月探査機「かぐや」は、どのような便りをもたらすのか
松浦晋也(科学ジャーナリスト)
満を持して打ち上げられた日本の月探査機「かぐや」は、快調に月の周回軌道に乗り、科学観測プログラムをこなしている。月探査としては、実にアポロ計画以来の35年ぶりの本格的なプログラムである。かぐやに続き、アメリカ、中国、インドが、月探査計画を進めている。しかし一番手には着けたものの、日本の今後の計画はほとんど未定といっても、過言ではない。日本の宇宙計画には、どのような展開が望まれるのだろうか。
地球生まれの「かぐや」が月に向かう
2007年9月14日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、H-2Aロケット13号機で、月探査機「かぐや」を打ち上げた。
かぐやは順調な飛行を続け(
)、10月4日には月周回軌道に入り、10月21日には観測を行う月面上100kmの円軌道に到達。12月半ばには、搭載機器の準備も整い、1年間の予定の月観測を開始した。
08年2月現在、搭載した15種類のセンサーのうち、2つにトラブルが出ているが、ともに観測不可能になるほどのものではない。07年12月には、搭載したハイビジョンカメラが撮影した高精細な月面動画像も公開された。(
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かぐやは、打ち上げ時初期重量3tの大型月探査機だ。旧宇宙開発事業団(NASDA)が1999年から開発を開始し、新組織のJAXAに引き継がれた。
かぐやの開発時のコードネームは、SELENE(セレーネ)。2.1m×2.1m×4.8mの本体に、月の地形を観測するカメラや、鉱物分布、元素分布、月周辺の宇宙空間の環境などを調べるセンサーを、15種類搭載している。また、月の裏側を飛行している時に、かぐやからの電波を地球に中継するリレー衛星(愛称:おきな OKINA)、かぐやの軌道を精密に測定することで月の重力場を精密に調べるためのVRAD(ブイラド)衛星(愛称:おうな OUNA)という、2機の子衛星も搭載している。子衛星は、ともに無事かぐや本体から放出され、かぐやとともに月の周りを回っている。
引き続き打ち上げられる各国の月探査機
JAXAは、かぐやを「アポロ計画以来、最大の月探査計画」としているが、これは嘘ではない。ただし、かぐや以降、海外の月探査機が次々に打ち上げられることになっている。(
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まず中国が2007年10月24日、最初の月探査機「嫦娥(じょうが)1号」を長征3号Aロケットで打ち上げた。嫦娥1号は、11月5日に月周回軌道に入り、12月中旬から月面上高度200kmの軌道から観測を開始した。
続いて08年4月9日には、インドが初の月探査機「チャンドラヤーン1号」を打ち上げる。同探査機は、重量523kgと、かぐやよりも大分小振りだが、アメリカとESA(ヨーロッパ宇宙機関)が提供した観測センサーも搭載しており、高精度の科学観測を行うことを目的としている。
08年10月には、アメリカが月探査機「ルナ・リコナイサンス・オービター(LRO)」と、月衝突機「LCROSS(エルクロス)」を打ち上げる。LROは、将来の有人月探査に向けて、月の詳細な地形を観測することを目的としており、月面上の1mのサイズのものを見分けることができる、偵察衛星並みの高分解能カメラを搭載している。
エルクロスは、月面上に水が存在しているかどうかを確認することを狙った探査機だ。月の南極と北極のクレーターの底には、永久に日光が当たらない地域が存在し、そこには水が存在している可能性が指摘されている。エルクロスは、その日陰の地域に突入し、吹き上がる物質を観測することで水が存在するかどうかを確認する。エルクロスの突入は、同時に月周回軌道のLROからも観測する。
探査機は先んじたが、長期計画で出遅れる日本
中国とインドはともに、2010年代を通じた長期計画に、月探査を組み入れている。ともに10年代前半に月着陸、10年代後半には月面の土壌を採取して地球に持ち帰る計画を持ち、現在すでにその方向に向けて必要な技術を開発し、探査機の設計も行っている。さらにその先には独自の有人月探査すら想定している。
アメリカは、04年のブッシュ大統領による新宇宙政策で、10年代後半から20年代前半にかけて有人月探査に復帰する方針を明らかにした。すべての月探査計画は有人探査に向けた準備として、長期的な計画の中に位置付けられている。
一方、日本は、1990年代にいち早く、月の探査に着目したものの、「かぐや」1機の計画を立ち上げたにとどまっており、「かぐやの次に何をするか」は明確になっていなかった。NASDA(旧宇宙開発事業団)等、探査機検討の現場では、1990年代の早い段階で、「次は月着陸」という方向が見えていたにも関わらず、それを国の長期目標に組み込むことができなかったのだ。
かぐや打ち上げ後に、文部科学省・宇宙開発委員会は月探査を議論し、2008年1月になってやっと、今後10年以内に月着陸を目指す「かぐや2」を開発し、打ち上げるという方針を打ち出した。
現在、中国、インド、アメリカに加えて、イギリス、イタリア、フランス、ドイツ、韓国などが独自の月探査機を検討している。1990年代にいち早く「かぐや」を立ち上げて、先行したはずの日本だが、政策的な遅れのため、今やライバル集団にのみこまれつつあるというのが実情だ。
著者情報
科学ジャーナリスト
松浦晋也
まつうら しんや
1962年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。同大学院メディア・政策研究科修了。日経BP社勤務(航空宇宙、コンピューター、情報通信などの分野を取材)を経て現職。著書に『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』(2004年、日経BP社)『エルピーダは蘇った』(06年、日経BP社)『コダワリ人のおもちゃ箱』(07年、エクスナレッジ)『恐るべき旅路』(07年、朝日新聞出版)『スペースシャトルの落日』(増補版、10年、ちくま文庫)『飛べ!「はやぶさ」』(11年、学研教育出版)『のりもの進化論』(12年、太田出版)、『小惑星探査機「はやぶさ2」の挑戦』(14年、日経BP社)、『はやぶさ2の真実』(14年、講談社)、『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』(17年、日経BP社)など多数。