imidas - 情報・知識&オピニオン

探究

社会問題

突如持ち上がった「羽田空港 新飛行ルート」計画

東京オリンピックをみすえ、飛行機が東京を低空飛行する!?

樫田秀樹(ジャーナリスト)

 飛行機は品川区から大田区に入ると、さらに高度を下げる。その付近、品川区東端のウォーターフロントにある品川八潮パークタウンでは上空200メートルから80㏈以上の騒音が降ってくる。ここまで来ると、さすがに住民の関心も高く、団地住民は反対運動を起こしている。
最も激しい騒音に晒されるのは、羽田空港に面した工業地帯の京浜島だ。飛行高度は70メートル。騒音は90㏈と予測されている。
 京浜島にある「日本ヒーター社」の小柴恭男会長と小柴智延社長は「国は約束を破った」と憤る。
 日本ヒーターが1978年に京浜島に移転操業したのは、事前に運輸省(当時)から「上空は飛行ルートにならない」との説明を受けていたからだ。だが81年、運輸省は突如、京浜島上空の飛行ルートを発表し、その後、上空50メートルを大型旅客機が数分おきに飛行した。恭男会長は「電話ができなかった。すぐ隣の社員にも耳元で怒鳴っていた」と思い出す。
 88年、日本ヒーターをはじめ同じ騒音に苦しむ京浜島の経営者9人が、上空での飛行禁止を求め行政訴訟を起こした。すると94年、被告の運輸省が「今後は“原則”として京浜島上空を通過しない」と釈明。これにより、経営者らは訴えを取り下げ、果たして上空の飛来はなくなった。
 ところが今回、「事前の協議すらなく」(智延社長)、新ルートが画策された。同社を含めた5社は、京浜島経由でのA滑走路への着陸をしないことを求め、国の公害等調整委員会での調停を申請した。調停は非公開なので審理内容は明かされないが、数カ月以内に調停が成立するか不調になるかが決まるという。

日本ヒーター社の小柴智延社長。社屋の屋上から羽田空港がよく見える

★江戸川区

 羽田空港への離発着について、現在は「海から入り海に出る」と書いたが、じつは東京都の東端の江戸川区では、「南風の悪天候時」に限り「陸から」入っている。飛行高度は約600メートルで、騒音は70㏈前後。その飛来日数は2017年度で62日、飛来機数は4853機を数える(江戸川区「航空機騒音の調整結果」から)。
「航空機の都心低空飛行に反対する江戸川区民の会」の大田美音(みね)代表は「区の飛行問題は始末が悪い」と語る。
「区の上空をいつ飛ぶかは天候次第だから、区民は事前に飛行計画を知ることができない。窓を開けていれば、前触れもなく『テレビが聞こえなくなる』騒音が飛び込んできます」
これに加えて、前述のとおり、新ルートでは、「北風」時に「7時から11時半の4時間半」と「15時から19時の4時間のうちの3時間」を、C滑走路から1時間あたり23便(1日約173便)が江東区や江戸川区の上空を通って北上する。江戸川区では北風は年間を通じて約6割(約219日)も吹くことから、新ルート導入で、単純計算でも離発着便の合計は約4万5000機と現状の7倍以上になり、多くの区民が苦情を訴えるはずだ。
「でも問題は、報道されないので、区民が計画を知らないこと。新ルートが運用されてから騒いでも遅いんです」
「江戸川区民の会」では、チラシまき、集会、デモなど、できる限りの手段で周知に努めるという。

残る手続き

 オープンハウス型であれ教室型であれ、国交省による説明会は今春で終わる予定だ。その後、新ルート運用にはどのような手続きが残されているのか。
 取材で出会った住民が、一様に訴えるのは以下のことだ。「国交省は最新の飛行機は低騒音型だと説明します。ならば、ルートで実際の飛行機でのテスト飛行をやってほしい。どの程度の騒音か一発でわかりますから」


 私は、国土交通省航空局航空ネットワーク部環境・地域振興課に電話を入れた。
――実際の騒音を確認するためのテスト飛行は行わないのですか?
「新ルートを飛行するには、ルート上に航空無線施設を設置しなければなりません。2020年春くらいまでかかります」
――設置後、大型機でのテスト飛行をするのですか?
「まず小型機を飛ばし、管制塔の電波を受信できるか、のテストは行いますが、大型機での予定はまだ……」
 国交省はテスト飛行をやるともやらないとも言わなかった。
 さらに尋ねたのは住民の意思をどう反映するかだ。じつは16年7月、国交省内の「第4回首都圏空港機能強化の具体化に向けた協議会」で新ルートに係る関係自治体は計画に基本合意している。ただし、東京23区から参加したのは荒川区長だけで、さらに、この協議会の前後から、東京23区で計画に疑問を呈する市民団体が続々と立ち上がった。市民団体は、デモやチラシ配布、計画変更を求める署名や議会への陳情などを繰り返しているが、この民意は無視できるだろうか。
――今後、新たな区議会や区長の承認は必要ですか?
「不要です。16年の協議会では、荒川区長は23区の代表として参加しましたので」
――あとはどんな手続きが必要ですか?
「国が出す航空路誌(AIP)に必要な恒久的情報を収録する必要があります。そこに新ルート情報を東京オリンピックまでには収録したいです」
 つまり、あとは国側の手続きだけということだ。市民団体は、早ければ今秋にも運用が始まると予測している。だが、「守る会」(前出)の増間さんは「諦めない」と強調する。
「これまでの継続的な活動で、徐々に住民間での問題意識が広がっています。もっと周知が進むと、自治体や国も無視できないと思うんです」
 現在、東京23区のうち13区でこの件に関する市民団体が設立されたが、マスコミがほとんど報道しないだけに、どの市民団体も必死だ。読者の中にも飛行ルート直下に住む人がいるはずだ。ぜひ関心を持っていただきたい。

 

*国土交通省 「羽田空港のこれから」(外部リンクに接続します)

「みなとの空を守る会」HP(外部リンクに接続します)

羽田増便による都心低空飛行ルートに反対する品川区民の会公式サイト(外部リンクに接続します)

羽田空港増便問題を考える会 (外部リンクに接続します)

 

 

著者情報

ジャーナリスト

樫田秀樹

かしだ ひでき

1959年、北海道生まれ。岩手大学卒業。コンピュータ関連企業勤務を経て、NGOスタッフとしてアフリカでの難民キャンプで活動後、フリーのジャーナリストに。取材で国内やアジア各地に赴く。各誌に環境問題、社会問題、市民運動、人物ルポなどを寄稿。
著書に『リニア新幹線が不可能な7つの理由』(岩波ブックレット、2017年)、『〈増補〉“悪夢の超特急”リニア中央新幹線――建設中止を求めて訴訟へ』(旬報社、2016年)、『自爆営業――その恐るべき実態と対策』(ポプラ新書、2014年)、『世界から貧しさをなくす30の方法』(共同編集、合同出版、2006年)など。

関連記事