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社会問題

水のPFAS汚染は「沖縄の問題」にとどまらない

『ウナイ 透明な闇 PFAS汚染に立ち向かう』平良いずみ監督インタビュー

平良いずみ(ジャーナリスト)

(構成・文/仲藤里美)

平良 化学物質と健康被害との因果関係を科学的に証明するには半世紀かかるともいわれていて、日本政府は今も「国内ではPFASによる健康被害は確認されていない」と主張しています。でもそれでは、「有害な可能性がある」ものが子どもの体に入っていくのを手をこまねいて見ているのか、という話になってしまいますよね。そこで、イタリアだけでなく多くの国々は、いわゆる「予防原則(化学物質などが人の健康などに深刻な影響を及ぼす可能性がある場合は、科学的な因果関係が十分に証明されていなくても未然防止のための措置を講じるべきだとする考え方)」に基づいて規制の厳格化に舵を切っているんです。
 しかも、イタリアである科学者に取材したときには、「PFASに関してはどんどん各地で因果関係が立証されてきていて、もう予防原則なんていう段階ではないよ」と言われました。いかに日本がガラパゴス化しているかということだと思います。

――なぜ日本はそこまで規制に後ろ向きなのでしょう。

平良 やっぱり、経済優先の傾向が強いということだと思います。EUが水道水のPFAS基準値を厳格化する際にパブリックコメントを実施したのですが、そこには海外からも多くの意見が寄せられ、日本からは圧倒的に「反対」の意見が多かったそうです。

――規制を厳しくすると経済的なダメージが大きいから、ということでしょうか。

平良 そうです。PFASは、たとえば半導体製造にも使われているので、規制が厳しくなったら代替物質を使わなくてはならなくなる。人の命や健康よりも、そうした経済的なメリットが優先されるのが日本の現状なんだと思います。
 ヨーロッパなどではそういうときに、環境に影響を与えない代替物質を開発するための研究に投資が行われたり、ビジネスチャンスに絡めた前向きな動きが出てくることも多いようです。でも、日本では既得権のようなものが大きいからなのか、そうしたこともなかなか起こってこないですね。

あきらめるよりも、声をあげよう

――タイトルの「ウナイ」は沖縄のことばで「姉妹」の意味だそうですが、たしかに映画に登場する、PFAS汚染と闘う人たちの大半が女性ですね。

平良 今はもう、男性・女性で括る時代ではないというのは重々承知しています。でも、実際に取材してみると、日本でも世界でもこの問題に対して声をあげているのは圧倒的に女性が多かったんですね。
 それは裏を返せば、軍事や経済ばかりが優先されがちなこの社会構造に男性はどうしても取り込まれてしまっていて、声をあげづらいということ。そういう社会だということがここで浮き彫りになっているんじゃないかと感じました。だから、この映画には男性たちに向けた「目を覚ませ、命や人権以上に大事なものなんてないよ」というメッセージも込めているんです。

――福島第一原発事故の後、放射能汚染の問題に対して立ち上がったのも女性が多かったように思います。

平良 女性はもちろん「産む性」だということもあるでしょうし、社会構造やしがらみにとらわれず「まずは命が大事でしょう」とはっきり言える自由さがある気がしますね。それを強みにして、「ウナイ」パワーで少しでもこの状況を変えていけたらいいなと思っています。

――PFAS汚染について少し知れば「おかしいよね、なんとかしなきゃ」と思う人は多いのではないでしょうか。

平良 はい。少しでも「何かおかしいことが起きている」と気付いて、調べて、行動を起こす第一歩にしてほしいというのが、この映画を作った最大の目的です。これだけ未曾有の汚染問題ですから、知れば知るほど無力感を抱くこともあるかもしれませんが、問題に立ち向かう女性たちの姿からは、「私たちは無力じゃない」ということをきっと感じてもらえると思います。「あきらめるより、声をあげましょう」と言いたいですね。

――ちなみに、監督は沖縄のご出身ですね。2024年にはテレビ局を退職、制作会社を設立されましたが、今後も沖縄の問題を追いかけていかれるのでしょうか。

平良 そうですね。こういう言い方はおこがましいかもしれませんが、もともと私は「沖縄のこと」をやるためにこの仕事をしてきたようなところがあります。沖縄は、「自分たちが声をあげないと人権がないがしろにされる」という感覚が、脈々と受け継がれている場所だと思うんです。おかしいと思うこと、嫌なことがあったら市民がちゃんと声をあげてアクションを起こす。その姿を追いかけて物語を紡いでいけるのは、メディアとしてもとても幸せなことだと感じるし、今後もそこにこだわり続けたいと思っています。

8/16(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開

著者情報

ジャーナリスト

平良いずみ

たいら いずみ

1977年沖縄県生まれ。琉球大学法文学部卒業。沖縄テレビ放送(OTV)で医療・福祉・基地問題などをテーマに多数のドキュメンタリー番組を手がける。
『どこへ行く、島の救急ヘリ』(2011年)、『まちかんてぃ』(2015年)、『菜の花の沖縄日記』(2018年)、『水どぅ宝』(2022年)で民間放送連盟賞テレビ報道部門優秀賞。基地問題を扱った『菜の花の沖縄日記』は第38回「『地方の時代』映像祭」でグランプリを受賞し、再編集のうえ『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』(2020年)として映画化された。
2025年8月、映画『ウナイ 透明な闇 PFAS汚染に立ち向かう』を公開。

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