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日本の温暖化対策「2050年実質排出ゼロ」目標は本物か?

志葉玲(ジャーナリスト)

 昨年(2020年)12月、日本政府は、経産省を中心に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」をまとめた。日本は、これまで大量のCO2を排出する石炭火力発電への依存など、温暖化対策への後ろ向きの姿勢が国際社会や国内の環境団体等から批判されてきた。本稿では、菅政権の「2050年カーボンニュートラル」に向けた政策を検証し、国内外の環境NGOが指摘する問題点や対案などを紹介する。

遅すぎた日本の温暖化対策

 昨年10月の所信表明演説で、菅義偉首相は「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。また今年1月の施政方針演説でも菅首相は「世界に先駆けて、脱炭素社会を実現してまいります」との決意を語った。

 そもそも、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにするという「2050年カーボンニュートラル」という目標は、2015年12月に日本がパリ協定に合意した時点で、世界に対して約束したものだった。パリ協定とは、2015年12月にフランス・パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で約200カ国の国々が合意して成立した、温暖化防止のための国際的な枠組みだ。世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、1.5℃に抑える努力を追求することを各国に求めていることが、その最大の特徴である。この目標を実現するためには、とりわけ先進国は2050年頃に温室効果ガス排出を実質ゼロにする必要があるとされている。

 これまで日本政府は、“温室効果ガスの排出を2050年に80%削減し、今世紀後半の早い時期に脱炭素社会を実現する”と表明していたため、パリ協定との整合性が問題視されていた。今回、日本政府は目標を再設定したことにより、ようやくパリ協定での目標実現に向けて一歩踏み出したと評価できなくもないだろう。ただし、石炭火力発電の温存や原発の活用、再生可能エネルギーの目標設定の低さなど、本気度が疑われる点も少なくない。

 

菅首相施政方針演説での温暖化防止策について

 まず、今年1月の菅首相による施政方針演説を見ていこう。温暖化対策関連の主な内容は以下のとおり。

・2兆円の基金を創設し、過去最高水準の最大10%の税額控除を行う。
・次世代太陽光発電、低コストの蓄電池、カーボンリサイクルなど、野心的イノベーションに挑戦する企業を支援、最先端技術の開発・実用化を加速させる。
・水素や、洋上風力など再生可能エネルギーを思い切って拡充し、送電線を増強。
・安全最優先で原子力政策を進め、安定的なエネルギー供給を確立。
・2035年までに、新車販売で電動車100%を実現。
・成長につながるカーボンプライシングにも取り組む。
・CO2吸収サイクルの早い森づくりを進める。
・世界的な流れを力に、民間企業に眠る240兆円の現預金、更には3000兆円とも言われる海外の環境投資を呼び込む、そのための金融市場の枠組みもつくる。
・世界に先駆けて、脱炭素社会を実現する。

 これらはこれまでの日本の政策から考えれば悪い内容ではないものの、ややインパクトに欠けている。例えば、「2兆円の基金」というが、米国のバイデン政権は温暖化対策に200兆円以上を投じるというから、文字通りケタが違う。「水素や、洋上風力など再生可能エネルギーを思い切って拡充」については、目標となる普及率やスケジュールが施政方針演説では言及されていない。一方で、「安全最優先で原子力政策を進め」るとあり、福島第一原発事故後、原発依存から脱却するという目標を掲げてきた以前より、原発回帰へと後退しているように感じられる。いずれにせよ、菅政権の政策集を見ると、中核となっているのは、経産省を中心に関連省庁がまとめた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(以下、「グリーン成長戦略」)である。

 

再生可能エネルギーの目標が不十分

「グリーン成長戦略」の内容は、多岐にわたる。大雑把にまとめると、電力部門の脱炭素化、運輸や熱利用等の電化・脱炭素化、税制や規制等の改革及び基金などの予算配分などに分けられ、さらに関連する各政策があげられている。とりわけ筆者が注目したのは、電力部門の脱炭素化だ。日本のCO2排出を部門別で見ると、電力由来が約4割と最大。石炭や天然ガス、石油といった化石燃料を発電のために用いることは、早急に見直されなくてはいけない。

 

 現状では日本における発電量のうち、火力が80.6%と最大で、燃料の内訳は石炭32.7%、液化天然ガス41.0%、石油1.6%となっている。火力の他は、水力が9.8%、太陽光や風力などの新エネルギー等が4.9%、原子力は7.1%である(2019年度「電力調査統計」より)。

 これに対し、「グリーン成長戦略」では、2050年の電力構成として、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが50~60%、原子力やCCS(CO2回収・貯留)付きの火力発電などが30~40%、さらに水素やアンモニアによる発電が10%となることを目指している。

 だが、この目標については、専門家や環境NGOなどから、疑問の声が上がっている。まず、「グリーン成長戦略」では、「全ての電力需要を100%再エネで賄うことは困難」だと決めつけているが、公益財団法人自然エネルギー財団(会長:孫正義氏)は、フィンランドのラッペンランタ工科大学、ドイツのシンクタンク「アゴラ・エナギーベンデ」との共同研究から、日本において“2050年時点で再エネ100%は可能”だと主張している。

 また「グリーン成長戦略」では、再生可能エネルギーの課題として、高コストや電力の需給バランスの調整力不足などを指摘している。ところが、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は昨年6月に公表した報告書で「2019年に新規に導入された大規模な再生可能エネルギーによる発電の設備容量の56%は、最も安価な化石燃料による発電コストを下回っています」と強調している。

 IRENAによれば、太陽光発電のコストは2010年から2019年までに82%低下し、陸上風力発電は39%、洋上風力発電は29%低下。今後もさらなるコスト低下が見込まれるとしている。また環境省は経済性を考慮した再生可能エネルギー導入のポテンシャルを、最大で現在の電力供給量の約2倍と試算しており、日本における再生可能エネルギーの可能性は極めて大きい。

 

 また、天候により左右されやすい再生可能エネルギーの供給の不安定さを補う対策として、自然エネルギー財団は、地域間電力移出入(地域間での電気のやり取り)や、そのための送配電網の運用強化と新設、電力貯蔵設備の増設などの対策をあげている。

 今後、再生可能エネルギーの普及が飛躍的に進めば、再生可能エネルギーを使用して製造される「グリーン水素」を飛行機や船舶の動力源などとして活用できるようになるだろう。水素は燃やしても、CO2が発生しないため、燃料や熱源としての利用が期待されている。

 

石炭火力を延命

「グリーン成長戦略」のさらなる問題点は、石炭火力発電を2050年まで使っていこうとしている点だ。石炭火力は、天然ガスや石油等を燃料とする火力発電よりも多くのCO2を排出するため、最優先で廃止していく必要がある。だが、「グリーン成長戦略」では、CCS(CO2回収・貯留)を付けたり、アンモニアと混焼させたりすることで、石炭火力発電を活用していくとしているのである。

 CCSとは、火力発電所などから排出されるCO2を大気中に逃がさず回収して、地中深くなどに封じ込める技術のことだ。だが、CCSは現段階で未完成の技術であり、またアンモニア混焼にしてもCO2排出を減少させるだけでゼロとするわけではない。結局これらの技術を口実に石炭火力発電を延命させるだけではないか、と環境NGOなどは警戒している。

著者情報

ジャーナリスト

志葉玲

しば れい

番組制作会社をへて2002年春から環境、平和、人権をテーマにフリーランスジャーナリストとしての活動を開始する。雑誌・新聞に寄稿し、現地で撮影した写真・映像をテレビ局や通信局に提供する他、コメンテーターとして各メディアで発言、全国各地で講演を行っている。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、 『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、共著に『原発依存国家』(扶桑社新書)等。 

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