「安全な原発」の輸出で日本は潤うのか?
原発を造ろうとする側からすると、事故のときに水が足りるか、足りないかということは、おそらくまったく頭の中にないのでしょう。日本も福島の事故が起きるまではそうでしたし、世界中どこでもそうだと思います。
通常運転の時に必要な真水をどうやって確保するかということは、もちろんみんな考えているわけだし、この原発の場合には下水処理場の水を使うということで、その程度の考え方だろうと思います。
それに、ヨルダンもけっこう地震が多い国です。福島の事故を起こし、事故の経験から学んで「世界一安全な原発を輸出する」と言っている日本がこういう所に原発を輸出するというのは、私には正気の沙汰とは思えません。でも、大きな事故は初めから無視するということにしないと、そもそも原発は成り立たないのです。
日本には再処理技術はない
――トルコに話を戻しますが、同国と締結した原子力協定の中には、日本が同意すれば、トルコは使用済み核燃料の再処理も行えるという条項が入っています。これについてはどのように思われますか?
同意するも何も、そもそも日本は自前では再処理できません。独自に再処理技術を持っていないからです。
フランスに茨城県・東海村の再処理工場を造ってもらい、その技術を学んで、青森県・六ヶ所村に再処理工場を造ろうとしましたが、それもできませんでした。結局、六ヶ所村についてもフランスに造ってもらうことになりましたが、全部造ってもらうのは格好悪いので、高レベル廃液をガラス固化するところだけは自前でやろうとしたわけです。でも、それも結局はできませんでした。だから、日本がトルコに再処理を認める、認めないなどということは、もともと言える立場にないのです。トルコとそのような協定を結んだところで、何の効力もないと思います。
――トルコとの契約は、原発の建設だけでなく、運転から廃棄物の処理まですべてパッケージで担う形になると見られています。廃棄物処理に関しては、同じく日本が原発輸出を進めているベトナムからも求められています。これらの国から使用済み核燃料を引き取って、六ヶ所村で再処理しようとしているのではないかという指摘もありますが、これについてどのように見ていらっしゃいますか?
くり返しになりますが、日本は再処理技術を持っていません。それに、仮に再処理できたところで、放射能が消えるわけではありません。だから、日本では2000年に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」を作って、地下に埋め捨てにすることを唯一の方策として決めたわけです。
しかし、法律ができてからもう10年以上たっているのに、まだ実現できていません。それどころか、昨12年9月には、「学者の国会」ともいわれる日本学術会議が、原子力委員会からの諮問に答えて、埋め捨て計画の白紙撤回を求める提言を出しました。要するに、完璧に破綻しているのです。だから、最近になってモンゴルへ持っていこうというような話が出てくるわけです。
こうした状況で、外国の核のごみを引き取ってくるなどということは、できる道理がないと私は思います。
核不拡散体制はすでに崩壊している
――もう一つの問題点として、使用済み核燃料の再処理は核兵器の原料となるプルトニウムを取り出すことであり、トルコは紛争の多い中東にあるだけに、核武装を可能とするような条項を入れることについては、自由民主党の中からも安全保障上の懸念が出されているようですが…。
そもそも、原発を造ること自体が、核兵器を持ちたいという動機で始まっていると私は思います。それは日本も同じです。「平和利用」などと言いながら、本当は、いつでも核兵器を造れる能力を持ちたかったわけです。
エネルギーだけで考えたら、原子力のコストは圧倒的に高いし、資源の量も圧倒的に少ないわけですから、このようなものに国家の命運を賭けるなど、これほどバカげたことはあり得ません。国家が原発を推進しようとするとき、その最大の目的は「核兵器」であると見るべきだと、私は思います。
――日本は、核不拡散条約(NPT)に未加盟で核兵器保有国のインドとも原子力協定を結ぼうとしています。そういうところに原発を輸出するというのは、国際的な核不拡散体制にも矛盾をきたすのではないかというような批判がなされています。
批判は当然です。ただ、私は今の核不拡散体制に反対なのです。現在の核不拡散体制は、国連安保理常任理事国の5カ国が、自分たちは核兵器を持つけれど、他の国には持たせないという、完全な不平等体制です。そんなものは到底認められないし、彼らが持っていいなら、どの国だって持っていいはずです。
もちろん、どこの国も持たないというのが私の一番の願いですが、残念ながらそうはなっていないのです。
インドは1974年に、初めて原爆実験に成功しました。当時のカーター米大統領は、「原子力の平和利用」などと言って世界中に原子力をばらまいてしまうと統制が利かなくなるので、自国の中でも、もう原発のための再処理工場はやらないと宣言しました。他の国に「やるな」と言うためには、自分たちの手もある程度縛る必要があると言って、筋を通したわけです。それで、インドにも原子力技術は提供しないと言って、原子力協定を破棄しました。
それをひっくり返したのが、息子の方のブッシュ米大統領です。彼は、原発で金儲けをしたかった。これから世界では、中国とインドを中心にして、原発をどんどん造る時代が来る。もう核不拡散なんて言っていられない、それよりも金儲けだということで、インドと再び原子力協定を結んだのです
ですから、もう核不拡散体制なんていうのは崩壊しているのです。少なくとも、米国とインドの間では崩壊している。日本が、もし本当に核不拡散を実施しようと思うのであれば、インドとの原子力協定など結んではいけません。しかし、日本もまた核兵器が欲しいと思っているわけだし、米国と一緒になって金儲けをしたいと思っているわけですから、何とかインドと原子力協定を結ぼうとしているのです。
日本は米核戦略の格好の「駒」
――一方、日本が原発輸出しなくても中国やロシアが輸出することになるので、それだったら安全上も核不拡散上も日本が輸出した方がいいという主張もありますが…。
米国がそう言っています。米国は、世界の原発市場で金儲けをしたい。ただ、自国には製造ラインがないので、日本にやってもらわなければ金儲けができない。だから、日本を逃さないのです。
さらに、米国は、核不拡散も含めて米中心の世界秩序を今後も維持したいと思っています。そして、日本はそのための格好の駒になっているわけです。日本を使うことで、核の分野における米国の支配の網を維持しようとしているのです。
そもそも、日本の原発が中国やロシアの原発よりも安全だなどと、なぜ言えるのでしょうか。
中国は少なくとも、福島のような事故は起こしていません。だから、事実として、日本の方が安全で優れているなんて言えません。もちろん中国も、最近の国内での公害などを見ていると色々と問題がある国だとは思いますが、原子力の技術だけ見れば、独自に核兵器も製造しており、技術のバックグラウンドは日本よりも優れているのではないかと思います。
ロシアにしても、チェルノブイリ原発の事故はありましたが、何と言っても世界で一番初めに原子力発電所を動かした国ですから、原子力の基礎的な力は日本以上に持っています。
ただ、米国の思惑からすると、中国やロシアが世界各国に核技術を広めることになって自国の支配が脅かされるのは嫌だと思っているでしょうから、日本が米国の「属国」である限りは、日本を使って中国やロシアに対抗させようとするはずです。
原発輸出につきまとう賠償責任の重さ
――原発は「兆円規模」の大きなビジネスである一方、リスクも非常に大きいのが特徴です。最近では、12年1月に米国のサンオノフレ原発で三菱が輸出した蒸気発生器が故障し、これが原因となって廃炉に追い込まれたとして、三菱は米電力会社から契約上の賠償上限額を大幅に上回る40億ドル(約3900億円)を請求されています。原発輸出には、メーカーにとってもこういうリスクがあるわけですが…。
加圧水型のトラブルは、ほとんどが蒸気発生器です。蒸気発生器は、一次系の熱を二次系に渡すための設備です。熱交換の効率をよくするためには、細管と言われるパイプの厚さを薄くするしかない。でも、効率性を追求して薄くすればするほど、細管にピンホールが開いたり、破断して放射能が漏れるリスクが高まるという根本的なジレンマがあります。日本でも、PWRは軒並み蒸気発生器が壊れていますよ。美浜(福井県)もそうだし、伊方(愛媛県)もそうだし、あちこちで壊れています。
これだって元々は、ウェスティングハウスが設計して造ったものです。それを三菱がまねして造っているだけです。だから、私は三菱だけの責任ではないと思うけれど、実際に造って納めた企業としては責任をとるしかないでしょうね。
でも、賠償には国際政治の問題が絡んできます。たとえば、福島第一原発の1号機を造ったのはGE社ですが、そこでこれだけの事故が起こって、日本がGE社に賠償を請求するかというと、そんなことは言えないわけですよね。
――インドには、原発事故が起きたらメーカーにも責任を問える法律がありますが、それがネックになって輸出する外国企業がいなくなると困るので、法務大臣が13年9月に「運用で適用除外もできる」という発言をしています。このように国際政治の様々な思惑の中で、原発ビジネスの障害になるものを取り外していくということが行われています。
汚い世界ですよね。
著者情報
ジャーナリスト
布施祐仁
ふせ ゆうじん
1976年、東京都生まれ。『ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場』で平和・協同ジャーナリスト基金賞、JCJ賞を受賞。三浦英之氏との共著『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『日米密約 裁かれない米兵犯罪』『経済的徴兵制』、共著に『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』などがある。
イミダスの連載「伊勢崎賢治・布施祐仁に聞く『日米地位協定と主権なき日本』」はこちら!
元京都大学原子炉実験所助教
小出裕章
こいで ひろあき
1949年生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒、同大学院修了。74年から現職。伊方原発訴訟住民側証人。原子力研究の現場から原子力廃絶をうったえる異端の研究者とされてきたが、福島第一原発事故の際に発信し続けた的確な分析と警告が多くの人々の信頼を得て、一躍時の人となった。著書に『原発のウソ』(扶桑社新書、2011年)『隠される原子力 核の真実』(2011年、創史社)など。『imidas』では、1997年版から「原子力」分野の執筆を担当。