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国民投票法で何が決まったのか(前編)

改憲の手続きを、憲法から考えてみる

伊藤真(弁護士/伊藤塾塾長/法学館憲法研究所所長)

十分な審議なしで成立した「憲法改正手続き法」

 憲法改正のための手続きを定めた国民投票法が、2007年5月14日、参議院で可決され成立しました。これだけ重要な法案が十分な審議もなく、国民の関心がほとんどない中で強行採決されてしまったのです。そこにこの日本という国がまだまだ民主主義国家ではないという証を見てしまったようで、悲しい気持ちになります。そんなことを言われてもピンとこないかもしれませんね。憲法とは何かを含めて、国民投票法について、二回に分けて説明させてください。

 安倍晋三首相は、就任早々、「憲法改正」と「教育改革」を最重要課題にあげました。そして、学校現場のかなり強い反対を押し切って、06年末、教育基本法の改正を押し通しました。この教育基本法の改正は、憲法改正の露払いのようなものです。安倍首相は、07年の年頭の記者会見で、自分の任期中に必ず憲法改正を実現したいと言っています。その憲法改正のための手続きを定める「国民投票法」が成立したわけです。

そもそも憲法ってなんだ?

 ちょっとクイズです。
 私たち国民に憲法を守る義務があるでしょうか?

 そんなの当然あるよ。だって国の基本法なんだからという答えが返ってきそうです。ですが、正解は、私たち国民には憲法を守る義務はありません。えっと思うかもしれませんが、憲法とは、政治家などの公務員が好き勝手なことをしないように縛るための法だからです。会社法や証券取引法、刑法、道路交通法などの一般の法律は、私たち、国民の自由を制限して社会の秩序を守るためにあります。私たちはわがままですから、こうした法律の規制がないと、つい他人に迷惑なこともやってしまいがちだからです。

 ですが、憲法は私たち国民が守るものではありません。国民が、政治家や官僚などの公務員の人たちに守らせるものなのです。権力を持つ者は、ついその権力を乱用して自分勝手なことをして、国民の権利や自由を不当に侵害してしまいがちです。そこで、いくら権力者であっても憲法を守らなければならないということにして、権力者を縛り、国民の権利や自由を守るために、憲法は存在するのです。このような考え方を、立憲主義といいます。世界の先進国の憲法は、みなこうした立憲主義の考え方に基づいてできています。

 このように憲法と一般の法律とはまったく役割が違う、ということをしっかりと知っておかなければなりません。法律は私たち国民が守るもの。憲法は国民が守るものではなくて、政治家などの公務員が守るもの。国民は守る側ではなくて、守らせる側なんだということです。憲法と法律は誰に守らせるのか、その向きがまったく逆だということです。

 ですから、前首相の小泉さんが、自衛隊に、アメリカ軍と一緒にイラクで軍事行動を取らせたいといくら思ったとしても、それはできませんでした。憲法9条2項に国の交戦権(戦争する権限)を認めないとあるからです。こうして政治権力に歯止めをかけるのが憲法の役割ですから、政治家はもっと好きなことをやりたいと考えるときに、憲法改正が必要だと主張するのです。

 政治家を縛って国民の自由を守るのが憲法の役割なのですから、その憲法を改正して政治家がもっと自由に振る舞えるようにするということは、逆に国民が不自由になることを意味しています。そのことを国民はしっかりと理解しておかなければなりません。

 このように、政治家などの公務員を縛り、国民の自由を守るための憲法を、もし政治家たちがかってに改正できるとしてしまったら、政治家を縛るための憲法という意味がなくなります。そこで多くの国では、憲法改正の手続きを厳しくして、なかなか改正ができないようにしています。こうした憲法を、改正しにくくて硬いというイメージから、硬性憲法とよんでいます。日本の憲法も硬性憲法の典型です。

憲法改正はどうやってする?

 では、憲法改正はどのような手続きで行われるのでしょうか。憲法96条に憲法改正についての規定があり、国会の発議と国民投票という二段階で行われます。
 まず、第一段階として、衆議院、参議院それぞれの総議員の3分の2以上の賛成で国会が「憲法改正案」を発議します。

 次に第二段階として、その改正案を国民投票にかけて、その過半数の賛成を得る必要があります。改憲手続きで重要なのは、この国民投票です。なぜならば、憲法改正はあくまでも国民が行うものだからです。国会はそのきっかけとしての発議をするだけです。主人公はあくまでも私たち国民なのです。

 こうした一連の手続きを定める法律が、国民投票法なのです。これまでこうした法律がありませんでした。そのため、憲法改正をめざそうとする人たちは、どうしても今国会でこの法案を成立させたいと考え、強行採決に及んだわけです。次回は、この法律の内容と問題点を見ていきましょう。

(以下、後編に続く)

著者情報

弁護士/伊藤塾塾長/法学館憲法研究所所長

伊藤真

いとう まこと

1958年生まれ。東京大学法学部卒。在学中に司法試験に合格し、司法試験受験指導を始める。現在、「伊藤塾」塾長として法律資格試験の受験指導を行う。著書に『中高生のための憲法教室』(2009年、岩波ジュニア新書)、『憲法問題』(13年、PHP新書)、『現代語訳 日本国憲法』(14年、ちくま新書)、『増補版 赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』(16年、大月書店)、『私たちは戦争を許さない 安保法制の憲法違反を訴える』(共著、17年、岩波書店)など多数。

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