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社会問題

真のパブリック放送とは何か?

NHKと海外メディアとの比較、そしてメディアの未来

堀潤(ジャーナリスト、NPO法人「8bitNews」代表理事)

(構成・文/村山加津枝)

 僕は元々映像から出発したこともあり、何かを「伝える」とき、圧倒的な事実を伝えられるのは映像だと考えています。
 4月に発生した熊本地震は、被災地に大きなダメージを与えました。ほぼ毎週末、現地に入り、取材を続ける中で感じるのが、やはり映像の力です。僕が主宰するニュースサイト「8bitNewsエイトビットニュース)」で、被災地の状況をアップできるサイトを立ち上げたところ、多くの映像が送られてきました。大手メディアでもなかなか掘り起こせない、当事者の第一次情報がたくさん寄せられました。
 読む側の解釈という「余白」ができてしまう文章で伝えるより、圧倒的な事実がそこにはあります。
 物議を醸した「保育園落ちた日本死ね!!!」というツイッターも「匿名だから本当かどうか疑わしい」「死ねという言葉は、母親としていかがなものか」といった余計な議論がなされました。もし、落ち続けた日常を90秒くらいの動画にしてYouTubeにアップしたら、圧倒的にその真実を伝えられ、よけいな議論を挟まれることはなかったように思います。
 それでも、その後、「保育園落ちたのはわたしだ」と、顔を出して取材を受ける人たちが現れる呼び水になったことは、まぎれもない事実です。多くの「顔の見えるわたし」の映像が、「余白のない発信」になったのです。そして、社会や政治に変化が起きました。

真のパブリック放送とは?

 これまで、メディアと視聴者の関係は、文字通り画像を見る、聞くという一方通行の関係でした。今は少し進んで、双方向のやり取りができるようになっています。これからは、もう一歩進み、パブリックアクセスをおおいに活用して、メディアと視聴者が協業していく時代が訪れると思います。
 簡単に配信ができるようになり、安価な映像機器の登場など環境が整うことで、市民メディアが立ち上がってきてもいます。残念ながら、いわゆる“炎上”や資金不足、扱う話題がマスメディアと同じなど差別化も難しいといったことが原因で、閉鎖されていくのも見てきました。資金面ではクラウドファンディングのような形が出てきたものの、やはり発信力が高くないと継続は難しいのだと思います。
 今年の2月、LINEが始めた動画の生配信サービスのトーク番組「No.1への道」で、「NHKワールドTV」の「NEWSROOM TOKYO」などに出演している谷中麻里衣さんと共にMCを担当しました。ゲストは芥川賞受賞作家の羽田圭介さん、『宇宙兄弟』などを手がけた編集者の佐渡島庸平さん、世界的に活躍するデザイナーのKEITA MARUYAMA(丸山敬太)さんです。
 2時間であっという間に70万人の視聴者がつき、ネットメディアの進化を目の当たりにした気分でした。それでも、新聞やテレビはまだまだ声の大きなメディアですし、災害時にはラジオが重要な役割を果たしています。
 僕が様々なメディアにかかわっているのは、各メディアが特性をいかした発信ができると信じているからです。各メディア間で対立するのではなく、メディアがどうしたらパブリックなものになるかを考える時代なのです。
 また、5年後、10年後には、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)でも、顔と名前を出して発信することが普通になると思います。「匿名でツイッターやってるなんてカッコ悪いし、おかしい」「匿名で書かれたことなんて、誰も信じないし見向きもしないよね」というのが常識になる。
 とはいっても、今はまだまだ匿名の書き込みや顔を出さない映像が多いのが現状です。それでも、日本人がこんなに自撮りをSNSにアップするなんて誰が思ったでしょう。時代は確実に変化しているのです。
 過激な攻撃をしたり、炎上させたりといったことを排除した環境を整えるためには、確かな発信力を持った発信者の裾野がどんどん広がっていくことが必要です。そのために、僕自身が発信し続けつつ、これからも様々な活動をしようと考えています。

著者情報

ジャーナリスト、NPO法人「8bitNews」代表理事

堀潤

ほり じゅん

1977年兵庫県生まれ。立教大学文学部ドイツ文学科卒。2001年にNHK入局。「ニュースウォッチ9」「Bizスポ」などの報道番組を担当。12年6月、市民参加型動画ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げる。13年4月1日付でNHKを退局。17年4月、情報発信支援プロジェクト「GARDEN Journalism」を立ち上げる。現在は「モーニングCROSS」(TOKYO MX)、「JAM THE WORLD」(J-WAVE) ほかで活躍中。主な著書に、『変身 Metamorphosis メルトダウン後の世界』(2013年、角川書店)、『僕がメディアで伝えたいこと』(13年、講談社現代新書)、『僕らのニュースルーム革命』(13年、幻冬舎)がある。(2017.05)

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