この腐った社会を根こそぎにしてやれ!
栗原康(東北芸術工科大学非常勤講師/政治学者)
(構成・文/村山加津枝)
そんなことばかりしていたので、卒業後、就職先もなく、ただただ借金635万円の身になった。収入がほとんどないのに月3万、4万返せというのは、「死ね!」と言われるのとおなじだ。
おまけに、日本育英会などが統合され発足した独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が、2009年、とんでもない方針をうちだす。奨学金の滞納者が増えたため、滞納者相手に裁判を起こし、民間の債権会社に委託して催促、取り立てをする。さらには個人情報を金融機関にばらまくというのだ。ブラックリスト化だ。ふざけんな!
それにいち早く反応したのが京都精華大学の学生たちだった。「ブラックリストの会」を立ち上げ、デモでガンガンあばれまくるという。「東京でも同日、なにかやりませんか」との呼びかけがあったので、こちらは「ブラックリストの会 in TOKYO」というのをつくって、10人ぐらいでトラメガ片手に市ヶ谷の支援機構に乗り込んだ。
すぐに広報のお偉いひとが出てきて、「話を聞きます」と言う。きっと抗議を受けたことなどなかったのだろう。無防備で、こちらがビデオカメラで撮っていてもスルーだった。
同行者は「なんだ、このやろう!」などと声を荒げていたが、基本わたしはいい人なので普通に話をする。しかし「どういう目的でブラックリスト化なんかするんですか」という質問への答えには、さすがに憤慨した。いわく「これは教育的な効果を図ってのことです」。ふざけんな、このやろう。
いろいろ調べていたら、支援機構にブラックリスト化を提案した有識者がいることがわかった。その一人が奨学金問題の本を出している小林雅之さん(東京大学教授)だった。「これはもう行くしかない!」ということで、小林教授の講演会日程をネットで調べ、トラメガ片手に20人くらいで押しかけ抗議した。こういうときは肉弾戦が大事なんだとおもう。
その後、少しずつ奨学金問題の運動もひろがっていき、支援機構では卒業後5年だった奨学金返済猶予期間が10年へと延長された。無利子の奨学金にだけ所得連動制が導入されて年収300万円を得るまでは返還を猶予するようになったが、その規模はまだわずかだ。いまだに(17年3月現在)返さなくてもいい、給付型奨学金はありゃしない。
そもそも、日本は奨学金の構造自体がおかしい。ヨーロッパのように大学の学費を無償にして、それでも生活が苦しい学生のために給付型の奨学金制度を導入したりすべきだ。学費の高いアメリカにだって、一兆円規模の給付型奨学金はある。もちろんヨーロッパにだって学費値上げの動きはある。でも、それに対し学生たちはすぐに声をあげた。ドイツでは学費が3万円になっただけで、暴動が起きたくらいだ。アメリカでも金融危機後、学費値上げの動きがあったけれど、カルフォルニアでもニューヨークでも学生たちがこれに反対し、キャンパスにテントを張り、占拠闘争が行われた。これがのちのオキュパイ・ウォールストリートにつながったともいわれている。日本でも、もっともっと声をあげたほうがいい。大学はタダがあたりまえ。ムリな借金はさせたほうがわるい。学生に賃金を。借りたものは返せない。
貧乏上等、オリンピック反対!
いま、オリンピックのためだとかいって、またわけのわからない開発が行われている。進めばすすむほど、ホームレスたちが追い出される。路上や公園にさえ住まわせないと、排除の波だ。街全体がショッピングモールみたいになっていって、商品を買えなくなったり、税金を払えなくなったり、支払い能力がなくなった人間は生きていちゃいけないと言われてしまう。借金や排除で切羽つまればつまるほど、ひとはカネだ、カネだと、そればかりに追い立てられる。ブラック企業で働かされて、死にそうになっても辞められない。死ぬまで働け、死んでも働け。生きづらい。
こういうの、多くのひとは自分とは関係ないと思っているかもしれないが、気付いていないひとが多いだけで、明日は我が身である。わたしたちのほとんどが借金をかかえ、いつ仕事をクビになるかわからないし、アパートを追い出されるかもわからない。確認しておこう。わたしたちは貧乏だ。いちどそこにひらきなおってしまえば、いろんなことがみえてくる。
ほんとうはカネがなくても路上で、公園で、まわりのひとたちと助け合って生きていけてるのってすごいことなんじゃないかとか、そのスキルをちょっとでも分かちあえば、カネで切羽つまることがなくなるんじゃないかとか、もう少し時間をかけて知恵をひねれば、もっともっといろんなやりかたがあるんじゃないかとか。人間というのは、いざとなったらなんとでもなる、なんでもできる、なんにでもなれるのだ。それでもこの社会が「働け、稼げ、たくさん買え」と言ってくるならば、わたしに言えるのはこれだけだ。この腐った社会を根こそぎにしてやれ。壊してさわいで、燃やしてあばれろ。貧乏にひらきなおるということは、生きたいように生きるのとおなじことだ。貧乏上等、オリンピック反対!”
著者情報
東北芸術工科大学非常勤講師/政治学者
栗原康
くりはら やすし
1979年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科・博士後期課程満期退学。塾講師などを経て、2014年より東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム。著書に『死してなお踊れ 一遍上人伝』(17年、河出書房新社)、『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』(16年、岩波書店)、『現代暴力論 「あばれる力」を取り戻す』(15年、角川新書)、『はたらかないで、たらふく食べたい 「生の負債」からの解放宣言』(15年、タバブックス)、『学生に賃金を』(15年、新評論)、『大杉栄伝 永遠のアナキズム』(13年、夜光社)、『G8サミット体制とはなにか』(初版08年、増補版16年、以文社)ほか。主な受賞歴、第5回「いける本大賞」、「紀伊國屋じんぶん大賞」(2015年6位、16年6位、17年4位)、第10回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」。(2017.3)