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福島を語る

福島を語る(5)被ばく牛とともに生きる

三浦英之(新聞記者、ルポライター)

吉沢正巳

三浦 この希望の牧場は、日本のメディアよりも、海外のメディアのほうにより多く取り上げられている印象を受けます。吉沢さんは、国からの殺処分命令に逆らって、牛をずっと殺さないで飼い続けている。私もメディアで働く人間ですが、日本のメディアは、国の言い分については素直に報じるけれども、国に対して反対意見を述べる人たちに対しては、どこか冷たいところがあります。

吉沢 ここで牛たちが生きていること自体が、「反政府的」になりますからね。国は今、原発の再稼働や、小型原発の建設計画を進めています。私は日本だけではなく、フランスやインドやヨルダンなど海外でも講演をしたりして、「福島の原発事故を忘れるな」「浪江町を忘れるな」というメッセージを発信し続けています。この「希望の牧場」で生き抜く牛たちは、原発事故がいかなるものであったかを物語るシンボルであり、メモリアルであり、忘却を防ぐための砦となる存在なんです。

三浦 吉沢さんは、「怒りの人」だと感じています。吉沢さんが東京五輪の聖火リレーの際、沿道に詰めかけた浪江町の請戸(うけど)漁港の若い漁民たちに対して、「汚染水が流されて、おまえたちはそれでいいのか」と言って怒っていたのが印象的でした。大漁旗を掲げた若い漁師たちと喧嘩寸前になっていましたよね。国や東電だけではなくて、地元の人とも闘うことには、どのような思いがあるのでしょうか?

吉沢 汚染水が流されたときに、原発から一番近い漁港が請戸なんですよ。請戸漁港は浪江町の看板なんです。「うけどん」という公式キャラクターをつくってキャンペーンもやっている。その看板を汚されるというのは、単純に悔しいという思いがあります。
 今、もし車(「カウ・ゴジラ」)で乗り込むとしたら、2020年に双葉町に開館した東日本大震災・原子力災害伝承館に行きます。文部科学省は、伝承館を全国の子どもに見せるよう積極的に案内していて、各地からバスでたくさんの子どもがやってくる。しかし、伝承館での展示を見ても、なぜこの事故が起きたかっていうことは伝わってきません。われわれはなぜ自分たちの土地を追い出されて、もう戻れないのか。亡くなった馬場町長の言っていた「無念の流浪の町にされた」という怒りは、忘れてはいけないと思います。

ここは放射能に我慢し続け、耐え忍ぶ、そういう運命を受け入れる「受忍」の場所だと、吉沢さんは言う。

 

被ばく牛とともに生きる「希望」

三浦 廃炉については様々な議論がありますが、東京電力が言う40年から50年の間に廃炉にするというのは、ほぼ不可能だと思います。そもそも廃炉とは何かという定義でさえ明らかではないし、燃料デブリを本当に取り出すことができるかどうかもわからない。そして事故から11年たった今でも、浪江町の多くの人がいまだに自宅に帰れないままです。そうした絶望的な状況のなかで、吉沢さんはここを「希望の牧場」と名付けていますよね。「希望」という言葉に、どのような思いを込めたのでしょうか?

吉沢 震災後、「絆」と「希望」という言葉がよく言われましたが、町民もバラバラになってしまって、かつての絆というのは、もうなくなってしまったように感じています。震災後の10年間、最後の拠りどころが希望だったんです。希望というのは、自ら考えて、自らの行動によって、自らがつくり出すものです。自分のなかで考えているだけではダメで、勇気を奮って矢面に立たなければいけません。矢面に立てば、いろいろな圧力や攻撃をもちろん受ける。けれども、それを糧としながら生きることで、存在自体が希望だと言われるようになるんじゃないかと思います。
 この「希望の牧場」は、原発事故によって人間が命をどう扱ったかということを、問いかけています。私は、この被ばく牛とともに生きて、被ばく牛とともに死んでいく。だけど、今のところは、かえって元気がいいんですよ。ひどい目に遭ったけれども、それを自分の行動へのバネとしている。殺処分命令を受けたこの牛たちとともに生きる人生、私にとってそれこそが希望なんです。

牛の寿命は、約15年と言われる。避難指示区域には、まだ約300頭の牛が生きており、その3分の2が「希望の牧場」で暮らしている。

著者情報

新聞記者、ルポライター

三浦英之

みうら ひでゆき

1974年、神奈川県生まれ。『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で第13回開高健ノンフィクション賞、『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(布施祐仁氏との共著)で第18回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で第25回小学館ノンフィクション大賞、『南三陸日記』で第25回平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞、『帰れない村 福島県浪江町「DASH村」の10年』で2021年LINEジャーナリズム賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で第10回山本美香記念国際ジャーナリスト賞、第22回新潮ドキュメント賞を受賞。

吉沢正巳

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