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タリバンに私たちはどう向き合うか 日本も当事国として参加した「アフガン戦争」の20年

伊勢崎賢治(東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授)

(構成・文/仲藤里美)

 ただしトランプも、一応は「責任ある撤退」にこだわって、撤退に「タリバンがアルカイダやISと手を切る」のを筆頭に、いくつかの条件を付けていた。まあ、タリバンにとっては「努力目標」にしか過ぎないのですが、バイデンはタリバンにその“条件”の成就を確認することもなく「無条件で撤退する」としたのです。さらには、撤退期限を5月から9月11日にまで延期し、しかもそれをタリバンの合意を得る前に発表してしまった。タリバンが「約束が違う」と怒るのは当たり前です。前任者トランプがつくった交渉の場さえ停滞させてしまった。でも、一方的な米軍撤退はどんどん推し進めた。あまりにも、9・11というアメリカ国民向けの政治的な演出にこだわり過ぎた結果としか思えません。

 たしかに米国内では近年、長引く戦争に厭戦ムードが高まり、早期の戦争終結を望む声が高まっていました。しかし、人々が望んだのはこうした終わらせ方ではなかった。空港から飛び立つ飛行機に人々がしがみつこうとして落ちていく衝撃的な映像に、多くの人がかつてのベトナム戦争でのサイゴン陥落を思い出したはずです。この「歴史に残る大失敗」に、バイデンの国内での人気は急降下。ここから米国の政情がどうなっていくのかは分かりません。

タリバンが首都カブールを掌握した翌日、アフガニスタンからの出国を求めて滑走路を移動する米軍の輸送機とともに走る人々。数百人もの人々がカブール国際空港に駆けつけた(2021年8月16日、カブール国際空港)

滑走路を移動する米軍の輸送機とともに走る人々(2021年8月16日、カブール国際空港)

 

日本はこの戦争の「当事者」だった

 もう一つ、忘れてはならないと思うのは、日本はこの戦争における、「傍観者」ではなく「当事者」だということです。

「日本は憲法9条があるから戦争に加わらずに済んだ」という人がいますが、米国とNATO諸国がアフガニスタンを攻撃した「不朽の自由作戦」は、国連の決議に基づく集団安全保障措置ではなく、あくまで集団的自衛権によるNATO諸国の軍事作戦です。日本はその一部である「海上阻止行動」に、インド洋上での海上自衛隊による補給支援活動という形で参加しました。NATOの一員ですらないにもかかわらず軍事作戦に加わった、紛れもない戦争当事国だったのです。

 だからこそ、タリバンがカブールを掌握した後、日本も大使館を閉めて「敗走」することになった。もし、本当に戦争に参加していなかったのなら、そんな必要はなかったはずです。実際、中国やロシアは大使館を閉めませんでした。

「日本は戦争の当事者ではなかったのだから、大使館を閉める必要はない」という声は、果たして、憲法9条を信奉する野党の政治家、そして有識者から上がったでしょうか? 私は、一切、耳にしていません。

 地震や津波、あるいは内戦などによる外国人の緊急退避ではないのです。戦争の当事者である「外国」が、その戦争に負けて「敗走」しているのです。残された「協力者」たちは、タリバンから見ると、「魂を売り渡し敵の戦争に加担した裏切り者」です。カブール陥落の前に、地方では公開処刑さえ起こりました。タリバン首脳部が「復讐はしない」という声明を出したとはいえ、下部兵士への統制力がどの程度あるのかは推して知るべしです。

 だから、米国・NATO諸国は、通訳など軍事活動のために雇用していたアフガン人を筆頭に、大使館や公的援助機関、そして自由主義や人権といったタリバンに対抗する思想を広めるために公的資金を投入したNGOの職員、さらには活動家やジャーナリスト、そして自国への留学経験者まで、大量のアフガン人が緊急脱出できるように、「命のビザ」の発給に躍起になったのです。本人だけではなくその家族も含めて、簡素化したウェブ上の手続きだけでビザを発給し、空路だけでなく陸路でも、可能な方法で脱出できるように手を尽くしました。それに対して、日本はどうだったでしょうか?

 現在、「敗走」にあたって、日本大使館やJICAの現地アフガン人スタッフでさえ「置き去り」にした日本政府・外務省への批判が、ここぞとばかりに強まっています。思うような成果をあげられなかった自衛隊機派遣に対しては、嘲笑さえ向けられています。

 たしかに、自衛隊による救出活動の「初動」が決定的に遅かったのは事実です。しかし、野党やリベラル勢力はいうに及ばず、メディア、有識者を含めて日本人全体が、これが「敗走」であることを、どれだけ理解していたでしょうか? 人道的危機において、日本のために命がけで働いてくれていた異国の人々の命を邦人の命と同等に考える発想を、どれだけの日本人が持っていたでしょうか?

 9月に入り、カブール空港では民間機の就航が再開しました。ネット環境がある限り、今からでも遅くはありません。早急に「命のビザ」を発給し、「置き去り」にしてしまったアフガン人たちとその家族の救出に全力を尽くすべきです。

 

タリバン新政権を、孤立させてはならない

 さて、今後のアフガンにおいては、旧タリバン政権のときのように、女性の権利をはじめとする人権状況が悪化するのではないかと強く懸念されています。国際社会は、そして日本は、タリバン新政権のアフガニスタンと、どう対峙していけばいいのでしょうか。

 カブール陥落後、バイデン政権は米国内にあるアフガン政府の外貨準備金を凍結しました。IMFも「タリバン新政権が国際社会の承認を得ていない」ことを理由に、予定されていた経済支援の送金を止めると表明しています。そうして事実上の金融制裁を行うことで、タリバンに圧力をかけようとしているようです。

 タリバン支配下において、「人権」が無視されることのないようにすることは重要です。とりわけ女性や少数派の権利を守ることは、援助凍結と制裁の解除の「条件」として、大前提に掲げなくてはなりません。

 しかし、最初から闇雲に「ハードル」を上げすぎない方がいい、と思うのです。

 旧タリバン政権のときのような「人権」への姿勢をとれば、それは自分たちの首を締めることにしかならないのは、今のタリバン首脳部もよく分かっています。もちろん、武装組織として戦うことと、政府を運営することでは、かかる金が桁違いであることも知っている。さらには、ガニ政権からの「役人」たちを食わさない限り政権が立ち行かなくなることも、そして下部兵士たちに、戦って勝ち得た利益を味わわせてやらなければ、やがて不満が広がり統制が効かなくなってくることも、タリバン首脳部自らが十分に分かっているのです。

 彼らは政権掌握後最初の会見で、女性の権利は「シャリーア(イスラム法)の範囲内で尊重する」「権力を独占せず、他の政治勢力も含めた『インクルーシブ(包括的)』な政府をつくる」と述べました。ただ後者については、前のタリバン政権を崩壊させた後、2001年の暮れにアメリカが中心となって設立した暫定政府から、タリバンは完全に排除されていたという事実があります。勝利に酔ったアメリカ、そしてそれと一緒に戦った軍閥たちは、勝利の後の権益確保に没頭し、「敗者」への配慮など眼中になく、全ての組閣ポストを貪り尽くしたのです。

 立場が逆転した今、そのタリバンに向かって、新政府を包括的にせよと迫るのは、本来なら無理筋な要求なのです。アルカイダと直接的なつながりのある強硬派を含め、色々な派閥でなりたつタリバンが、組閣において、敗者への配慮をしながら派閥間の利害調整をするとは、現実問題としてちょっと考えにくいでしょう。

 ですから、とりあえずこの段階では、「人道援助」を全開してみてはどうでしょうか。その場合の「条件」は、食料、医療などが、それを必要としている人々に届く手段と方法の確保です。その後も、援助する側の「人権観」は、「人道援助」の条件にどこまでなりうるのかを自問自答し続けていかなくてはなりません。価値観の異なる人々との交渉ですから、焦らず、時間をかける必要があるのです。

 タリバンという組織はもともと、アフガニスタンの最大勢力パシュトゥン族の学生たちによる「世直し運動」から始まりました。冷戦期のソ連軍による侵攻後、それを追い出した軍閥たち(後に私は彼らを武装解除することになったわけですが)による権力闘争で荒廃したアフガンを、再生させるために立ち上がった若者たちだったのです。

 しかし、政権を取りはしたものの、国を動かす経験がなかった彼らは、福祉・開発を期待する国民に信頼で応えるのではなく、力で統制する恐怖政治へと陥っていきました。そして、後に9・11テロ事件を引き起こすことになるアルカイダをかこい、国際社会からも孤立していくことになります。

著者情報

東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授

伊勢崎賢治

いせざき けんじ

1957年、東京都生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。インドに留学中、現地スラム住民の居住権をめぐる運動に関わる。国際NGOで10年間、アフリカの開発援助に従事。2000年より国連PKOの幹部として、東ティモールで暫定行政府の県知事を務め、2001年よりシエラレオネで国連派遣団の武装解除部長。2003年からは、日本政府特別代表としてアフガニスタンの武装解除を担った。現在、東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。著書に『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書、2004年)、『本当の戦争の話をしよう 世界の「対立」を仕切る』(朝日出版社、2015年)など。共著に『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』(集英社クリエイティブ、2017年)など。イミダスの連載「伊勢崎賢治・布施祐仁に聞く『日米地位協定と主権なき日本』」はこちら!

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