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連載

コロナ禍のロヒンギャ難民キャンプで懸念される問題とは

第19回

木村元彦(ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト)

 ラツィアは喫緊で取り組むべき問題として法の整備を挙げた。
「まずDVを取り締まる法律がありません。キャンプ内を司る行政機関(CIC)は、バングラデシュ国内行政とは管轄が違うので、必ずしも法律が同じではないのです。いわゆる『名誉殺人』、男性が一族の女性に対し殺人を犯しても処罰はゆるいことがあります。私は弁護士として、法律が制定できないか模索しています」ラツィアは法制化について働きかけると同時に、キャンプの中で女性のコミュニティを作ろうとしているという。

日本政府とミャンマーの関係

 ロヒンギャ難民キャンプは、コロナによってこれまで以上の危機にさらされている。しかし、日本政府は世界で最も迫害されている民族と呼称されるロヒンギャに対し、冷淡すぎる姿勢を崩さない。

 ここで明らかにしておきたいのだが、ロヒンギャを迫害するミャンマー政府と、それを黙認する日本政府の間には、強固な利権関係が存在する。466億円をかけたアベノマスクの受注最高額(54億8000万円)で一躍有名になった医療品メーカー「興和」の工場はミャンマーにある。「日本ミャンマー協会」の最高顧問は麻生太郎副総理であり、このコロナ危機で国難までもマスク受注という利権に結びつけていることが浮き彫りになった格好だ。

 ロヒンギャの人々が今、パンデミックによる大きな犠牲者になろうとしているのは、そもそもが、バングラデシュの難民キャンプに追われたことが原因である。追い出したのは誰か、という問いは常に投げかけなければならない。人権を担当する国連の第三委員会で欧米ならびに中東各国が再三再四、ロヒンギャに対するジェノサイドを問題視し、ミャンマー政府に迫害を止めるように勧告しているにもかかわらず、日本政府が一貫して無視しているのは、中国政府同様にこのミャンマー利権に固執しているからだと言われている。

 在ミャンマー日本大使の丸山市郎大使は昨年「ミャンマー軍は大量虐殺に関与していない」と発言しただけではなく、こともあろうにロヒンギャを「ベンガル人」と言い放った。これは、「ロヒンギャはインドからやってきた違法移民」というプロパガンダの元に迫害を繰り返すミャンマー政府の主張をそのまま代弁しており、軍事独裁に対する矜持なき最大限の諂(へつら)いである。と同時にロヒンギャをさらなる窮地に追い込む度し難い差別煽動発言でもある。ミャンマー西部ラカイン州に19世紀からロヒンギャが定住していた事実は、すでに明らかにされている。フェイクニュースの拡散と歴史修正に、日本の大使が加担しいわば官製のヘイトスピーチを撒き散らしたことを意味する。丸山大使がこれを撤回し、謝罪しない限り、何年かのち、ロヒンギャ迫害の真実が明るみに出たとき、未来永劫、日本外交の汚点としてその名前は語り継がれていくことだろう。ロヒンギャの悲劇については、河野太郎防衛大臣も笹川陽平ミャンマー国民和解日本政府代表もラカイン州の現場を視察しているにもかかわらず、見て見ぬふり、沈黙を続けている。日本政府はロヒンギャを見殺しにし続けるつもりなのか。

 

著者情報

ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト

木村元彦

きむら ゆきひこ

1962年、愛知県生まれ。中央大学卒業。東欧やアジアを中心に、スポーツ文化や民族問題などの取材、執筆活動を続ける。著書に『誇り』(98年、東京新聞出版局)、『悪者見参』(2000年、集英社)、『終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ』(05年、集英社新書)、『蹴る群れ』(07年、講談社)、『社長・溝畑宏の天国と地獄』(10年、集英社)、『争うは本意ならねど』(11年、集英社インターナショナル)、『徳は孤ならず』(16年、集英社)、『橋を架ける者たち』(16年、集英社新書)、『無冠、されど至強』(17年、ころから)、『コソボ 苦闘する親米国家 ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う』(23年、集英社インターナショナル)など多数。『オシムの言葉』(05年、集英社インターナショナル)で第16回ミズノ・スポーツライター賞を受賞。

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