2020年アメリカ大統領選挙の行方を変える新しいムーブメントの兆し
渡辺由佳里(エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家)
2008年も2016年も、これまで政治に関わったことのない人々が「自分の行動が選挙を変える。社会を変える」というパワーに目覚めて魅了され、大きなムーブメントを作った。2016年のヒラリー・クリントンに欠けていたのは、この新鮮な興奮とムーブメントだったと思う。
2020年の民主党指名候補であるジョー・バイデンは、77歳と高齢であり、政治家歴が長い白人男性だ。彼に新鮮さはない。だが、筆者の取材では、リベラル寄りの有権者の多くが「副大統領候補に年下の女性(特に黒人女性)を選んでくれたらそれでいい」と答えた。「こんなことを言ってはいけないが」と遠慮しつつ「バイデンは副大統領に仕事を任せるだろうし、(高齢だから)もしかしたらその女性が大統領になる事態があるかもしれない」と付け加える人もいた。それに、今回の大統領選での新鮮なムーブメントは候補ではなく「トランプを権力の座から下ろす」という目標なのだ。その目標に向かって、これまで敵対していたグループが繋がり始めている。ツイッターで「トランプはアメリカ人を団結させる大統領だ。『アンチ』という意味で」というジョークも目にしたが、決して冗談ではなくなっている。
若い女性たちがアメリカの将来を変える
もうひとつこれまでの大統領選と異なるのは、タルサでの集会で空席を作ってトランプに打撃を与えた戦略の中心にいたのがK-POPの熱狂的ファンである若い女性たちだったということだ(Brandwatchによるソーシャルメディアの調査では、人気バンドBTSのARMYの75%が女性だという)。そのうえ、彼らの活動は非常に平和的だ。以前から #WhiteLivesMatter(白人の命も大切だ)といった白人優越主義者によるハッシュタグがトレンド入りしそうになると、K-POPのファンがそのハッシュタグをつけてK-POPのミュージックビデオを大量に投稿するという抗議活動をしているのは知られていた。2016年の大統領選では、ハッシュタグをつけて陰謀説を流す者が多かったが、K-POPのファンはそれを無効にするパワーを持ちはじめている。
これまでの大統領選では、党や候補にかかわらずムーブメントの中心にいたのは白人男性だった。だが、2015年にボルティモア市で若い黒人女性の投票を促す無党派の非営利組織Black Girls Voteを立ち上げたナイキ・ロビンソンのように、若い女性がムーブメントを作るようになっている。
もし、タルサのトランプ集会を破滅させた若い女性たちが2020年の大統領選挙に影響を与える“パワーハウス”(原動力)になるとしたら、高齢の白人男性を中心にした政治が根こそぎ変わるかもしれない。そうなったら、アメリカの将来は本当に変わるかもしれない。
著者情報
エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家
渡辺由佳里
わたなべ ゆかり
助産師、日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、1995年よりアメリカ在住。ニューズウィーク日本版に「ベストセラーからアメリカを読む」、ほかにcakes、FINDERSなどでアメリカの文化や政治経済に関するエッセイを長期にわたり連載している。主幹する「洋書ファンクラブ」では年間200冊以上読破する洋書の中からこれはというものを読者に向けて発信し、多くの出版関係者が選書の参考にするほど高い評価を得ている。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。著書に『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(2017年、晶文社)、『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(2020年、亜紀書房)、『アメリカはいつも夢見ている』(2022年、ベストセラーズ)など。翻訳書に、『毒見師イレーナ』(マリア・V・スナイダー著、2015年、ハーパーコリンズ・ジャパン)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(デイヴィッド・ミーアマン・スコット他著、糸井重里監修、2020年、日経ビジネス人文庫)、『それを、真の名で呼ぶならば』(レベッカ・ソルニット著、2020年、岩波書店)などがある。