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ニュー菅政権が直面する厳しい試練

臨時国会で首相の手腕が試されている

井芹浩文(共同通信元論説委員長)

 不思議な代表選挙だった。そもそも今、党内を二分する勢力争いをしている場合だったのか。終わってみれば選挙に強いという「小沢神話」は通用せず、菅直人首相の圧勝で終わった。選挙前と選挙後の大きな違いは菅内閣支持率の大幅な上昇だ。参議院選挙でよれよれになっていた菅首相の求心力が回復したことは確かだ。でも、「衆参ねじれ」国会など周囲の状況にはなんら変化がない。決して「政権力」が強まったわけではなく、厳しい試練が待ち受ける状況は変わらないのだ。

党内融和には程遠い改造人事

 民主党代表選は8年ぶりに本来の党員・サポーター参加のポイント制で実施された。2010年9月14日投開票の結果は、菅直人721ポイント、小沢一郎491ポイント。国会議員票ではほぼ互角だったものの、党員・サポーター票で5倍の大差がついた。これは事前の世論調査の数値に近い。一般国民の意識と党員の意識にさほど差がなかったわけだ。
 これを受けて党役員人事と内閣改造が行われた。党の要である幹事長については当初、菅サイドにも小沢サイドにも属さない川端達夫で調整したが、固辞されたため、代表・幹事長の経験のある岡田克也にお鉢が回ってきた。岡田氏は「起訴の可能性のある方が代表、首相になるのには違和感を感じる」と述べるなど“反小沢”色が強い。
 内閣改造でも“反小沢”の急先鋒・仙谷由人官房長官の留任が早々と決まった。小沢グループに属する議員からの閣僚起用はなく、小沢支持だった中から海江田万里ら3人が起用されただけ。副大臣・政務官人事では小沢グループへの配慮を示したものの、「党内融和」には程遠い。
 今後、菅政権が立ち往生するたびに「党内野党」となった小沢グループの出方次第で政局が動揺する可能性がある。

「弱腰外交」との厳しい批判

 再スタートを切った菅政権が早速、直面する難問は円高対策尖閣問題だ。
 小沢氏が代表選中に為替介入に積極発言をしたのに対して、菅首相は介入に慎重と見られていた。ところが財務省は代表選の翌9月15日、為替市場へのサプライズ介入を実施。82円台だったのを85円台まで円安に誘導した。経済界からは歓迎されたが、欧米からの批判は強い。
 海上保安庁が尖閣海域で中国船船長を逮捕したのは代表選真っ最中の9月8日。このため日本側の動きは緩慢で、その間に中国側は態度を硬化させ、交流の停止から温家宝首相による船長釈放要求にエスカレートした。主権問題が絡むだけにハンドリングを誤ると将来に禍根を残しかねない。勾留期限を待たずに船長を釈放したため、「弱腰外交」との厳しい批判が出ており、「菅外交」は再スタート早々に烈風にさらされている。

公約の補正予算案は通せるか

 もっと大きな試練は秋の臨時国会だ。召集日は二転三転して10月1日となった。野党が一致して「早期召集」を要求したため、押し切られた。衆議院では多数を握るが、参議院では与党少数という厳しい現実が早くも姿を現した形だ。
 代表選を通じて菅首相が公約した政策の一つが「補正予算」の編成。小沢氏が広げて見せた大風呂敷ほどではないが、数兆円規模の補正予算を組む。予備費に加えて剰余金、国庫債務負担行為などで2兆7000億円程度は捻出できそうだが、これで十分な景気対策と言えるかどうか。さりとて補正予算額を大きくするには財源がないというジレンマがある。
ねじれ国会」の中で補正予算案を通せるかが試金石となる。1日の所信表明演説でも補正予算の成立を「最大の課題」とした。民主党としては野党との「部分連合」に望みをつなぎ、補正予算案についても事前に自由民主党と話し合いたいとしているものの、財源論で自民党は「子ども手当の廃止」を主張しており、そう簡単に妥協案ができるとは思われない。

胸突き八丁の政権運営

 次に本予算の編成が難題だ。特に財源不足は悩ましい。10月下旬から11月には事業仕分け第3弾として特別会計に切り込むが、何兆円単位の財源が出てくるわけではない。概算要求を締め切った際に設けたl兆円超の「元気な日本復活特別枠」に対する争奪戦も激化しよう。マニフェストの一部断念や方針変更に取り組まざるを得ないが、そうなると野党や世論からは反発を食いそうだ。それをはね返せるだけの指導力を発揮できるか。十分な説明責任を果たせるかが問われる。
 さらに通常国会では、予算案そのものは憲法の規定で衆院可決だけで押し切れるが、予算関連法案はそうは行かない。例えば現行の子ども手当法は1年の時限立法なので、11年度も支給するためには新法が必要だ。自民党は当然、民主党の看板政策だからつぶしにかかる。ちょうど08年のガソリン税の暫定税率の租税特別措置法と同じ位置付けになる。通らなければ政権は行き詰まるわけで、ご都合主義の「部分連合」で乗り切れるか未知数。胸突き八丁の厳しい政権運営がしばらく続きそうだ。

著者情報

共同通信元論説委員長

井芹浩文

いせり ひろふみ

1947年生まれ。東京大学法学部卒。共同通信社政治部記者、ワシントン特派員、総合選挙センター長、論説委員長を歴任。2007年4月から崇城大学教授。著書に『アメリカの宇宙戦略』(1986年、教育社)、『派閥再編成』(1988年、中公新書)、『総理のリーダー術』(1998年、全日法規)、『憲法改正試案集』(2008年、集英社新書)などがある。

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