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【和の心 暦と行事】冷奴

文月(7月)

知っていますか? 日本の四季と暮らしが生んだ、暦やしきたりを紹介。

 江戸後期の料理書に「豆腐百珍」というものがある。当時のベストセラー本のようで、現代同様、柳の下の何匹目かを狙って「甘藷かんしょ百珍」とか「海鰻あなご百珍」といった類書も続いて出ている。

「豆腐百珍」は、豆腐料理名とその料理についての論評を、尋常品、通品、佳品、奇品、妙品、絶品の6等級に分けて紹介した書物だが、「冷奴」については、あまりにもおなじみなので作り方など書くまでもない、としている。このことからしても「冷奴」は、まさに、大奥からお坊さん、長屋の住人まで、広く親しまれた代表的な夏の献立だったのだろう。

 さてしかし、豆腐料理の場合、大概が「湯豆腐」「麻婆豆腐」など分かりやすい料理名だが、「冷奴」はどういうわけでこんな名前になったのだろう。追究してみると、話の始まりは「奴豆腐」なのだという。では、その「奴」とは何か、ということになるのが段取りというもの。

 奴は、武家が雇った下僕で、男ぶりを競った。彼らの半纏はんてんについた「釘抜紋」といわれる紋が四角。奴凧やっこだこを思い出していただければお分かりかな。あるいは、主人のお供の時に持つ挟み箱が四角。というわけで四角=奴というイメージができ上がった。

 ここから、四角く豆腐を切るのを奴に切るといい、四角に切ったものを奴豆腐というようになったようだ。そして、それを冷やしたのが「冷やし奴豆腐」、つまり「冷奴」である。売れない芸者でも、体の冷えた奴でもない。いわば豆腐の冷製か。

 とはいえ江戸時代、家庭に冷蔵庫があるわけがない。たぶん、井戸水か何かの冷水で冷やした奴豆腐。すっきりと白い肌、ピシッと立った角、見た目も含め、その涼感を江戸っ子はでたのだろう。

 ねぎ、鰹節、生姜しょうが茗荷みょうがなどの薬味の相方を問わず、生醤油で良し、出汁だしを加えたタレで良し。健脳食材・大豆が姿を変えた、クールな料理である。

(2007/08/03)

◆その他の暦と行事はこちら!【和の心 暦と行事】

著者情報

谷村鯛夢

たにむら たいむ

1949年生まれ。同志社大学文学部卒。「婦人画報」「25ansウエディング」「トランタン」などの女性誌の編集者、編集長、テレビコメンテーターを経て、現在、出版プロデューサー、コラムニスト。俳句集団「粗々会」同人、俳句誌「炎環」「馬酔木」会員。

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