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スペイン市民政党ポデモスの闘い

真の民主主義を実現するために

工藤律子(ジャーナリスト)

 去る6月26日、スペインで総選挙のやり直しが行われた。2015 年12月20日の選挙では、二大政党=右派・国民党(PP)と中道左派の社会労働者党(PSOE)がどちらも下院議会で過半数をとれない中、社会労働者党党首のペドロ・サンチェスが連立政権を築こうと試みたが、中道右派のシウダダーノス(C’s)と組もうとしたために左派の反感を買い、失敗。再選挙に持ち込まれたのだ。この時、鍵を握っていたのが、市民政党「ポデモス(私たちはできる)」。再選挙では、共産党を中心とする左派連合体である統一左翼(IU)と共闘し、社会労働者党を抑えて下院議会第2勢力になることが事前の世論調査から期待されたが、投票直前に起きたイギリスのEU離脱騒動の影響もあり、「安定」を売りにした国民党への票が伸びて、第3勢力にとどまった。とはいえ、初めての国政選挙参加の結果としては、なかなかのものだろう。

市民運動の声から生まれた党

 ポデモスの名にある「私たち」とはむろん、「市民」のこと。同党は2014年1月、彗星のごとく現れた。11年5月15日に首都マドリードを中心とする全国50以上の都市で行われた大規模デモから始まった市民運動「15M(5月15日)」が、その出現を可能にした。
 ポデモスは、経済危機のもとで国民にばかり犠牲を求める政府の経済政策を批判する15Mの「真の民主主義を」「私たちは(二大政党の)政治家や銀行家の商品じゃない」という訴えに応えるべく、左派知識人らによって立ち上げられた。そして1人のカリスマを先頭に、14年5月の欧州議会選挙でいきなり5議席を獲得。そのカリスマとは、現党首のパブロ・イグレシアス(37)だ。
 ヒッピー風の長髪とひげのアラフォー男は、「スペインの東大」=マドリード・コンプルテンセ大学で政治学を教え、政府に批判的なテレビ討論番組の司会者として知られていた。現在、党のナンバー2、「幼顔」で人気のイニゴ・エレホン(32)も、政治学部の後輩だ。ポデモスのメインアクターたちは皆、20代から40代と若く、本業も科学者、教員、社会活動家、詩人など、多様。これまでの政治家とは全く異なる顔ぶれが今、スペインの政治を変えようと奮闘している。
 15Mは、人々が広場に集って議論する、ローマ時代の直接民主制を意識した手法を、市民の間に広めた。ポデモスは、できるだけそのスタイルに近づこうと14年10月、党ウェブサイトに提示する複数の提案(1党首制、集団指導体制など)の中から、党員が投票を通して党体制を決定するという方法を選択し、実施。1党首制が最も多くの票を集めた結果、イグレシアスが正式な党首に選ばれた。
 支持者の大半が日常的にインターネットを使う世代であることから、ポデモスは多くのことを、ネットを利用して行う。例えば、党員登録は無料かつ簡単にウェブサイト上でできるし、選挙資金集めにもクラウドファンディングを利用する。政策方針決定のための党員投票もウェブサイトから。ITが苦手な高齢者は、最寄りのポデモス事務所へ行けば、パソコンを前に若者が作業を手伝ってくれる。集会の告知も大抵はSNS経由。現代の市民感覚がそのまま、政治活動につながっている。

真の主役は市民

 ポデモスの躍進は、15Mで社会変革に目覚めた市民に支えられてきた。都市部を中心とした支持者・党員の多くは、地元に「シルクロ(サークルの意)」と呼ばれる組織を作り、ポデモスの地域事務所として、党を応援する。シルクロの多くは、15Mが各地に生み出した「15M地区議会」を基盤としている。自分たちが暮らす町や地域の広場に毎週集まって、社会を変えるための議論を戦わせていた人々が、ポデモスを支えているのだ。
 15年5月の統一地方議会選挙でポデモスは、州議会選挙にしか候補者を立てず、市町村議会選を全て、各市町村のシルクロに任せた。そこでシルクロのメンバーは、自分たちで独自の「ポデモス系」政党・政治組織を作り、選挙戦に挑んだ。私たちがいつもマドリード取材の拠点としている友人の家がある町、メホラーダ・デル・カンポ(以後メホラーダ)では、友人の隣人たちが「メホレモス(より良くしよう、の意。町の名前とポデモスの名称に引っ掛けた)」という新政党を作り、町議会選に打って出た。
「私にはまだ幼い子どもが3人いるんだけど、その将来をもっと良いものにするためには、私たち自身が今立ち上がらなければと思ったの」。そう話すのは、メホレモス代表となった会計士のベアトリスさん(40)。選挙(比例代表制)では、彼女を筆頭に、看護師、大学院生、環境活動家、有機農家といった多彩な仲間が、町議会議員定数21人プラス補欠数人のリストに名を連ねた。候補者リストのトップがその党の町長候補となる仕組みだ。皆、選挙に出馬するのは初めてのため、元労働組合活動家のペペさん(67)が参謀となって、政党登録手続きや公約パンフレットの製作・配布など、素人の戦いを指揮した。
「面倒なことばかりで苦労するけれど、何とか町政に影響力が持てるだけの議席は得たいね」と、ペペさん。小さなショッピングセンターの1階に設けた党事務所も、皆でお金を出し合って借りた。1人当選ごとに国から300ユーロ(当時約3万9000円)支給されるので、数人当選すれば使った分は回収できると踏む。わが友人も日曜日、隣人の家のテラスで、通りに掲げるための「メホレモス横断幕」作りを手伝った。
 投票日の夜11時すぎ、近所のバルに集まって開票結果を待つ仲間たちの元に、開票作業に立ち会っているメンバーから携帯電話のメールで結果が書かれたホワイトボードの画像が送られてきた。「5議席だ!」。何と国政与党の国民党と同じ5議席、7議席の社会労働者党に次ぐ第2党となった。まさかの快挙に、思わずメンバーが叫ぶ。「変革は、ここメホラーダから始まるぞ!」

変革への第一歩

 結党1年半余りで迎えた地方議会選で、ポデモスは善戦し、六つの自治州で左派政権成立に関与した。また、マドリード、バルセロナ、サラゴサ、バレンシアなどの主要都市では、市政を担うことになった市民政党・組織と左派政党の連合体に参加している。
 マドリード市長には、彼らが推した人権派の弁護士マヌエラ・カルメナ(72)が、バルセロナ市長には、イグレシアスのかつての社会運動仲間で、経済危機がもたらした深刻な問題の一つ、住宅ローン未払者立ち退き問題に取り組むNGO「住宅ローン被害者のためのプラットホーム(PAH)」のスポークスパースンだったアダ・コラウ(42)が、それぞれ就任した。どちらも長年、市民の権利のために闘ってきた女性で、15Mで活動した市民に高く評価されている。市長に就任してからは、政治経験の不足と少数与党であるというハンディから、全て思い通りにとは行かないものの、住宅ローンや家賃の未払いによる強制立ち退きを阻止して当事者同士の和解に取り組む部署を市役所に創設したり、市の無駄遣いをカットしたりと、市民の声を反映する政策を実施。また、欧州で問題になっているシリアなどからの難民を歓迎することも、明言している。
 彼女たちが所属する市民勢力の連合体は、どちらも「倫理コード」なるものを持つ。これは、自分たちの組織に所属する議員がどんな場合にも汚職に関わらないよう、自らを律するための規則だ。例えば、「収入は議員活動に必要な額、最高2200ユーロまでしか受け取らない」「議員は2期8年までしかやらない」などの項目が並ぶ。コラウ市長の行政チームの若手メンバーで、PAHで共に活動していたバルセロナ市議会議員のガラ・ピン(34)は言う。「市民運動の中にいた私には、政治家がどうして汚職に手を染めるのか、全くわからないわ。でも今の政治制度の内側にいると、誰しもいつかは腐敗するのかもしれない。だから私たちは倫理コードを作って、それに従った議員活動をしているの。自分がどこから来たのか常に自覚していることが、大事だと思う」
 マドリードもバルセロナも現在、社会労働者党との連立政権のため、同党とどう折り合いをつけるかにも神経を配る。権力の味を知る者は、何事も自分の思い通りに、かつ無難に収めようとするからだ。国政レベルで右派と連立を組もうとした社会労働者党を、ポデモス支持者は、「もはや左派とは言えない」と批判する。そんな党と政策を擦り合わせるのは簡単ではないが、それはわが友人・隣人たちのメホレモスにとっても同様だ。
 メホラーダ町議会では、国民党を除けば、議会は一応左寄りの政党で占められているが、国民党が「素人」政党のメホレモスを目の敵にしているところへ、第1党である社会労働者党の態度があいまいなために、ベアトリスさんらの議案がなかなか通らない。二大政党制は、もはや市民の邪魔にこそなれ、その利益を守るための役には立たないという思いが、変革を求める市民の間に広がっている。

「異なる政治」への夢

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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