミリー化したうえ、レーダーに映りにくいステルス化を進める。交戦相手にとって脅威となるのは間違いない。
これまで防衛省は航空自衛隊のF35戦闘機から発射する射程500キロの長射程ミサイル「JSM」をノルウェーから輸入。またF15戦闘機から発射する射程900キロの「JASSM(ジャズム)」と「LRASM(ロラズム)」もアメリカから輸入することを決めている。
これらのミサイルを戦闘機に搭載して日本海上空から発射すれば北朝鮮まで届き、東シナ海上空から発射すれば中国まで届く。まさに敵基地攻撃の要となる武器類といえる。

空対地ミサイル「JASSM(ジャズム)」(米空軍ウェブサイトより)
「宇宙の平和利用」は過去の遺物に
防衛省は今回の12式地対艦誘導弾のほかにも3種類の長射程ミサイルの開発を進めている。
装備化が決まっているのは、離島に上陸した敵部隊を遠方から攻撃するための「島嶼防衛用高速滑空弾」だ。
自衛隊初の地対地ミサイルで、防衛省は「他国に脅威を与えないため射程は400キロ程度にする」と説明しているが、わが国はロケット大国でもある。射程を延ばすのは、そう難しくない。
宇宙と大気圏の境目を超音速で飛翔し、最後は変則的な飛び方をして目標に落下する。その飛び方はロシアや中国の新型ミサイルにそっくりだ。防衛省は早期配備型を2026年度ごろに、能力向上型を28年度以降に配備する予定でいる。
実は防衛省が防衛庁だった2004年、同じ性能のミサイル研究を次期の「中期防衛力整備計画」(2005~09年度)に盛り込もうとしたことがある。
与党の安全保障プロジェクトチームへ説明する中で、防衛庁は「離島を侵攻された場合の反撃用で、射程は300キロ以内。他国の領土には届かず、攻撃的な兵器ではない」と理解を求めた。
これに対し、公明党の議員から「あまりにも唐突だ」「日本の技術をもってすれば射程を延ばすのは簡単で、近隣国に届くものにできる」との批判が噴出して了承されず、削除したいきさつがある。
「島嶼防衛用高速滑空弾」の開発にあたり、防衛省は自民党に続いて公明党にも説明をしたが、特に異論は出なかった。15年余のうちに公明党の軸足が動いたと考えるほかない。周辺国をみれば、武器の高性能化はやむなしというのだろうか。
もはや「宇宙の平和利用」は過去の遺物になろうとしている。専守防衛の歯止めなど、どこにもないかのようである。
著者情報
防衛ジャーナリスト
半田滋
はんだ しげる
1955年、宇都宮市生まれ。元東京新聞論説兼編集委員。獨協大学非常勤講師。法政大学兼任講師。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に『安保法制下で進む! 先制攻撃できる自衛隊―新防衛大綱・中期防がもたらすもの』(あけび書房)、『検証 自衛隊・南スーダンPKO-融解するシビリアン・コントロール』(岩波書店)、『零戦パイロットからの遺言-原田要が空から見た戦争』(講談社)、『日本は戦争をするのか-集団的自衛権と自衛隊』(岩波新書)、『僕たちの国の自衛隊に21の質問」(講談社)、『「戦地」派遣 変わる自衛隊』(岩波新書)=09年度日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞受賞、『自衛隊vs.北朝鮮』(新潮新書)などがある。