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スペインの伝説的村長が語る民主主義

36年間の闘いで築き上げた「理想の村」

工藤律子(ジャーナリスト)

 近年マリナレーダ村は、経済危機のツケを国民に押し付ける身勝手な政府に怒りを爆発させた市民から注目されるようになり、髭の村長は希望を見失っていた若者たちのヒーローになった。だが、マリナレーダ村のような奇跡を起こすのは、簡単なことではない。革命的なアイデアを誰もがついその気になるような調子で語り、共に実現するリーダーはそうはいないうえ、現代資本主義に汚染された世界で、全員がお金よりも人に価値を置き、全体の幸福のために闘うことのできる場所は、そう多くはないからだ。
 経済状況の悪い州政府が農村への助成を減らしたおかげで、マリナレーダ村でも失業率こそ5%前後と低いものの、組合員への賃金が規定通りに払えないなどの問題が起きている。ただ、それでも平和なのは、互いへの信頼と足りないものは補い合う「共同体精神」が生きているからだ。
 日本のように人がバラバラで、既存の資本主義にどっぷり漬かり、独善的な政治に支配されている社会においても、こんな革命は可能なのだろうか? と問うと、髭の革命家はさらりとこう言った。
「もちろん。まず誰もが問題だと考えているテーマを一つ掲げ、それを解決するために皆で一緒に抗議行動を起こして闘い、成果を得るのです。具体的な成果を体験することこそ、人々が次の一歩を踏み出すための大きな力となります。理想はただの夢ではなく、実現可能だということを、皆で証明するのです」
 確かに成功体験こそが、闘争を続けるエネルギー。髭村長を父と慕う若手議員たちも話していた。「今あるものは皆、村の闘いの成果。だから私たちも闘い続ける」と。
 世界的に既存の資本主義経済やそれを信奉する政治に対する不信感が高まる今こそ、闘いを始めるのに最良のタイミングなのかもしれない。

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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