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韓国・文在寅政権の平和戦略

南北首脳会談で朝鮮半島「非核化」の実現はなるか

徐台教(ジャーナリスト)

 さらに、9月28日の建軍69周年式典の演説では「朝鮮半島の平和と繁栄は憲法が大統領に付与した、免責が許されない絶対的な義務」と強調し、「戦争の残酷さを経験した私たちに、平和よりも貴重な価値はない」と繰り返した。

 中国とロシアの存在感が低下していた17年の下半期、「朝鮮半島での武力使用不可=北朝鮮核問題の平和的な解決」という文大統領の原則は際立った。制裁に参加すると同時に平和を説く文大統領の立場には、フランスのマクロン大統領やドイツのメルケル首相などが支持を表明した。さらに戦争と北朝鮮への不安から、独自核武装化の話まで出るほどに揺れる韓国世論に対し、平和という「原点」を明確に示し続けたのだった。

「三原則」と北朝鮮の変化

 北朝鮮は18年1月1日、金正恩委員長の新年辞を通じ、平昌(ピョンチャン)オリンピックに参加することを表明するとともに、南北対話に応じることを表明した。この決断の背景については、専門家の間でも「北朝鮮内部でのプラン通り(核・ミサイル開発の完成から経済発展へ)」「経済制裁の影響に堪えかねて」など、様々な見方が存在する。

 韓国政府は表向きでは「南北間の直接チャンネルは存在しない」としつつも、文在寅政権発足後は、北朝鮮との間で対話を模索し続けてきた。この努力に加え、上記の「対話のための制裁」「過去の南北合意の尊重・継承」「平和」という三原則を示し続けてきたことで、北朝鮮が対話局面に入りやすくした点をしっかりと指摘しておきたい。

 日本のメディアや世論では、文在寅大統領の就任直後から、北朝鮮に対し「融和的」という評価ばかりが先行し、対話局面に入った後でも「ほほ笑み外交に騙されている」といった評価が多く見受けられた。

 しかし、これまで見てきたように、文政権はしっかりと原則を持った上で、過去の南北関係の蓄積を、次につなげるためのスタートラインとするために動いてきた。さらにそれを周辺国や国際社会に明示することで、朝鮮半島の未来を「自主的に」導いていけるよう、韓国メディアで使われる表現を借りれば、朝鮮半島の「運転者」になろうとした。

 だがこれは半分の成功に終わった。3月26日の中朝首脳会談により、米韓−中朝という対立軸に戻るかのような動きも見せているからだ。とはいえ、韓国の立ち位置や南北関係の脈絡を理解するのとしないのとでは、まったく見方が変わる点がお分かりいただけたと思う。

「人権問題」をどうするか

 就任から1年になろうとする18年4月初頭の時点で、文在寅政権の支持率は70%を超える。朝鮮半島情勢の緊張緩和は、支持理由の一つでもある。

 しかし、筆者は「三原則」とそれを推し進めてきた文在寅大統領への評価とは別に、今の文政権の北朝鮮政策に強い不満を抱いていることを告白せずにはいられない。

 不満とは「北朝鮮の人権問題」の位置付けができていない点だ。言うまでもないが、北朝鮮の住民は政府によりひどい人権侵害を受けている。政治犯収容所があり、言論の自由、移動の自由なども存在しない。

 筆者は3月末、韓国において非公開で開かれたとある人権フォーラムに招かれ、参加してきた。テーマは、北朝鮮の人権問題を南北対話の流れの中でどうセッティングするか。2000年から北朝鮮の人権問題に関わってきた経験を買われて呼ばれたのである。

 だが、著名な学者や運動家が集まったにもかかわらず(政府関係者もいた)、会では何の結論にも到達することができなかった。北朝鮮が嫌がる人権問題を、今このタイミングで提起する必要はないということだ。

 こうした場面は2000年に入って以降、繰り返されてきた。進歩派政権下では人権を提起することによって南北関係が悪くなることが心配され、保守政権下では満足な南北の疎通がなかったために一方的な誹謗に終わった。

 しかし、変わらなければならない。現政権は、「キャンドルデモ」により成立した点を強調する。では「キャンドルの精神」とは何か。市民が政府に物申せることである。それを認めない北朝鮮政府と今後どう関係を深めていくと言うのだろうか。

韓国が朝鮮半島の「運転手」に

 18年4月27日、板門店で11年ぶりとなる南北首脳会談が行われる。議題は「朝鮮半島の非核化」「軍事的緊張の緩和を含む恒久的平和の定着」「南北関係の発展」の三つだ。しかし、非核化については5月に控える米朝首脳会談が「真打ち」であるため、南北関係の今後についての話になる公算が高い。

 首脳会談で出される「宣言」について、4月18日に韓国政府高官は「南北間での敵対行為を終わらせる終戦宣言」を含めようと努力していることを認めた。また、北朝鮮が一方的に破棄した「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言(南北非核化宣言、92年)」に代わるものが議論されるものと思われる。さらに、今後、継続して南北が対話していくための枠組みについても決まる可能性もある。

 筆者は、韓国が前述したような朝鮮半島の「運転者」を目指し続けることが、南北会談の位置付けとして最も重要だと考える。北朝鮮が思い通りに動くとは思えないので、韓国政府としては、先の三原則を維持しつつ更新、または追加する成果を残したいところだ。そしてそこに人権問題が入る余地があって欲しいと筆者は思う。

 就任1年に満たない中、朝鮮半島情勢における文在寅政権の存在感は今や無視できないまでに成長した。この勢いを持続し、絶え間なく更新し続ける先に、朝鮮半島の未来がある。

著者情報

ジャーナリスト

徐台教

ソ・テギョ

1978年、群馬県生まれの在日コリアン三世。小学校は朝鮮学校、中学校・高校は公立学校で学び、1999年からソウル在住。韓国の高麗大学東洋史学科を卒業後、人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年、韓国に「永住帰国」すると同時に独立。現在「コリア・フォーカス」編集長。主な取材テーマは、朝鮮半島の分断、南北関係、韓国政治など。Yahoo!ニュースや日本メディアへの寄稿・出演多数。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。2022年、「第七回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。著書に『分断八〇年 韓国民主主義と南北統一の限界』(集英社クリエイティブ)がある。

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