泥棒か英雄か、顧客の脱税情報を大暴露
工藤律子(ジャーナリスト)
実は、私が16年5月にファルチアーニと会ったのは、スペインの「全国補完通貨大会」という地域通貨の普及などに取り組む市民の集まりにおいてだった。彼はその日、「フェア・ペイ(fair pay)」というテーマで、30人ほどの参加者を前に、話をしていた。地域社会といったローカルな場面での取り組みが中心の大会で、彼のような「国際的金融システムの問題に関与する」人間が何を話すのか、興味があった。
青いカッターシャツできめた、案外イケメンのフランス人システムエンジニアは、聴衆にフランス語訛りのスペイン語でまず、「金儲けのためではない、社会的意味合いの強い金融手段は作れるか?」という問いかけをした。
「例えばビザ、マスターなどのクレジットカードは、顧客のためというより、むしろ企業の利益のために作られたものです。しかし、それとは逆の、市民のためのクレジットカードを作ることもできます。自分は誰に貢献したいのかを明確にし、それに合ったクレジットカードを作ることは可能なのです。要は、そのカードが信頼できるものかどうか、つまり情報への信頼が重要なので、それさえ確保すれば、何も大企業が発行するクレジットカードを持つ必要はないのです」
そう話すと、一例として、各市町村で独自のクレジットカードや電子マネーを作る可能性について、説明する。
「市民は信頼できる町(市政・町政)を築き、町が市民とともにカードや電子マネーを含む独自の通貨を発行し、その貸し付けや支払い方法などを決めて、コントロールする。そうなれば、金融サービスに関する不正は排除され、信頼できる情報のやり取りができます。タックスヘイブン(租税回避地)の問題も解消する。信頼を維持するために最も大切なことは、私たち市民がその制度についての知識をきちんと持つことです」
つまり、従来のような金融機関に自分の財産や消費行動をコントロールさせるのではなく、自分たちのコミュニティを基礎にした金融システムを築き、市民が地域行政とともに自分たちの経済をコントロールしようというのだ。
地域通貨を扱っている人たちにとって、その根底にある考え方はよく理解できるものだが、例えば「クレジットカード」のようなものは、自分の町の中だけでなく、国内外のどこででも利用できないと困るではないか、という疑問が出た。これに対し、ファルチアーニは笑顔でこう応じる。
「ローカルマネーをグローバルに利用することは、可能です。金融取引は単に『情報の共有』にすぎないからです。『銀行』というのも、実は『情報テクノロジー会社』とほぼ同義語で、現金による取引は、取引全体の2%程度にすぎません。ですから、オープンソースを使って世界とつながり、独占を排した取引システムを構築すれば、どんな町が発行したクレジットカードでも、外国での買い物に使えるようになります。そして、もし問題が起きた場合は、自分の町の役所で問いただせばいいのです。実現にはまだ時間がかかりますが、皆さんのように地域通貨を扱っている市民がその気になれば、第一歩が踏み出せると思います」
確かに金融取引はデジタルデータのやり取りにすぎないのだから、システムさえ確立できれば、基礎単位が「市町村」であっても、国際的なやり取りができるわけだ。最近流行の「ビッグデータ」も、それを入手するシステムを築き上げれば、私たち市民がそれを有効利用できるようになると、ファルチアーニは言う。
「現在は、欧州中央銀行のような機関や大手クレジットカード会社のような大企業が、金融とテクノロジーを独占し、中央集権的に統制しています。それを私たちの手に、ローカルな主体のもとに持ってくることが、公正な取引、つまりフェア・ペイのために重要なのです」
変革のエージェント
この日ファルチアーニの話を聞きにきていた人たちの中には、大会開催地アルカラ・デ・エナーレスの「ポデモス」党員もいた。それは彼が、15年2月からポデモスの腐敗対策部門の活動に協力しているからだ。「(社会変革を目指す複数の)政党への協力は、あくまでもボランティア」だと語り、各地のポデモス支部と連携して、政治家の汚職や企業の脱税問題の告発のために動いている。
「政治腐敗が、経済の病いを引き起こす」と断言するファルチアーニは、ポデモス系の市民政治組織が担うバルセロナ市政を、絶賛する。バルセロナは、タックスヘイブンを使って脱税をしている疑いのある企業とは一切の契約をしないという、国内初の条例を出すなど、具体的な腐敗対策に取り組んでいるからだ。
「情報と経済的知識をしっかり持つことは、政治を豊かにします」
ファルチアーニは果たして、泥棒なのか、それとも「変革のエージェント」なのか。どちらにしろ、彼がしていることが市民に利をもたらしていることだけは、確かだ。
著者情報
ジャーナリスト
工藤律子
くどう りつこ
1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。