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「敵基地攻撃能力保有」でミサイルは阻止できるのか

布施祐仁(ジャーナリスト)

 では、北朝鮮のミサイル攻撃を「阻止」するために、日本は何をすればいいのか。

 繰り返しになるが、朝鮮半島で戦争が始まってしまえば、日本へのミサイル攻撃を完全に阻止することは困難である。ならば、戦争の発生を未然に防ぐしかない。

 そのためには、一つは、アメリカに対して先制攻撃を行わないように働きかけることである。アメリカが空爆などの戦闘作戦行動に在日米軍基地を使用する場合には、日本との「事前協議」が義務づけられており、日本政府には「ノー」と言う権限もある。アメリカは、1994年の「第一次核危機」の時も北朝鮮への先制攻撃を検討したが、韓国の金泳三大統領(当時)が強く反対したため攻撃は実行されなかった。日本も先制攻撃には「ノー」と言うべきである。

 もう一つは、戦争の火種となる問題を取り除くための外交である。幸いにも2017年の戦争の危機は回避され、2018年6月に歴史的な米朝首脳会談がシンガポールで開かれ、朝鮮半島の非核化と朝鮮半島の恒久的な平和体制の構築を目指すことで合意した。現在、交渉は停滞しているが、この枠組みを日本も後押しするべきだ。 

 さらに、朝鮮半島だけではなく、東アジア全体の永続的な平和と安定のための枠組みづくりも構想する必要がある。東アジアの平和と安定にとって最も重要な課題は、対立を深めるアメリカと中国という超大国どうしの戦争を防ぐことだからだ。

 日本列島の南から台湾、フィリピン、ボルネオ島に至る「第一列島線」を挟んでにらみ合う米中は、互いに軍事的に優位に立とうと軍拡競争を強めている。日本の敵基地攻撃能力保有の本当の目的は、アメリカが中国に対抗して西太平洋に敷こうとしている「ミサイル包囲網」の一翼を日本が担うことにあるという指摘もある。この地域における軍事的優位性をめぐる米中の競争は、緊張を高め、偶発的なものも含めて軍事衝突を引き起こすリスクを高める。

 日本は、米中の競争と対立の激化が軍事衝突にエスカレートしないよう、両国に緊張緩和をうながしたり、軍備管理や軍縮協議を率先して呼びかけていくような外交も行っていくべきである。これは日本だけでできることではないので、すでにこうした仲介外交を積極的に進めているASEAN(東南アジア諸国連合)などとも連携して進める必要がある。

 2017年の朝鮮半島危機の時、トランプ大統領は「戦争が起きるなら向こうでやる。大勢が死ぬが、米国ではなく向こう側で死ぬ」と共和党の上院議員に語っていたという(「日本経済新聞」、2017年8月2日)。この言葉の通り、アジアで戦争になった場合のリスクは日本とアメリカでは異なる。アジアでの戦争で大勢死ぬのは、日本を含むアジアの人々なのである。アメリカと軍事的なリスクを共有し、「同盟の絆」を強めさえすれば、国民の生命と平和な暮らしを守れると考えるのは、いささか楽観的すぎるだろう。

 菅義偉首相は「安倍政権の取り組みを継承し、前に進めることが私の使命」と語っているが、「安倍談話」に従って敵基地攻撃能力の保有に踏み込み、アメリカとの軍事的一体化をさらに前に進めるのだろうか。そしてそれは、日本の安全をより確かなものにすることになるのだろうか。政権が代わったこの機会に、少し立ち止まって考えてみるときではないだろうか。

著者情報

ジャーナリスト

布施祐仁

ふせ ゆうじん

1976年、東京都生まれ。『ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場』で平和・協同ジャーナリスト基金賞、JCJ賞を受賞。三浦英之氏との共著『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『日米密約 裁かれない米兵犯罪』『経済的徴兵制』、共著に『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』などがある。
イミダスの連載「伊勢崎賢治・布施祐仁に聞く『日米地位協定と主権なき日本』」はこちら!

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