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SIMロック解除でケータイは変わる?

ユーザーのメリット、本命はスマートフォン

宮下洋子(情報通信総合研究所グローバル研究グループ副主任研究員)

 総務省は2010年6月末、「携帯電話のSIM(シム)ロック解除に関するガイドライン」を公表した。そこで、SIMロックとは何なのか、SIMロックの解除は私達ユーザーにとってどんな意味があるのか、その背景を含めて考えてみたい。

乗り換え防ぐSIMロック

 現在、日本の大多数の携帯電話機にはSIMカードが入っている。SIMカードには、加入者情報やキャリアとの契約内容が書き込まれており、携帯電話機にこれを差し込んで使う。このしくみでは、携帯電話機とSIMカードを別々に利用できるため、一見SIMカードをどんな携帯電話に差し込んでも使えそうだが、現状ではかなり限定的にしか利用できない。これは様々な要因があるが、端末側に「SIMロック」というしくみが施されているのがその一つとなっている。
 SIMロックとは、携帯電話機が特定のSIMカードしか利用できないしくみを端末側に施すことであり、当初「携帯電話の貞操帯」などとも言われた。SIMロックを施す最大の理由は、携帯電話機にかけられる携帯電話端末販売奨励金にある。本来なら5万円以上する端末もわずかな価格で販売する光景が見受けられるが、これはキャリアが自社の携帯電話を契約するユーザーに対して端末の初期費用を安く設定し、その分を通信費に上乗せして請求する。端末の費用を回収しない間にユーザーがサービスを解約し他キャリアに動いてしまうと販売奨励金を確保できないため、SIMロックを施すことでユーザーの他社への乗り換えを防いでいる。

SIMもSIMロックもヨーロッパ発

 携帯電話にSIMを差し込んで利用するアイデアは、ドイツで1980年代に商用化されたアナログ方式の自動車電話がその始まりと言われる。利用者がそれぞれカードを持ち、端末に抜き差しすることで、当時は高価な自動車電話を複数の加入者で利用できるようになった。このしくみは当時策定されていたグローバルなデジタル携帯電話(GSM)の仕様にも引き継がれることになった。国々が密集し国境を越える機会が頻繁なヨーロッパでは、移動した時にその国のキャリアが提供するSIMを差し替えて使うことにより、多くのユーザーが高額なローミング料金を節約することができた。
 SIMロックが始まったのも同じヨーロッパからである。93年にイギリスにおいて後発組で参入したキャリア、ワン2ワン(現T-モバイル)が、他社との差別化策として初期費用の安さを売りに契約と端末の抱き合わせで販売、同時に端末を他社に転売されることを防ぐことを目的として、SIMロックを導入した。その後この施策は除々に広まっており、海外でもSIMロックは決してまれではない。

SIMロック解除、効果は限定的

 確かに海外では、SIMロックのかかっていない端末にユーザーがSIMを入れ替えて自由に利用する光景が当たり前のように見られる。しかし、日本では特殊な事情がいくつか存在し、SIMロックを解除しても一概には便利と言えない状況となるだろう。まず、日本では通信方式やこれを活用する周波数帯域が統一されておらず、SIMを抜き差ししても利用できるキャリアが限定される。例えば今、この制度を導入しても携帯電話を利用できるのは現状ではドコモとソフトバンクの3G(W-CDMA)に対応した端末のみとなる。
 さらにこの場合でも、キャリア独自のメールやインターネット・サービスは利用できない。「ガラケー」などとも呼ばれる日本の携帯電話は、キャリア独自の公式サイトを活用したインターネット・サービスやニュース配信、おサイフケータイ、アプリ、アドレス帳のバックアップサービスなど、様々なサービスが提供されているが、SIMロック解除とモバイルナンバーポータビリティーMNP)を活用してキャリアを乗り換えても、このようなサービスは一切利用できなくなる。つまり、現状ではSIMロック解除制度を導入しても、一部のキャリア間でごく限定的な機能を使えるのみで、ユーザーの利便性向上という面では非常に限定的と言わざるを得ない。

解除の本命はスマートフォン

 一方で今後、SIMロック解除が有効活用できると想定される場面もある。2010年に広範囲に普及する兆しを見せるスマートフォンでは、従来のガラケーと異なり、キャリアとひも付けになるサービスが比較的小さい。現在は特定の機種を特定のキャリアが提供するケースが大半だが、このSIMロック解除を導入すれば、利便性を享受できるユーザーも少なくないだろう。さらに、10年末から一部地域での開始が予定されているLTEロング・ターム・エボリューション)では、将来すべての事業者が採用することも予想される。こうなれば一つの端末でキャリアをまたがって利用できる範囲も格段に広がることになる。
 しかしこのような場合でも、SIMロックを解除し端末販売奨励金制度を廃止すれば、端末販売価格は急騰し混乱を来す可能性も否定できない。さらにLTEが広範に普及するのは早くても5年程度はかかることが予想されるため、SIMロック解除制度が導入された場合でも利用範囲が広がるのは相当の時間を要することになるだろう。

ユーザーは情報の見極めを

 SIMロックについて、政治の場において議論が始まったのは3年ほど前にさかのぼる。総務省が市場の不公平を是正して利用者利益を図り、新たな経済活性化を図るという趣旨で研究会が結成された。ここでは、端末とキャリアをひも付けにしているSIMロックがユーザーの端末の自由な選択を阻害し、新たな成長を妨げているという観点から議論が始まった。しかしこの結果として制度化された端末販売奨励金制度の改革が業界に大きな波紋を広げた。店頭で販売される端末が高価格化したことが要因となり、消費者の買い控えが進み、これに経済不況が追い打ちをかけ、端末の販売台数は約2年連続2割減まで落ち込み、特に携帯電話メーカーが大きな打撃を受けたとも言われる。
 その後、数々の公聴会を実施し、10年6月に総務省が制定したガイドラインでは、SIMロック解除は望ましいとしながらも、キャリアにその判断を委ねる内容となった。その後のキャリアによる姿勢も様々で、最大手のNTTドコモがSIMロック解除の方針を発表する一方、iPhone(アイフォーン)で新規顧客を増加させているソフトバンクは、これに反対する姿勢を見せている。
 SIMロック解除に関する政策は、従来のビジネスモデルや既存の市場構造をドラスティックに変革する可能性をはらんでいる。さらに、「解除」、「フリー」という言葉のイメージから、ユーザーの混乱を招く恐れもあるという側面からも、極めて慎重な対応が要求される課題なのである。

著者情報

情報通信総合研究所グローバル研究グループ副主任研究員

宮下洋子

みやした ようこ

通信系のシンクタンク、情報通信総合研究所グローバル研究グループに所属。海外の携帯電話端末市場を中心に、国内外の携帯電話やサービス、ICカードを使用したビジネスなどの研究に従事している。

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