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高市早苗首相「必要のない奨学金を借りる」答弁の問題性

第76回

大内裕和(武蔵大学教授)

 貸与型奨学金を避ける傾向は、データにも表れています。全国大学生活協同組合連合会(全国大学生協連)の「学生生活実態調査 」によれば、貸与型奨学金のみ利用している学生の割合は、16年の29.8%から25年の16.3%へと大きく低下しています。全国大学生協連では奨学金利用者に対し「奨学金返還に不安を感じている」割合も調査していますが、25年にはその割合が71.4%に達しています。卒業後の返還に不安を感じる学生の多いことが、奨学金を借りることを忌避する傾向を生み出しているのは間違いありません。

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 奨学金を借りる学生が減った一方で、この時期に増えたのは学生アルバイトです。1カ月あたりのアルバイト収入は、自宅生で16年の3万5770円から25年には4万6377円、下宿生では16年の2万7120円から25年には3万7620円と、それぞれ大きく増加しています。アルバイトに追われるようになると、本来の目的である学業を困難とさせます。私の周囲でも、「アルバイトのために授業の課題を行うのが難しい」「深夜まで働いているため、疲労で授業中に寝てしまったり、集中することが難しかったりする」などの声が多数挙がっています。アルバイトの増加が学生たちの学びを阻害しているのです。

 貸与型奨学金利用率の低下は、アルバイトの増加につながりました。本来、奨学金を必要とするような家庭の子が利用をさ避ける傾向は、「アルバイト漬け」によって十分に学ぶことができない学生を生み出しています。「必要のない奨学金を借りる」学生の出現を心配するよりも、奨学金を必要とする学生が利用を忌避している現状を、高市首相には知っていただきたいと思います。

 貸与型奨学金は多くの若者に経済的困難を生じさせていることに加え、彼らのライフコースをも大きく制約しています。労働者福祉中央協議会(中央労福協)は15年、18年、22年とこれまで3回、奨学金に関するアンケート調査を実施し、奨学金返還が結婚、出産、子育てなど、若者の重要なライフイベントに与える影響を尋ねています。結婚については15年の34.2%から22年は37.5%、出産については15年の22.9%から22年は31.1%、子育てについては15年の26.4%から22年は31.8%と、それぞれ「影響あり」と答える人が増加しています。奨学金返還が卒業後の結婚、出産、子育てを困難にし、ライフコースにおける選択を制約していることは明らかであり、若者の人生に重大な影響を及ぼしているのです。

 高市首相には、奨学金を借りた人と借りなかった人との分断を煽ったり、制度について誤解を助長しかねない答弁をしたりするのではなく、奨学金返還に苦しんでいる多くの若者を支援するという視点からこの問題に取り組んでいただきたいと思います。

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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