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社会問題

あなたにとって「政治」はどれだけ遠くなっていますか

対話の引き出しを増やして社会を変える

湯浅誠(社会活動家/法政大学教授)

(構成・文/坂戸亮介)

 価値観を変えるという話は、政治の中だけでおさまるものではありません。日本が高度経済成長型の発想から、いかに抜け出るかということでもあります。
 これまで日本は、がむしゃらに働くことで成果を上げる「ガツガツ成長型」でうまくやってこれました。その成功体験、第二次大戦後の唯一、かつ最大の成功体験が染みついています。そのため、ガツガツ成長型とは相反する、立ち止まったり、悩んだり、熟考したりすることが生産性を低めるのだ、というような発想が自動的に起きるようになります。
 しかし、ガツガツ成長型で長時間労働をしてきた日本が、他の国と比べて生産性が高いかというと、必ずしもそうではありません。むしろ1990年代以降は、北欧など、日本より労働時間が短くても成長している国がいくらでもあります。
 これは、これまで日本が生産性を低めることだと思っていたことが、実は社会のイノベーションや発展に好ましい影響がある、ということなのではないでしょうか。
 イノベーションは、異質なものがかけ合わされないと起こりません。自己内対話ができない、他者と話ができない、異質な人と話ができないような状態では起こり得ません。みんながそれぞれ孤立しており、何かを決める際には結局、数の論理を使うしかない、というような状態では、イノベーションが起こるはずもないのです。ちゃんと悩んで、ちゃんと立ち止まる方が、実は生産性が高いんだ――最終的には、このような考え方を共有すべきだと思います。

特効薬はない

 とは言え、こうした価値観の転換は、1年や2年で簡単に実現できるようなものではありません。5年や10年、あるいはそれ以上の長い時間が必要になります。加えて今、日本の多くの人が日々の生活に追われ、余裕がなくなっています。考えたり、対話したりする時間や空間を得るのが難しい。だからこそ、劇場型政治、いわゆる「ワンフレーズポリティクス」みたいなものに持っていかれてしまうのです。このサイクルは相当強固で、わかっていてもなかなか抜けられるものではありません。なにしろ、小泉政権以降、10年以上にわたって続いているのです。そして、このサイクルは政権交代が起きたからといって簡単に変わるものではなかったのです。このことは、先の民主党政権が私たちに与えてくれた大きな教訓です。
 このサイクルから抜け出すために、私たちはしばしば短絡的に即効性のある「特効薬」を探してしまいがちです。しかし、特効薬はありません。選挙で言えば、投票率の低下を打開するために、多くの人が「投票に行くのが大事」と訴えていますが、一向に投票率がアップする気配は見えません。つまり、一方的に訴えるだけのやり方では、やはり、だめなのでしょう。
 このサイクルの中で私たちができることは、時々刻々と変化する状況に応じて短期的な課題に関心を持ちながら、価値観を変えていくような長い時間を要する問題にも取りかかるということなのではないでしょうか。忙しい日々の中で、政治について語る時間や空間を少しずつ生活に織り込んでいく。そして、対話を行うことで他者との関係を作り、意見を調整する。こうしたことを続けていくしかありません。

 道のりは長い。けれども、無力感はありません。私は、格差・貧困問題をはじめとした種々の活動を20年続けています。いろいろやっているのに全然動いていないと感じることもありますが、一歩離れて見方を変えると、実際にはけっこう進んでいると感じられる部分もあるのです。
 動かない、動かないと言ってジタバタしている時が、実はちょっとずつ動いている時なのだと思います。そういう思いもなくしてしまったら、本当に止まってしまいます。あがいている時が、本当はちょっとずつ動いている時。そんな心持ちで、自分にできることを積み重ねていくことが、今の私たちにできることなのだと思います。

著者情報

社会活動家/法政大学教授

湯浅誠

ゆあさ まこと

1969年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。2001年にNPO法人自立生活サポートセンター「もやい」設立。07年より反貧困ネットワーク事務局長。08年末年越し派遣村村長を経て、09年より内閣府参与に就任。内閣官房社会的包摂推進室長、震災ボランティア連携室長などを務める。14年より法政大学教授。著書に『反貧困』(岩波書店)『ヒーローを待っていても世界は変わらない』(朝日文庫)など多数。

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