防衛費倍増は何が問題なのか? 財政民主主義から考える3つの懸念点
掛貝祐太(茨城大学講師)
最後に、後年度負担の問題である。兵器購入の支払いについては、単年度で買い切ることが難しく、「ローン」のような買い方(「後年度負担」)を行うことも多い。「防衛力整備計画」では、計画が定める5年間(2023~2027年度)のあと、つまり2028年度以降に、この「ローン」の支払い等に16.5兆円かかることになっている。財政学の原則論からすれば、政権として一時の信任を得ているにすぎない政党が、はるか先の年度の予算まで決めてしまうことは望ましくなく、財政は年度ごとに決定するべきである(「会計年度独立の原則」という)。
長くなったが、防衛関連費予算の「決め方」をめぐっては、「マクロ・バジェッティング」による“どんぶり勘定” “アカウンタビリティの欠如” “見えにくい部分での歳出拡大”(①NATO基準との乖離、②基金の新設、③後年度負担)という重大な三つの問題がある。しかし政府は、これらの問題についての議論をしないまま、「もう決まった使い方なのだから、どこで増税するか」と先に進めようとしている。
与党内でも意見が対立する増税問題
首相は、先述の記者会見での、「決め方」のプロセスに問題はなかったか、という問いに、財源についても、与党の税制調査会において議論し、結論を大綱にまとめ、それに基づいて閣議決定を行ったと答えている。
しかしながら、防衛費のための増税について検討したこの与党税制調査会でも、自民党議員の中ですらはっきりとしたコンセンサスが得られたというわけではない。与党税制調査会では、防衛費倍増による財源確保のための増税手段として、以下が提案された。
- ① 法人税は納税額に4~4.5%(未定)を一律に上乗せ(ただし中小企業への負担軽減策あり)
- ② たばこ税は1本あたり3円増税
- ③ 所得税のうち、東日本大震災からの復興予算にあてる「復興特別所得税」(通常の所得税額の2.1%)の半分弱(1%)をあてる
なお、③の復興特別所得税の流用による減額が、当初予定されていた復興予算の総額に影響しないように、復興特別所得税の徴収期間を最長13年間(2050年まで)延長するとしている。これも、先述の会計年度独立の原則にはもとる。
このような案が示されつつも、〈法人税をどれだけ上げるのか〉〈そもそもいつ開始するのか〉については、ぼやかしたままの決定となった。とりわけ、経済への影響を懸念した経済右派の議員や、安倍派の議員とその点のコンセンサスをはかるのが難しく、お茶をにごさざるを得なかったわけである。最終的には、与党税制調査会のトップの宮沢洋一議員に一任する形で、何とか一応の決着に至った。首相は財源の検討プロセスについて、与党税制調査会で十分に検討し問題はないとしていたが、党内の足並みが揃っているとはとても思えない。
国民の意思を度外視して平和に結びつくのか
とはいえ、そもそも与党の派閥内の調整に「合意」を委ねて、国民は「密室」で決まった決定をあとから「理解」するだけで、本当にいいのだろうか。もし、あなたが「とはいえ、軍事は難しいし、専門家や政治家に任せた方がいいのでは……?」と思っているなら、ぜひ、考えなおしてほしい。
筆者が研究対象とする、永世中立国・半直接民主制のスイスでは、軍事のような専門的なことについても、国民の意思が直接反映される。2019年には、最大30機の戦闘機購入に約60億フラン(当時のレートで約0.66兆円)をかけることが議会で決まり、翌2020年に、国民投票でその是非が問われた。軍事費の規模については、スイスは1990年から2019年の30年間で、GDP比1.34%から0.67%へと縮小していた。ところが、ロシア・ウクライナ情勢の緊迫により、2030年までに対GDP比1%水準まで引き上げることが2022年に決定されたところである。
無論、スイスと日本の様々な条件の違いは考慮しなくてはならない。しかし、政府主導でマクロ・バジェッティング的に軍事費を高くすることが安全保障に繋がり、そこで国民の意思を度外視することが平和に本当に結びつくのだろうか?
選挙で防衛増税を争点化するべきだ、とする意見も野党からあがる。しかしながら、検討プロセスが不透明なままでは、もし選挙で与党が勝ったとしても、本当に防衛増税についての「民意」を得たと言えるのだろうか。政府はできる限り透明性を高め、国民が「理解」できるように議論の土台を提供すべきだ。そして、財政の数字に基づき、国民が議論や異論を唱えだすことは、財政民主主義を私たちの手元に捉え直す第一歩である。
著者情報
茨城大学講師
掛貝祐太
かけがい ゆうた
1992年生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。専門は財政学。日本学術振興会特別研究員、慶應義塾大学助教(有期)などを経て、2020年より現職。