刑務所が最後のセーフティーネットになっている!
山本譲司(作家・NPO法人ライフサポートネットワーク理事長)
さい銭箱から150円を盗むのは、確かに犯罪行為だ。とはいえ、軽微な罪を犯した知的障害者を、福祉ではなく、いちいち刑事司法のルートに乗せて刑務所に送り込むことが、税金の使われ方として本当に適切だろうか。なにせ受刑者一人を収容するのに、年間300万円ものコストがかかるのだ。
そうした思いから私は、2006年、厚生労働省と法務省に働きかけ、「虞犯・触法等の障害者の域生活支援に関する研究」(07年より「罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究」に改称)という研究班を立ち上げた。そして、その研究班の提言によって、09年から、累犯障害者への支援は大きく動き出すことになる。
たとえば、全国の刑務所にソーシャルワーカーを配置し、また、各都道府県に一カ所ずつ、「地域生活定着支援センター」を設置するに至った。このセンターが、矯正施設と福祉とをつなぐコーディネート機関としての役割を果たすのだ。しかしそれでも、まだまだ多くの課題がある。
これまで私は、「刑務所が福祉施設化している」ことを訴えてきた。だが今は、「福祉施設の刑務所化」を防がなければならない、とも考えている。
私は現在、国と民間企業が共同で設立したPFI刑務所の運営に、民間の立場で携わっているが、地域生活定着支援センターができて以降も、非常に悩ましいことがある。障害のある受刑者に、センターを通して福祉の支援を受けてもらおうとしても、当の本人がそれを断ってくるのだ。特に、かつて福祉の支援を受けていた人ほど、その傾向が強い。
彼らの意見を集約し、その言わんとしていることを解釈すると、それは、「福祉には自由がない」ということになる。「福祉施設に世話になったら、もう“無期懲役”だ」「福祉に行くと、一本のレールの上に乗せられてしまう」「すべて職員に自分のことを決められてしまい、それに従わないと、かわいくない人と言われる」など、そんな発言を頻繁に耳にするのだ。
冒頭に紹介したAさんも、こう言う。
「今行ってる福祉作業所は、刑務所とあんまり変わんない。それに、外に出るとみんな変な目でボクを見るし、刑務所のほうがずっといいような気がする」
どうか福祉関係者には、こうした言葉を肝に銘じ、福祉のあり方というものを考え直してほしいと願う。
まず変わるべきは、罪を犯した障害者のほうではなく、福祉に関わる人たちの意識、そして地域社会の意識なのかもしれない。
著者情報
作家・NPO法人ライフサポートネットワーク理事長
山本譲司
やまもと じょうじ
1962年、北海道生まれ。早稲田大学教育学部卒業。85年から菅直人衆議院議員の公設秘書を務め、89年、都議会議員選挙に当選(2期)。96年、衆議院総選挙に当選。2期目の当選を果たした2000年9月、政策秘書給与の流用事件で逮捕。翌年、懲役1年6カ月の一審判決に従い服役。出所後に獄中の体験を著した「獄窓記」(03年、ポプラ社)で第3回「新潮ドキュメント賞」を受賞。その他の著書に「累犯障害者」(06年、新潮社)、「覚醒」(12年、光文社)など。現在は作家活動のほか、更生保護法人やNPO法人の役員などを務める。