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社会問題

三次救急病院なのに「ベッドが満床」

なぜ救急受け入れができないのか?

有賀徹(昭和大学病院副院長、昭和大学医学部教授・救急医学講座主任)

救急車が来ない! 急病で苦しくても病院に入れない! 昨今、日本の救急医療が危機に瀕(ひん)している。2008年10月に東京都内で起きた妊婦死亡事件をきっかけに、日々報道される医療崩壊の実態や先行きの不安…。果たして救急医療現場に何が起こっているのか?

要入院の救急患者は1割のみ

 現在の日本の救急医療体制は、診療を行う医療機関、患者の搬送機関、それら全体を統括する情報ネットワークから成り立っている。そこでまず全国にある救急医療機関の数を見ると、2008年7月1日現在では、比較的軽症の患者を診る初期救急医療施設(在宅当番医、休日・夜間救患センター等)が2万9000カ所、より重症な患者を診る二次救急医療施設(入院患者受け入れ病院等)が3200カ所、もっとも重篤かつ緊急度が高い患者を診る三次救急医療施設(救命救急センター等)は全国で210カ所を数える。
 それに対して救急車で搬送されてくる患者数は、高齢者層を中心に増加の一途をたどり、07年は年間488万6483人。10年前の334万2280人から約1.5倍に膨らんだ。
 ここで問題なのは、ある1日の救急搬送患者の疾病程度を調べたところ、約9700人のうち“要入院”と診断されたのは約3700人で、自力で来院した人を含めても入院は7400人程度だった、という結果だ。全国の救急医療機関が1日に受け入れている患者数はおおむね8万数千人なので、9割超は外来処置ですんだ患者ということになる。救急医療や救急搬送に対する人々の依存度が、いかに高まっているかがおわかりいただけよう。

救急病院に患者が渋滞する!?

 救急患者ないし救急搬送の需要増加により、救急医療の現場には様々な混乱が生じるようになった。その一つが供給(受け入れ体制)不足の露呈である。たとえば東京都における救急医療機関は、1998年度当初は411カ所だったが、2008年には335カ所で、この10年間に20%近くも減少した。経営難や人手不足による病院の統廃合、診療科の閉鎖などが後を絶たず、最近では救急医療機関で働く勤務医の不足も指摘されている。
 むろん問題は病院や医師の数だけではない。長崎県が行っている救急実態調査システムによると、救急入院患者のうちの大多数は、治療を受けた後にリハビリや療養を要することが判明している。つまり患者にとって救急医療機関は入り口に過ぎず、実はその後の段階が待ち受けているのだが、ここにも落とし穴があった。救急医療からリハビリテーション医療を経て、療養型の病院へ、最後は在宅や施設での療養へ…といった継続的かつ包括的な医療環境が崩れ始め、入り口である救急医療機関に患者が渋滞して、新規患者の受け入れが困難になるという事態が生じてしまった。

救急医療現場は“問題”だらけ

 救急患者受け入れの要請は、救急現場に出動した救急隊から、もしくはそれらを統括する消防本部から救急医療機関に送られる。周産期母体の搬送においては、搬送先の確定までに4回以上照会を行ったという事例が04年には255件だったが、07年は1084件に増加した。また、東京消防庁によると07年は搬送先の選定に30分以上、または5回以上の照会を要した事例が第1四半期に8300件、第2四半期に8800件、第3四半期に1万500件を数えたという。この数字は、全搬送数の5.6~6.7%の割合である。
 では、救急医療機関が受け入れ要請に対応できない理由は何か。総務省消防庁が06年の重症以上の事例について、7都県から情報を集めたところ、二次救急医療施設では「処置困難」という回答が39%で理由の第1位。次いで「手術中・患者対応中」と「ベッド満床」がそれぞれ16%。三次救急医療施設では「ベッド満床」38%、「手術中・患者対応中」35%が理由の大半を占め、「処置困難」は13%であった。
 「ベッド満床」「手術中・患者対応中」などはまさしく、需要に供給が追いつかない、患者の流れに渋滞が起きていることを示唆するものである。また、「処置困難」という回答には、医療機関が訴訟や紛争など、万一の事態を恐れてリスク回避を行った可能性も否定できない。なぜなら最近は救急医療の現場にも、理不尽な要求を繰り返すモンスターペイシェントや医療費不払い患者など、様々な困難が影を落とし始めたからだ。

救急再生に情報ネットづくりを

 救急医療を統括する情報システムのほうはどうだろうか。現在、国と都道府県が事業化している周産期救急医療ネットワークは、産科医らが全県一区で情報を集約し、彼らの判断で妊婦の搬送先などを決定するシステムである。しかし、一般の救急医療については基本的に市町村が管轄している。その下で全国に設置された消防本部が、エリア内の医療機関の情報を独自に収集し、搬送業務に役立てているのが現状だ。
 そこで厚生労働省は、1975年から全県一区の救急医療情報システムの整備をスタートした。しかし、このシステムを主たる照会手段としているところは、全国757消防本部のうち15%しかない。しかも「ほとんど利用していない」というところが29%、「まったく利用していない」ところも24%にのぼっている。
 救急医療現場の混乱を少しでも緩和するには、今後はより広域的な情報収集を行い、救急医療情報システムを名実ともに機能させ、周産期救急医療ネットワークとの相互補完体制なども視野に入れた改善対策を講じる必要があるだろう。

著者情報

昭和大学病院副院長、昭和大学医学部教授・救急医学講座主任

有賀徹

あるが とおる

1950年生まれ。東京大学医学部卒。専門は救急医学、脳神経外科学、脳蘇生学等。東京大学医学部付属病院救急部、公立昭和病院脳神経外科主任医長、同病院救急部長を歴任したのち現職。

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