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「災害食」の専門家に訊きました(後編)~「普通の食事」が食べられない人は、避難所などでどうしたらいいですか?

須藤紀子(お茶の水女子大学教授)

(構成・文/加藤裕子)

炊き出しでの要配慮者対応は可能なのか

 ――避難所での食事といえば、支援団体等が行う炊き出しもあります。炊き出しでは、要配慮者への食事対応ができているのでしょうか。

 人手と食料が不足する避難所では通常の食事を3回提供するだけでも大変な作業です。また、避難所は出入りが激しいため人数把握が難しく、「食材が何人分必要なのか」という基本的な情報すら、なかなか把握できません。結論から言えば、非常に混乱した状況において要配慮者対応までは手が回らないのが現実です。
 実際にどのような要配慮者対応を行なった経験があるか、陸上自衛隊や日本赤十字社、NPOなど6つの団体に聞き取り調査をしたところ、下の図のようになりました。

 要配慮者対応ができない理由は「対応する余裕がない」「手間がかかる」「調理工程が煩雑になる」に加え、「渡す人と盛り付ける人が別」という答えも挙がっていました。炊き出しでは盛り付けたものをどんどん並べていき、それを各自が持っていく形式が多いのですが、その状況で、「食べられない食材を抜いてほしい」「量を少なめにしてほしい」と言われても難しいのです。最も緊急度が高いアレルギー患者についても、アレルギー食材が入っているかどうかは「自分で判断してほしい」という声が挙がっていました。
 避難所では支援団体だけでなく、被災者自らが料理をすることもありますが、こういった状況はおおむね同じだと思います。

 ――とはいえ、特にアレルギーは命にかかわります。炊き出しの場でもできることはありますか。

 炊き出しの食事に何が入っているのか、材料表示という「情報」があれば、アレルギー患者も自分で判断することができます。ただし、単に「卵・牛乳・小麦は使っていません」といった書き方ではアレルギー患者にとって不十分です。たとえば添加物等にアレルゲンが含まれている場合もありますから、炊き出しに関わる人は、「この食材と調味料を使いました」と明記した紙を料理のそばに掲示してください。調味料や加工食品を使用する場合はそこに食品ラベルのコピーを貼れば、より判断しやすくなります。

 調理器具にも注意が必要です。避難所ではよく牛乳パックを開いてまな板代わりに使いますが、少しでも成分が残っていると乳製品アレルギーの症状を引き起こすことがあります。まな板にするならお茶のパックがよいでしょう。
 また、食物アレルギーは食べるだけではなく吸ったり触れたりするだけでも症状が出ることがあります。きな粉や小麦粉のような空気中に飛散しやすい食材を使わない、エプロンにアレルゲンが付着しないようにする、アレルゲンの食材が入っていた袋を工作などに使わない、など、炊き出しに関わる人には多くの配慮が求められます。

特別な食のニーズにどう対応するべきか

 ――材料表示は、ムスリムやベジタリアン、ヴィーガン(動物由来のものを摂取・使用しないライフスタイルをとる人)など、病気や体質以外で特別な食のニーズを持つ人にも役立つでしょうか。

 ないよりはマシだと思いますが、効果は限定的でしょう。たとえば豚肉を食べることを禁忌とするイスラム教の戒律では豚由来の酵素や添加物もNGですが、食品ラベルの情報だけではそこまでわかりません。オレンジジュースを例にとると、酵素やビタミンCに豚由来の成分が使われていないかも調べなければいけません。ハラール認証のマークがついているジュースであれば、そうした条件がクリアされています。
 現時点では、避難所ではムスリムやベジタリアン対応は基本難しいと考え、それらのニーズを持つ人は自分で災害食を準備しておくことをお勧めします。しかし、今後、特にムスリムの住民が多い自治体などでは、ハラール認証も受けた日本災害食認証食品を備蓄しておくことも必要になってくると思います。また、住民に限らず、外国からの観光客、ビジネスパーソンが増えていることを考えれば、多くの自治体で、外国人被災者のための備えや多言語表示を考えなければならなくなるでしょう。
 なお、私が知る限り、海外でも病気や体質以外の要配慮者への対応をしている支援団体は少ないようです。参考にしたいのは前編で紹介した台湾の仏教系慈善団体「慈済基金会(Tzu Chi Foundation)」で、普段から奉仕活動で「素食」という台湾のベジタリアン食を提供していたため、素食弁当を被災者にすぐ配布できたそうです。平時からスキルやマンパワーを鍛えていれば、要配慮者対応も可能になるという好例です。

著者情報

お茶の水女子大学教授

須藤紀子

すどう・のりこ

お茶の水女子大学生活科学部食物栄養学科教授。日本災害食学会副会長・理事。日本栄養改善学会評議員。日本栄養士会災害支援チーム(JDA-DAT)リーダー。博士(保健学)。著書に『ストーリーでわかる 災害時の食支援Q&A 基礎から給食施設・被災地の対応まで』(共著、建帛社、2020年)、『国際栄養学 グローバルな栄養課題とその対策』(共編著、建帛社、2024年)などがある。

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