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南北和解協力の象徴、開城工業団地の再開なるか

分断克服に向けペースアップを望む現場の声

徐台教(ジャーナリスト)

「韓国の立場だけを考えずに、北側がなぜ開城工団を開いたのかをしっかりと考えなければならない。金正日(キム・ジョンイル)国防委員長同様、金正恩(キム・ジョンウン)委員長も恐らく、終戦宣言や平和協定が行われても紙上の合意、紳士協定に過ぎないと思っているはずだ。実際に李明博大統領は既存の南北合意をひっくり返した。だからこそ北朝鮮は、経済協力を高度化させることが終戦と平和を担保すると見ているのではないか。なかなか理解できないかもしれないが、北側が望むのは平和だ。韓国を含め海外からたくさんの企業が工団に参加することで戦争が遠のき、平和が担保されるという論理だ。開城工団は南北の和解と平和の象徴だ」

真剣に働く北朝鮮の労働者たち。閉鎖により、労働者5万5000人が職を失った。その家族まで考えると北朝鮮経済に与える影響は少なくない。写真は開城工業団地支援財団提供。

 北側は結局、お金が目当てなのではないかと聞くと、そうではないと言う。

「韓国側が北側に支払う金額では、労働者とその家族の衣食住を賄うのは難しい。軍事用に転用する余裕は北側にはない。儲かっているのは韓国だ。韓国との敵対的な関係にもかかわらず、なぜ北朝鮮は資本主義の発信地となるかもしれない開城工団をずっと維持してきたのか。北朝鮮をもっと知る必要がある」

 16年2月、朴槿恵政権は閉鎖の理由に「これまで開城工団に6160万ウォンの現金が流入し、昨年(15年)だけでも1320億ウォンにおよぶ。韓国政府と民間の投資額も1兆190億ウォンにも及んだが、これらは核暖冬と長距離ミサイルを高度化するために使われた」点を挙げた。だが、この話に証拠がないことを、前述した韓国統一部の政策革新委員会が17年12月の報告書で明かしている。

 金理事長はなおも熱心に語り続ける。

「北側を制裁するために工団を閉鎖したというが、実際は韓国が自ら門を閉ざしたようなものだ。(16年2月の)閉鎖が制裁としての実効性もなく、政策(決定の過程)としても失敗だったにもかかわらず、それをすぐに修正しないのはおかしい」

韓国主導で再開を

 現在、韓国の統一部は開城工団再開の条件に「非核化の進展」を挙げている。これについて金理事長は「昨年11月29日以降、約8カ月も核・ミサイル実験を凍結しているし、4月と6月には首脳会談で非核化に合意もした」と北側の譲歩を挙げた。
 その上で最近の膠着(こうちゃく)状態における韓国の役割をこう力説した。

「アメリカが北朝鮮との交渉の速度を調節しようとしている中、韓国はドナルド・トランプ大統領の助力となる方策を考えるべきだ。韓国がこのまま『突破(工団の再開)』すれば、トランプ大統領は(北朝鮮との交渉に難色を示す)アメリカの議会やメディアに『韓国はあのように進めている』と説得できる。アメリカの顔色をうかがうのは(非核化の)助けにならない」

開城工団では豪華賞品を用意し、定期的に運動大会を開いたという。工団の外に出られない労働者たちにとって憩いの場であったと、金理事長は振り返る。写真は開城工業団地支援財団提供。

 こうしたいわば「韓国主導論」を語る進歩派、特に自主派と呼ばれる専門家は多い。現在、韓国で主流となっている自主派の考えとは、南北問題は今や国際問題であるが、そもそもは民族の問題であるとした上で、「開かれた自主」の精神で国際社会において韓国がイニシアティブを発揮するべきという立場だ。今の文在寅(ムン・ジェイン)政権のブレーンの多くがこの考えを共有しており、「朝鮮半島の運転手論」に代表される韓国の北朝鮮政策の骨組みでもある。金理事長は続ける。

「7月にアメリカを訪れた際、連邦議会でも地方議会でも『なぜ韓国が主導的に出ていかないのか』と逆に聞かれた。韓国はアメリカに心理的な依存している。分断が70年続き、分断が体制であり文化となってしまったと実感している。独自で動けなくなってしまった。今は速度を上げるべき。そうしてこそ、韓国が主導できる。今は経済協力を引き戻せないところまで進める必要がある」

開城工団をめぐる駆け引き

 北朝鮮側は実際、7月31日に朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」で「何が南北関係の新しい行く手を阻んでいるのか」という論評を発表し、「核実験と弾道ミサイルの発射を中止したのに加え、北部核実験場まで廃棄する勇断を見せたのに、これに釣り合う措置が必要だ」と主張した。

 その上で「どんな情勢でも6.15時代(00年の南北共同宣言以降を指す)の結晶として、南北関係の最後の砦として安定して動いていた開城工業地区を天下の悪女・朴槿恵逆徒が『国会』の同意はおろか、他の誰とも一切の協議もないまま独断で断ち切ったので無かったのか」と、韓国側に「決断」を強く迫った。

 なお、金理事長は「現在、開城工団に滞在しているあらゆる北側の当局者が、再開を主張している」と明かす。韓国側も準備に抜かりはない。

「閉鎖から2年5カ月が経った。今年の年末が工団で操業していた韓国企業にとって、経営的に耐えられる最後のラインだ。だからこそ財団の仕事も『政府が公団再開を決定した場合、いかに早く対応できるか』に焦点を合わせている。施設の管理状態は想像以上に良い。工団は国連制裁で閉鎖されたわけではないので、韓国政府の決定だけあれば再開できる。機械設備点検は最長でも3カ月でいける。10月から始めても遅くない。8、9、10月に議論すればいい」

 このように、「さらなる非核化措置のための相互措置」を求める北朝鮮側と、「歴史的な米朝合意を進めるための促進剤」を打ち込みたい韓国側の立場は、「開城工団再開」で一致を見ているように見える。

 だが、こうした空気を読むアメリカは7月31日、メディアに対し「安全を阻害し、挑発を続ける北朝鮮の行動に対し行われた16年2月の工団閉鎖を支持する」と国務省名義の論評を発表した。

 韓国内にも慎重論は根強い。文在寅大統領の外交安保特別補佐を務め、急進的な発言で話題を呼ぶ文正仁(ムン・ジョンイン)延世大名誉教授は7月26日、筆者のインタビューに対し「全面閉鎖されている今、開城工団再開は簡単ではない。韓国は国連安保理制裁の枠組みを遵守する立場で動いている。もう少し見守ろう」と述べた。

7月16日、開城工業団地支援財団金鎮香理事長(左)とインタビューを行う筆者。

 一方、金理事長は1日、一連の米朝の立場を背景に自身のフェイスブックを更新。「開城工団は経済的にも韓国が圧倒的に多く稼ぐ場所だ。当初から南北は平和のために開城工団を作った。政策の失敗を維持し続けるのも政策の失敗だ。開城工団は再開されなければならない」、「韓国は民主共和国だ、韓国は自主独立国家だ。胸が痛み、目頭が熱くなる」と書き込んだ。

 朴槿恵政権時代の積弊(悪政)清算や、米朝関係を進めるためのカンフル剤として、さらに南北の未来を予見する地域としても、開城工団からは今後しばらく目を離せそうにない。

著者情報

ジャーナリスト

徐台教

ソ・テギョ

1978年、群馬県生まれの在日コリアン三世。小学校は朝鮮学校、中学校・高校は公立学校で学び、1999年からソウル在住。韓国の高麗大学東洋史学科を卒業後、人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年、韓国に「永住帰国」すると同時に独立。現在「コリア・フォーカス」編集長。主な取材テーマは、朝鮮半島の分断、南北関係、韓国政治など。Yahoo!ニュースや日本メディアへの寄稿・出演多数。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。2022年、「第七回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。著書に『分断八〇年 韓国民主主義と南北統一の限界』(集英社クリエイティブ)がある。

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