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第1回 分かち合うことって何?

川口好美(文芸批評家)

 宗教についても、そうです。宗教の話題は出来るだけ避けるか、「統一教会」ってこんな困った組織なんだよと面白おかしく伝えるか、そのどちらかばかり。わたしが小さい頃、オウム真理教というグループが事件を起こした時も、同じような感じだったんですよ。なぜ神を信じる人たちがいるのか。どんな人が宗教を必要としているのか。そもそも神って、宗教ってなんなのか。すごく気になりましたが、わたしの周りにいた〝おとな〟はあまり考えたくなさそうでした。 それはよくないことだな、と思います。
 山上徹也は、自分なりによく考えて、あんなことをしたのではないか。わたしは徐々にそう考えるようになりました。山上には〈個〉としてのことばがあるのではないかと思ったんですよね。彼がSNSに書き込んだ文章を読むとわかりますが、どうして自分の人生がこんなふうに辛くなったのか、そこにはどんな理由が絡み合っているのかを、探しているんですね。彼の問いは、少しずつ深くなっていった。その先に事件があった。そんな気がしたのです。

 わたしがとくにそう感じたのは、山上がTwitter(現在はXです)というSNSに書き込んだ、こんなことばでした。「だがオレは拒否する。『誰かを恨むでも攻撃するでもなく』それが正しいのは誰も悪くない場合だ。明確な意思(99%悪意と見なしてよい)をもって私を弱者に追いやり、その上前で今もふんぞり返る奴がいる。私が神の前に立つなら、尚の事そいつを生かしてはおけない」(※)
 自分の不幸の理由をよく考えてみて、誰も悪くないとわかれば、他人を恨まないようにする。でも、誰かの悪意の結果なら、自分は怒り、たたかうんだ。それが正義なんだ。そういう決意を書いているんですね。殺さないことよりも、殺すことのほうが大事な場合があるはずだ、と考えたのです。しかも、「私が神の前に立つなら」って言うのです。どういうことでしょう。なぜ、正義について真剣に考えて、いきなり神という言葉が出て来たのでしょうか。山上は、神の存在を信じる宗教に、嫌な思いをさせられたはずなのに。
 みなさんのごく当たり前の暮しや悩みについてゆっくりと考えていくうちに、そんな難しいことも〝わかる〟といいな、と思っています。
 ではみなさん、さようなら。

著者情報

文芸批評家

川口好美

かわぐち よしみ

1987年大阪生まれ。2016年、「不幸と共存──シモーヌ・ヴェイユ試論」(『群像』2016年12月号、第60回群像新人評論賞優秀作)でデビュー。2021年から、静岡県川根本町の小集落・沢間で「本とおもちゃ てんでんこ」を家族で営む。著書に『不幸と共存 魂的文芸批評』(法政大学出版局)がある。

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