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社会問題

だから、地方記者はやめられない

三浦英之×横山勲対談

三浦英之(新聞記者、ルポライター)

横山勲( 河北新報編集部記者)

ノンフィクションが伝える力

横山 取材テーマとは違うかもしれませんが、私は自由で平等な社会に生きていたいと思っています。ただ、みんなが自由に振る舞い過ぎると、強い人が得をして、弱い人が損をしやすくなる。社会は平等ではなくなっていく。逆に社会の平等が行き過ぎると、今度はみんなの自由が縛られ、それはそれで息苦しい世の中になってしまう。だから、自由と平等のバランスが重要なんです。そのバランスは、「公共の福祉」とも呼ばれるものですが、どちらかに偏ってはダメなんですよ。新聞記者は、職業倫理として、そのバランスを見なければならないんじゃないか、と本を書いた後に気がつきました。

三浦 書籍には動画や他のメディアにはない深みがあって、後世にも確実に残っていくと私は信じています。横山さんの『過疎ビジネス』も、本にしたからこそ読者が広がったのではないでしょうか。ぜひこれからもノンフィクションを書き続けていってほしいと、ノンフィクションを愛する一人として切に希望しています。

横山 今回本を書くのが初めてで、一から書き下ろすのはとても大変でした。仕事の合間に執筆するのは無理だとわかり、印税は会社に入れるかわりに、2カ月ぐらい本の執筆を業務として特別に認めてもらって、一気に終わらせたんです。新聞記事だったらデスクや同僚とコミュニケーションをとりながら記事を作りますが、本を書くのって、すごく孤独ですよね。夜中にコンビニに行きながら「誰か助けてくれ」と思って泣いたこともありました。三浦さんの本もそうですが、本の中に自分が出てくるじゃないですか。そうすると、全人格的に書かなければいけなくて、もし本がつまらないって言われたら、もう生きていけないなと(笑)

三浦 いや、だからこそ本が面白くなったんですよ。書き手自らが厳しい環境の中で書いている内容は、やっぱり響く。ノンフィクションには、事実を伝えることで、社会や人々の生活が実際に変わっていく面白さがあります。本の帯に「コンサル栄えて国滅ぶ」とありますが、私の赴任地の岩手県内でも自治体の職員が減っていて、外注せざるを得ない状況がある。『過疎ビジネス』を読んでいると、いま暮らしている地域でもこういう不祥事が起きているのではないか、と自分のことのように感じることができます。

横山 『過疎ビジネス』の中で取り上げたような寄付金の還流問題というのは、場所を変えれば同じような事例がたくさんあるとは思います。ただ、私はあえて本の中の事例を極端に一般化しないように心がけていました。「使いまわしの横展開」こそが、地方創生の失敗の本質だと思うからです。どの地域も「過疎」と一言で言えば簡単ですが、その地域の歴史や文化、土地柄も食もそれぞれ違います。だから、あなたの住む街のことをあなたも考えてほしい――それが、私がいちばん伝えたかったことなんです。

著者情報

新聞記者、ルポライター

三浦英之

みうら ひでゆき

1974年、神奈川県生まれ。『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で第13回開高健ノンフィクション賞、『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(布施祐仁氏との共著)で第18回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で第25回小学館ノンフィクション大賞、『南三陸日記』で第25回平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞、『帰れない村 福島県浪江町「DASH村」の10年』で2021年LINEジャーナリズム賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で第10回山本美香記念国際ジャーナリスト賞、第22回新潮ドキュメント賞を受賞。

河北新報編集部記者

横山勲

よこやま つとむ

1988年、青森県出身。河北新報社入社後、報道部、盛岡総局、福島総局を経て現職。執筆に加わった連載「止まった刻 検証・大川小事故」は2018年度新聞協会賞受賞。取材班として携わった連載「原発漂流」を含む特集「東日本大震災10年」は2021年度新聞協会賞受賞。自ら中心となって取材執筆した「『企業版ふるさと納税』の寄付金還流疑惑に関する一連の報道」は第29回新聞労連ジャーナリズム大賞、第5回調査報道大賞優秀賞を受賞した。2025年、著書『過疎ビジネス』(集英社新書)で第73回菊池寛賞受賞。

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