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【和の心 暦と行事】落ち鮎

神無月(10月)

知っていますか? 日本の四季と暮らしが生んだ、暦やしきたりを紹介。

 日本の代表的な川魚、鮎アユ。秋、川に生まれ稚魚期を海で過ごし、春先、再び川に戻り、大群となって急流を遡さかのぼる。夏場に一気に成長し、秋、日が短くなるにつれて産卵期に入り、下流の産卵場に向かう「落ち鮎」、「下り鮎」となる。そして、産卵後は「さび鮎」と呼ばれる黒い魚体となって、大半がそこで寿命を終える。その間、1年。「年魚」とも表記される所以である。

 珪藻けいそうを好み、ゆえに肉に香気があるところから、「香魚」とも表記される。最大体長30cm。夏から秋の「落ち鮎」期にかけて、姿、色ともに美しい。鮎の捕り方としては、友釣り、どぶ釣りなど釣り竿によるもの、あるいは鵜う飼い漁などが思い浮かぶ。しかし、秋の落ち鮎に関しては「簗やな漁」ということになるだろう。

 簗漁は「古事記」「日本書紀」にも記述が見える、我が国古来の漁法。ある程度の川幅を持つ河川流域では、各地に存続している。方法は、川の流れの河原寄りのところに、人間が数人乗っても大丈夫なような木や竹の簀子すのこを設置する。これの下流側をやや高く持ち上げ、流れをせき止める形で落ち鮎がその上に乗るのを待つ。そして、鮎が簗に入れば簀子がフィルターになって水は流れていき、魚体のみが残るという仕掛けである。「観光簗場」といって、捕れたてを食べさせる施設も各地にあり、夏の鵜飼いと同様、季節の詩情を誘う伝統的漁法として親しまれている。

 鮎料理の中でも、落ち鮎、つまり子持ち鮎は特に賞味される。料理法では、やはり塩焼きの熱々を蓼酢たですで食べるのが一番、という人が多い。他にも田楽や甘露煮、背越し、鮎飯など人気献立がそろう食材である。

 秋の代表的な季題として俳句にも多く詠よまれているが、料理同様に好みがあり、現代を代表する俳人が同じ「落ち鮎」を詠んで次のように違うのも面白い。

「落ち鮎の宿の灯ともりそめし頃」  稲畑汀子

「男根は落ち鮎のごと垂れにけり」  金子兜太

2007/11/02

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著者情報

谷村鯛夢

たにむら たいむ

1949年生まれ。同志社大学文学部卒。「婦人画報」「25ansウエディング」「トランタン」などの女性誌の編集者、編集長、テレビコメンテーターを経て、現在、出版プロデューサー、コラムニスト。俳句集団「粗々会」同人、俳句誌「炎環」「馬酔木」会員。

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