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【非常戒厳1年から考える】朝鮮半島の分断と日米安保体制との深いかかわり

徐台教(ジャーナリスト)

布施祐仁(ジャーナリスト)

 やはり韓国の知識人として、「それを言ったらおしまいよ」というのがあるわけです。分断が長引く中で、韓国が自力でこれを解決できなかったことに対する忸怩(じくじ)たる思いがあるわけですよね。だから、ついつい口には出してしまうんだけども、文字にはなってほしくないということです。李在明(イ・ジェミョン)大統領は、3年前の京畿道知事の時に、「日本が分断されるべきだった」と記者会見で言っていましたが……。

布施 日本は、戦後、一度も戦場になることなく平和を享受してきました。ところが、朝鮮半島では南北で分断され、朝鮮戦争で多くの人が亡くなった。日本の平和というのは、いわば周辺国の犠牲の下で成り立ってきたわけです。南北分断に対して、日本はもっと責任を自覚する必要があると私は思います。

 

朝鮮戦争で生まれた秩序が今も続く

布施 私は、「対米従属」が日本のいろいろな問題の根底にあると思っています。敗戦後、国土が焦土になって経済もボロボロになった中で朝鮮戦争が始まり、アメリカは介入軍(いわゆる「朝鮮国連軍」)の司令部を東京に置きました。アメリカは占領中の日本をフルに使って、朝鮮半島で戦争をしたわけです。日本にも兵站(へいたん)で協力を求め、軍需物資の生産からトラックや戦車の修理まで拡大していき、「朝鮮特需」が生まれました。アメリカの戦争に全面協力することで儲かる。そうしたうまみを日本は知ってしまったわけです。
 日本の対米従属を固定化したのが、朝鮮戦争のさなかに結ばれた日米安保条約です。日米安保条約の目的は、一つは日本の防衛。そしてもう一つは、極東の平和と安定を維持するという、朝鮮戦争を念頭においたものでした。つまり、朝鮮戦争や将来起こるかもしれない極東地域での戦争で、アメリカが日本を拠点として利用できるようにしたのです。今日まで日本政府が外交・安全保障の基軸としている日米安保体制と、朝鮮戦争や朝鮮半島の南北分断というのは、実はセットなんです。

 現在でも朝鮮戦争が終わっていないために、日本国内の7つの基地・区域を朝鮮戦争の国連軍が使用できるようになっていますね。南北分断というのは、アメリカをはじめとする周辺関係国にとって「終わってはならない」強固な秩序になっているのではないかと思います。

布施 朝鮮戦争が正式に終わっていないことを一つの口実にして、アメリカは日本におけるさまざまな軍事的特権を維持しています。朝鮮戦争が終結し、朝鮮半島が南北統一をして平和になってしまうと、それらの特権や日本への米軍駐留を正当化する根拠が一つなくなってしまうわけです。
 日本にも、日本の安全保障のためには南北分断の継続が望ましいという考えが根強く存在しています。2018年に南北首脳会談や米朝首脳会談が相次いで開かれて緊張緩和に向かった時、もし朝鮮半島が統一すれば、日本の防衛ラインが38度線から対馬海峡まで下りてきてしまう、などと言って警戒する自民党の国防族議員や元自衛隊幹部がいました。彼らは今も、韓国を日本にとっての緩衝地帯と見なしているのです。植民地支配をしていた時と同じように。

 2018年当時、アメリカや日本の安全保障関係者は、韓国が秩序を乱そうとしていると言っていました。南北で対話がうまくいって朝鮮戦争が終わることは、まったく歓迎されていないんだなと感じました。

 

軍拡に対する日韓の意識の違い

布施 日本は平和主義を掲げながら、対米従属の中でアメリカの要求に従って防衛力を大幅に増強しようとしています。

 北朝鮮が核を持っている今、韓国もそれに対抗するため際限のない軍拡に向かっています。今や韓国では、軍需産業が国家の基幹産業です。日本では、まだ軍拡に対する市民の拒否感が強いように思いますが、韓国では一部の平和団体を除いて市民の拒否感はあまり感じられません。

布施 その違いは、どこからきているのでしょうか?

 やはり朝鮮戦争がまだ終わっていないため、韓国では「反戦」を声高に言えない状況があるのです。男は徴兵されて、国家に対する忠誠だとか、北朝鮮に対する憎しみだとか、動員体制に従うことをたたき込まれる。社会がそうやって軍事社会化するわけです。そういう中で、なかなか理想論を語れないというのはありますよね。だから、核武装にしても、日本では8割が反対なのに対して、韓国では6~7割が賛成しています。韓国で新型のミサイルを開発したら、「これは核兵器にも比肩する」ということを、進歩派メディアも嬉々として書いています。

布施 朝鮮半島は植民地支配という苦しい経験をしているのは、大きいと思います。強い軍事力がなかったから外国に主権を奪われて支配されてしまった。だから自立するためには、強い軍事力を持たなければいけない――そうした意識は、イラクで取材をしていた時にもとても強く感じました。
 日本は、植民地支配をされてこなかったということと、軍事力を持ちすぎたために過信し、国を滅ぼす戦争に突き進んでしまったという二つの経験をしている。それによって戦後、軍事力に対する非常に強いアレルギーが生まれたと思うんです。軍事力に頼りすぎると危ういという教訓はこれからも大事にすべきですが、一方で、主権や独立を自分たちで守っていかなければならないという意識は韓国に学ばなければならないと思っています。日本は植民地支配をされた経験がないので、そこの意識が薄いと感じます。その結果、在日米軍の特権を定めた地位協定は一度も改定されていません。韓国もフィリピンも、地位協定を何度も改定しているし、イラクもアメリカとハードな交渉をして主権を最大限確保する地位協定をつくっています。

 おっしゃるように、植民地にされた経験というのは、分断と並び、軍拡を受け入れる大義名分であるように思います。韓国メディアでは「このままでは国が滅びる」といった脈絡の言葉がよく出てくるんです。実際に日本の植民地になって滅びていますし、例えば北朝鮮と核戦争になるという危機感みたいなものがあります。そうしたことが、「強くなければいけない」という国家的トラウマになっている部分もあると思いますね。

布施 韓国の歴史を踏まえれば、それは理解できます。ただ、軍拡競争というのは、エスカレートしていきます。相手の脅威に備えるための軍拡でも、相手はそれを脅威と捉えてもっと軍拡しようとします。そうなれば、こちらももっと軍拡しなければならなくなります。これでは、いつまで経っても本当の意味での平和は実現しないと思います。軍事的な脅威というのは、「能力(軍事力)」と「意図」の掛け算だと言われます。戦争を予防するためには、軍事力による抑止だけでなく、相手を攻撃しようとする意図を減らすような外交が不可欠です。その一つが、朝鮮半島の非核化と朝鮮半島の恒久的平和体制の構築をセットで進めようとした2018年の一連のプロセスでした。

2018年4月27日、板門店「徒歩の橋」で対話する金正恩(左)と文在寅(右)

 

北朝鮮の非核化

 2018年の時、既存の分断体制を乗り越えるキーワードとして、韓国の識者たちの間でよく言われたのは、韓国が北朝鮮に対して譲る「勇気」を持つことでした。2018年9月の南北軍事合意書は、軍事境界線の周辺で訓練をできなくしたり、飛行禁止区域を40キロ設けたりという、韓国にはとても不利な条件でした。それでも韓国は、対話の幅を広げていく第一歩として、自分たちに不利な条件をのんだわけです。

布施 1992年に韓国と北朝鮮が「朝鮮半島の非核に関する共同宣言」に署名した際も、韓国の盧泰愚(ノ・テウ)政権がまず韓国に配備されていたアメリカの戦術核兵器を先に撤去させて、その上で北朝鮮と交渉してうまくいきました。この例からも、北朝鮮に一方的に譲歩を迫るのではなく、互いに譲るところは譲って状況を一歩一歩良くしていこうという姿勢が必要だと思います。

 最近、韓国では、北朝鮮が非核化することはないという見方が広がっています。李在明政権は、これまでの非核化の枠組みは維持しながらも、時間がかかる非核化は後回しにして北朝鮮の核開発を中断させ、平和的2国家の共存体制をまずつくろうとしています。つまり、従来、「非核化」と「朝鮮戦争の平和協定」と「米朝国交正常化」と「制裁解除」がすべてセットになっていましたが、今は、一つずつできるところから取り組んでいく方向に変わってきています。

著者情報

ジャーナリスト

徐台教

ソ・テギョ

1978年、群馬県生まれの在日コリアン三世。小学校は朝鮮学校、中学校・高校は公立学校で学び、1999年からソウル在住。韓国の高麗大学東洋史学科を卒業後、人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年、韓国に「永住帰国」すると同時に独立。現在「コリア・フォーカス」編集長。主な取材テーマは、朝鮮半島の分断、南北関係、韓国政治など。Yahoo!ニュースや日本メディアへの寄稿・出演多数。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。2022年、「第七回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。著書に『分断八〇年 韓国民主主義と南北統一の限界』(集英社クリエイティブ)がある。

ジャーナリスト

布施祐仁

ふせ ゆうじん

1976年、東京都生まれ。『ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場』で平和・協同ジャーナリスト基金賞、JCJ賞を受賞。三浦英之氏との共著『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『日米密約 裁かれない米兵犯罪』『経済的徴兵制』、共著に『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』などがある。
イミダスの連載「伊勢崎賢治・布施祐仁に聞く『日米地位協定と主権なき日本』」はこちら!

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