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石破政権に「日米地位協定の改定」は実現できるのか?

布施祐仁(ジャーナリスト)

 では、日米安保条約を相互防衛条約に変えなければ、在日米軍の特権を減らす方向で日米地位協定の改定を実現するのは不可能なのだろうか。
 筆者は、『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』(伊勢崎賢治氏との共著、集英社クリエイティブ、2017年)に書いたように、けっしてそうは考えていない。
 2008年にイラクが米国と締結した「地位協定」は、米軍の特権を制限し、イラクの主権を広範に確保する内容になっている。駐留米軍の全ての軍事活動は「イラク政府との合意の下実行されるものとする」(※沖縄県HPより、以下同)と明記し、「イラクの主権及び国益を侵害してはならない」と釘を刺している。また、駐留米軍にはイラクの環境法令の遵守が義務付けられている。さらに、「イラクの領土、領海、領空は、他国への攻撃の出発地点もしくは中継地点にしてはならない」と明記し、自国を戦争に巻き込むリスクのある米軍の軍事活動を規制している。
 イラクと米国は「互いに守り合う」関係ではなかった。反政府勢力による武装闘争や外国の侵攻など国内外の脅威からイラクの治安と安定を守るため、米軍が同国に駐留して一方的に軍事支援を提供する関係だった。
 日米同盟と同様、「非対称」の関係だったにもかかわらず、ここまで米軍の特権を制限し、イラクの主権を広範に確保する内容の地位協定を結ぶことができたのはなぜか。
 それは、米国政府がそれを受け入れない限り、米軍の駐留継続を認めないという強い姿勢で、イラク政府が交渉に臨んだからである。
 米国は、地位協定によって駐留米軍の特権を最大化しようとするが、譲歩しなければ駐留そのものが危うくなると判断した時には譲歩する。逆に、地位協定で譲歩しなくても駐留が安定的に維持できると判断すれば、譲歩しない。残念ながら、日本は後者の典型例になってしまっている。

 

「日本の防衛は米国に依存している」という大いなる誤解

 この米国の判断を支えているのが、日本国民の中に深く浸透している「日本の防衛は米国に依存している」という認識だ。だが、これは事実ではない。
 かつて海上自衛隊の自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏は、在日米軍の性格について次のように述べている。

〈我が国は防衛任務を専ら自衛隊が担います。その任務から解放された在日米軍は、同盟により全世界に展開する米軍の中で、アメリカの世界戦略を唯一直接支える重要なツールとなっています。このことから、日米同盟に基づく在日米軍は、日本海から中東まで世界のホットスポットに米軍を展開させる際に不可欠な、重要拠点となっているのです〉(『北朝鮮がアメリカと戦争する日』幻冬舎新書、2017年)

 今や日本の防衛は、自衛隊が専ら担うようになっているのだ。日米安全保障条約上は米国には対日防衛義務が課せられているが、自衛隊の能力が強化された結果、在日米軍はその任務から解放され、現在はアジアから中東にかけての地域に米軍を展開させる上で不可欠な拠点として米国の世界戦略を支える重要なツールとなっているという指摘だ。「日本の防衛は米国に依存している」というのは、「大いなる誤解」なのである。
 この事実認識に立つならば、まだ自衛隊の能力が不十分で日本の防衛を米国に依存せざるを得なかった64年前に結ばれた日米地位協定の改定を要求するのは当然のことであり、遠慮する必要は一切ないはずだ。
 石破氏も前出の著書の中で、「今や、米国の世界戦略において、在日米軍基地は欠かせない拠点」「米国にとって代替性のほぼない、貴重なアセット」と指摘し、「現状のままでも交渉は十二分に可能」と述べている。

 

国民世論の「圧力」がなければ米国は譲歩しない

 筆者もこの意見に同意するが、「理屈」だけでは米国は譲歩しない。米国の世界戦略にとって不可欠な在日米軍基地を維持するためには、地位協定では譲歩せざるを得ないと判断させるだけの、「圧力」が必要だ。
 イラク政府が地位協定に関する米国との交渉に強い姿勢で臨んだ背景には、事実上の占領状態からの脱却と主権の確保を求める強い国民世論があった。これが「圧力」となり、米国に譲歩させたのだ。
 日米地位協定の改定を実現できるかどうかも、どれだけ強い国民世論を形成できるかにかかっている。
 前出の党首討論会で日米地位協定の改定に改めて意欲を示した石破氏だったが、まずは自民党内で合意を形成する必要があるとも語った。自民党内の基盤が弱い石破氏のことだから、党内各勢力の主張に配慮せざるを得ないのだと推察する。衆院選に臨む自民党の「政権公約」にも日米地位協定の改定は明記されず、「あるべき姿を目指す」と従来通りの表現にとどまった。
 こうした動きを見ると、やはり自民党政権の下では日米地位協定の改定を実現するのは難しいのかと思わざるを得ない。石破氏が日米地位協定の改定を実現できるとすれば、それは国民世論を味方につけて、自民党内の抵抗を抑え込むことができた時だろう。
 一方、政権交代によって立憲民主党を中心とする政権が誕生すれば日米地位協定の改定が実現できるかというと、それもまた容易ではないだろう。
 総選挙の結果、石破政権が続くことになっても、立憲民主党を中心とする新政権が誕生することになっても、日米地位協定改定の成否は国民世論の形成にかかっている。

著者情報

ジャーナリスト

布施祐仁

ふせ ゆうじん

1976年、東京都生まれ。『ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場』で平和・協同ジャーナリスト基金賞、JCJ賞を受賞。三浦英之氏との共著『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『日米密約 裁かれない米兵犯罪』『経済的徴兵制』、共著に『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』などがある。
イミダスの連載「伊勢崎賢治・布施祐仁に聞く『日米地位協定と主権なき日本』」はこちら!

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