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サイエンス

セミの生態を検証する

謎多きセミの生態の真相に迫る

税所康正(広島大学 大学院 工学研究院准教授)

 セミ採りをしていて、おしっこを掛けられた思い出を持っている方も多いかもしれません。自分を採ろうとしている「敵」におしっこを掛けて逃げるというのは、なかなか分かりやすい侮辱的「仕返し」かもしれません。しかし、よく考えてみると、毒でも入っていて皮膚に触れると大変なことになる、とでもいうならともかく、セミのおしっこに害があるという話は聞きません。日頃から降雨に慣れている外敵に対して、あの程度で本当に防御の意味があるのか、はなはだ疑問です。
 セミは完全な液体食で、樹木に口吻(こうふん)を差し込んで樹液を吸っています。そのため、排泄物(はいせつぶつ)も「大・小」の区別がなく、おしっこだけです。同じ樹液といっても、カブトムシ、クワガタムシが好む、アルコール発酵したものではなく、木の中を流れる液体をそのまま摂取していて、激しい活動の源にするためには、それなりの量を取り込まないといけないのだろうと思います。かと言って、体内に大量の水分を蓄えると飛行が困難になるでしょうから、小まめに排泄する必要があります。実際、セミの観察をしていると、鳴いている合間や休憩中にしばしばおしっこをするのを見ます。ですから、急遽(きゅうきょ)飛んで逃げることになって筋肉に力を入れた瞬間に「失禁」することも自然なことだと思われます。実は逃げるときだけではなく、自発的に飛行して移動するときにも水分を排出することは観察されます。
 セミに限りませんが、昆虫は手に取ってみることが何よりの理解につながるわけで、昨今セミを怖がる人が増えているというのも、そんなところに原因があるのかもしれません。セミが、刺しも噛みもせずに、これと言った武器を全く持っていない「平和な」昆虫であることは、特筆すべき特徴だと思います。

著者情報

広島大学 大学院 工学研究院准教授

税所康正

さいしょ やすまさ

1955年東京都生まれ。日本セミの会、日本昆虫学会、日本半翅類学会会員。慶應義塾大学大学院博士課程修了(工学博士)。熊本大学助教授を経て2000年、広島大学工学部助教授、01年、同大学工学研究科助教授(現・准教授)。専門は数学・確率論で、確率論の応用について研究する中、幼少時から親しんだセミの生態を確率論で追究する「セミの不思議を確率論から探る」をテーマの一つにしている。
自身が個人的に展開するセミのサイト「セミの家」は、日本昆虫学会が“優秀なホームページ”を表彰する「あきつ賞」を2008年度に受賞。
著書に『日本産セミ科図鑑』(林正美氏との共著による大型本 誠文堂新光社 2011年、改訂版2015年)。

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