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生活保護世帯の大学進学はなぜ反対される? 〜高学費と大学等修学支援法の問題点

第37回

大内裕和(武蔵大学教授)

 2022年12月に入ってから、生活保護の見直しを検討する社会保障審議会(厚生労働大臣の諮問機関)の部会で、「生活保護世帯の大学進学を認めない方針」を盛り込んだ報告書が、近いうちにとりまとめられるとの報道がありました。

 現在、生活保護世帯の子どもが大学、短期大学、専門学校などに進学すると、その子どもだけ生活保護の対象から外れる「世帯分離」を行うことになります。家族としては一人分の生活扶助費が減額され、当人はアルバイト収入や奨学金で自分の学費や生活費などを賄う必要が出てきます。

 大学、短期大学、専門学校などに通う若者が生活保護を利用できないルールは、1963年の旧厚生省の通知が根拠になっています。70年、高校進学については子どもを就学させることが受給世帯の自立にも有用との観点から、世帯分離しないで進学する「世帯内就学」が認められるようになりましたが、大学等への進学では依然として世帯分離が必要とされています。この制度を継続するか否かが、かねてより社会保障審議会で議論されてきました。

 生活保護を受けたままでの大学進学を認めない方針について、インターネット上では賛否の議論が沸き起こりました。

「生活保護で大学に行って何が悪いんだろう。貧困から抜け出す為にこそ、教育は必要だと思うよ」(2022年12月7日、[1])「(生活保護を受けながらの大学進学を認めない理由として)一般世帯でもアルバイト、ってのが本来はおかしい。教育を受ける権利の侵害だよ」(2022年12月8日、[2])「大学を出ないと取れないSW(ソーシャルワーカー)とか教員など、社会問題にサシで向き合う仕事に、保護家庭出身の人間が就けないわけさ。国が格差を助長するなよ」(2022年12月10日、[3])などの反対意見が多数出されている一方で、「生活保護でなくても金銭問題で大学進学を諦める人もいる。(中略)世帯分離すれば大学進学は認められている。生活保護家庭ばかりが苦しいわけではない」(2022年12月13日、[4])「これ、難しいよね。(中略)私も含めて、生活保護世帯ではないけれど、大学進学する余裕がなくて、進学を諦める子たちもいるので」(2022年12月8日、[5])など、認めない方針に賛成する意見も数多くありました。

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 私自身は、本連載第24回生活保護世帯出身者の大学進学ですでに論じたように、大学等進学者を世帯分離させる制度の継続には反対です。生活保護世帯の子の高等教育機関(大学・短期大学・専修学校・各種学校)への進学率は約4割。これに対して、全世帯の高等教育機関への進学率は8割を超えています。どんな経済的状況の家庭で生まれたとしても教育を受ける機会は平等であるべきですから、生活保護世帯の子が進学に不利な状況は改善する必要があります。

「高校生の世帯分離」については、70年に高校進学率が80%を上回り、そうした進学率の上昇を背景に政府は生活保護を受けながらでも高校へ進学できる「世帯内就学」を認めるようになりました。現在、大学を含む高等教育機関への進学率は80%を超え、70年当時の高校進学率とほぼ並んでいますから、大学等進学者についても世帯分離を廃止する時期に来ていると思います。

 その一方で、今回の社会保障審議会の「生活保護世帯の大学進学を認めない方針」に賛成する世論の存在を、無視してはいけないと私は考えます。そこには賛成する世論を支えるだけの、高等教育にかかる学費の高さと修学支援の不足という状況があるからです。

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 日本の高等教育への公的支出はGDPの約0.5%。OECD加盟38カ国の平均値に比べると半分以下で、先進国の中では最低水準です(「図表でみる教育2015年版」OECDインディケータ)。ちなみに2022年度の学費(初年度納付金額)は国立大学で81万7800円(国公立大学の授業料その他の費用に関する省令)、公立大学は地域内84万2011円/地域外100万8363円(旺文社調べ、平均値)、私立大学は164万3466円(旺文社調べ、平均値)、20年の専門学校学費は125万5000円(東京都専修学校各種学校協会調べ、平均値)に達しており、高い学費に苦しんでいる人々は大勢います。

 これに対して20年から「大学等における修学の支援に関する法律」(以下、大学等修学支援法)が施行されました。これは、住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯出身の学生に対する大学等の授業料・入学金の減免と、給付型奨学金の拡大を内容としています。授業料の減免措置は、国公私立の大学・短期大学・専門学校・高等専門学校(4年生以上)を等しく対象とした点では、これまでになかった制度です。17年に導入された給付型奨学金の対象枠も拡大しました。

 しかし、大学等修学支援法は高い学費に苦しむ多くの人々にとって、十分な内容とは言えません。何よりも問題なのは、対象が狭く限定されていることです。学費が全額免除となるのは住民税非課税世帯のみです。目安として4人家族(両親/本人/中学生)の場合、世帯の年収が270万円未満だと全額免除。270万円以上300万円未満だと3分の2免除、300万円以上380万円未満だと3分の1免除です(基準となる年収額は家族構成で異なる)。

 この制度は、4人家族で年収380万円以上の世帯には適用されません。よって大学等修学支援法で学費減免の措置や給付型奨学金を得られる学生数は、かなり限定されることになります。21年度の利用者数は約31万9000人でした。大学・短大・専門学校の全学生数は約340万人ですから、支援を受けられた学生は約9%にとどまり、9割以上の学生は対象外という状況なのです。しかも大学等修学支援法の財源は消費増税で賄っており、学費が軽減されず税負担だけ増加した人たちの間で不満が高まるのは当然でしょう。

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 さらに、大学等修学支援法はその対象にも細かな線引きを行い、学費減免額に大きな傾斜(条件による多寡の差)をかけています。前出の家族構成だと学費の全額免除は年収270万円未満の世帯のみで、年収270万~380万円の世帯は大学等修学支援法の対象であっても、相当な負担が必要とされることになります。

 つまり、「高等教育無償化」を謳った大学等修学支援法ですが実際には9割以上の学生は対象にならず、対象となった約9%の学生についても世帯の年収に応じて減免される金額に傾斜がかけられ、学費が本当に無償となる学生はごくわずかというのが現状です。高等教育の無償化が、いかに実態とかけ離れているかがよく分かります。

 社会保障審議会の「生活保護世帯の大学進学を認めない方針」に賛同する声が少なくないのは、こうした状況と深い関わりがあります。高等教育予算が少ない中、大学・専門学校の学費は高騰していて、多くの人々が支払いに苦しんでいます。

 生活保護世帯の子は、大学等修学支援法でもごくわずかしか対象にならない「全額免除」を得られることになります。加えて給付型奨学金も支給されます。ほとんどの一般世帯がやりくりして高額な学費に対峙している中で、生活保護世帯の子は学費を免除され、給付型奨学金も受けられて、生活費や医療費、住宅費などの扶助も受けられるとなれば、「どうして彼らだけがそんなに支援を受けられるのか?」という不満が出てくるのも当然ではないでしょうか

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 生活保護をめぐっては、日本社会ではさまざまな面から激しいバッシングが続いています。そこには、生活保護制度に対する無知や偏見が含まれていることも多く、その点は一刻も早く是正しなければいけません。しかしその一方で、低すぎる最低賃金や少ない年金などによって、生活保護水準以下の生活を送っている人々が日本社会に大量に存在していることが、生活保護バッシングを生む社会的基盤となっていることを見逃してはならないでしょう。今回の生活保護世帯の大学進学も、一般世帯をあまりにもないがしろにしたまま優遇を感じさせるような支援措置を要求すれば、新たな「分断」を広げてしまう危険性があると私は考えます。

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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