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岸田首相が進める「学費の出世払い」制度 〜入・在学時負担ゼロの魅力と危険性

第38回

大内裕和(武蔵大学教授)

 次に未婚化・少子化を促進する危険性です。中央労福協は、奨学金返済が生活設計に与える影響について、継続的に調査を行っています。22年の調査で、奨学金の返済が「結婚に影響している」と答えた割合は37.5%、「出産に影響している」と答えた割合は31.1%に達しており、しかもこの割合は15年以降、増加傾向にあります。

 ご承知の通り、現在は少子化が急速に進行しています。20年の出生数は84万835人、21年の出生数は81万1604人、厚労省の調査によれば22年1~10月の出生数は66万9871人であり、このペースで推移すると22年の出生数は80万人を割り込む可能性が高いと予測されています。出世払い制度によって借金を抱える若者が増加すれば、望んでいても結婚できない、子どもが産めないという状況が一層促進されるかもしれません。

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 そして、出世払い制度の導入による借金を抱えた若者の増加は、「経済的徴兵制」と結びつく危険性があります。日本学生支援機構の前原金一運営評議会委員は、14年5月に開かれた文部科学省の有識者会議「学生への経済的支援の在り方に関する検討会」で、奨学金返済に関連して次のように言及しました。

「延滞者が無職なのか、あるいは、病気なのかという情報をまず教えていただきたい。(中略)現業を持っている警察庁とか、消防庁とか、防衛省などに頼んで、1年とか2年のインターンシップをやってもらえば、就職というのはかなりよくなる。防衛省は、考えてもいいと言っています」

 アメリカでは、軍のリクルーターによる高校生の勧誘が行われています。勧誘条件で最も有効なのが、「大学の学費免除」や「学資ローン返済免除プログラム」です。徴兵制を廃止して志願兵制を採用しているアメリカにおいては、深刻化する貧困と高い学費負担が若者の入隊を後押ししています。それは「志願」といっても事実上の「強制入隊」を意味し、「経済的徴兵制」と呼ばれています。

 岸田政権は4年後の27年に、防衛費を現在の2倍となるGDP比2%にまで増額する方針を示しています。予算が増額されれば当然、兵力として人員増加も必要となるでしょう。「出世払い」という名の新たな学生ローンによる若者の「借金漬け」は、返済のため自衛隊への入隊を余儀なくされる危険性が高いと思われます。

 出世払い制度では、学生は入学時にマイナンバー登録が義務づけられる方針とのことです。マイナンバーカードは現在、健康保険証との一体化でも紛糾していますが、これらが整備されれば多額の「学費返済義務」(=借金)を抱えた健康な若者の個人情報を政府が把握することが容易となり、経済的徴兵制を支える役割を果たすことになります。

 入学金や授業料を国が立て替える出世払い制度には、進学・在学時の学費負担がゼロという一見大きな魅力があります。しかし一方で、そこには若者の「未来」を脅かす大きな危険性も孕(はら)んでいると言えるでしょう。

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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