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驚きのミャンマー出産体験記

入院準備は「特になし」、その実情は!?

鈴木亜香里(地球市民の会ミャンマー駐在員)

(構成・文/井下優子)

 病院はもっとサービスしても良いのでは、と思いますよね。しかし、夫によれば、サービスを充実させた分だけ料金が高くなり、経済的な余裕がない人が来られなくなるとのこと。一理あります。
 日本での出産費用は約50万円が相場だそうですが、私の場合は、人件費・手術用品代・入院費・薬代・個室使用料・スペシャルナース費用・温め箱レンタル代の総額で32万3100チャット(約3万2300円)でした。スペシャルナースは半日あたり4000チャット(約400円)で、おむつ替え、げっぷ出し、授乳の補助、おっぱいマッサージなどをしてくれます。
 さらに、赤ちゃんを温める箱のレンタル代が、1日あたり5000チャット(約500円)。タウンジーの冬を侮ってはいけません。出産前の私はズボンも靴下も重ね履き。寝る時は毛糸の帽子をかぶっていても、トイレに起きると、その後眠れないほど寒いのです。長男が生まれたのはその寒さがピークの時期。ヒーターをつけていてもすきま風が入って寒いので、温め箱を借りたのです。内側にオレンジ色の電熱球が四つ付いた木箱なのですが、箱の中は乾燥がひどくてちょっと心配でした。

四つの名を持つ長男、イスラム名はイエス・キリスト!?

 長男には四つも名前があります。「鈴木悠朔(ゆうさく)」という日本名、「スヮンテッアウン」というミャンマー名、「李克強(リー・コーチアン)」という中国名、そして「イサ」というムスリム名です。
 日本名を考えるにあたり、私は「朔」の字を使いたいと思っていました。詩人の萩原朔太郎の名前が好きだったこと。仏教徒であれイスラム教徒であれ、ミャンマーの人たちは月の暦を大切にして生活をしており、月に関する字を使いたかったこと。そして、私たちの初めての子どもなので、朔の字が持つ「はじまる」の意味もぴったりだと思ったのです。
 ミャンマー名の「アウン」は夫の名前からもらっています。そのミャンマー名を中国語に訳すと「克強」。克は私の父の名前にもある字で、どちらも義母が付けてくれました。
 ムスリム名はイマーム(イスラム教の指導者)に付けてもらうこともありますが、長男には義父が付けてくれました。「イサ」は、イエス・キリストのアラビア語名です。義父がヤンゴンからやってきた14年3月上旬、命名の儀式を行いました。その儀式とは、長男を抱いた義父がお経を唱え、長男の左右の耳元で1回ずつ「イサ~」とささやいて終了。
 役所には「スヮンテッアウン@(別名)鈴木悠朔」として、ミャンマー名と日本名の二つを届け出ました。ミャンマー名だけでは、日本大使館に出生届を出すときに受理してもらえないかもしれないと思ったのです。
 さて、四つの名前を持つ長男を、夫も義母も私も、みんなその時の気分でいろいろな呼び方をしていますが、3人に共通して一番多いのが「カレー」。ミャンマー語で「子ども」という意味です。大人同士で話す時は「カレーが起きた」などと主語に使ったり、ミャンマー人っぽく「カレーイェー」(子どもよ)と呼びかけたりもしています。

出生届は不要!? ゆるいミャンマーの戸籍制度

 名前といえば、私の職場のスタッフは、2歳になる子どもの名前をまだ決めていません。役所への届け出は生まれてから1年以内と決められているのですが、期限を過ぎても怒られないみたいです。それどころか、農村部では出生届すら出さないとか。出生届は、10歳になるともらえる「国民登録カード」(国内旅行などの際に必要な身分証明書)を取得する際に必要ですが、農村部では出生届が出されていなくても、村長が保証してくれればもらえるらしいのです。
 このように、国民の4割近くが少数民族であるミャンマーの戸籍制度はゆるいというか、正確な人口も把握できていないのが実情で、ちょうどこの3月末から4月末にかけて、30年ぶりの国勢調査が行われました。調査では、年齢や宗教、民族などについて聞かれましたが、パンデーは、政府が認める135の民族に含まれていません。夫は、国民登録書と同じシャン族と答えていましたが、実際にはシャン族の血は入っていないようです。長男もシャン族とされ、私は日本人として記載されました。
 ちなみに、ミャンマーの法律では、ミャンマー人と外国人の間に生まれた子どもがミャンマー国籍を取得することはできません。その理由は民主化運動の国民的リーダーであるアウンサンスーチーさんの子ども(父親はイギリス人)にミャンマー国籍を与えないため、と聞いたことがあります。このため、長男に選択肢はなく、彼は日本人になりました。
 日本のパスポートの方がいろいろな国に行きやすいので良い、という意見を多く耳にしますが、現在のミャンマーでは、外国人は携帯電話、土地、家などを買うことができません。また、ミャンマー生まれでありながら、長男にはミャンマーで生活するためのビザが必要。そんな時代のこの国に生まれた長男ですが、国籍に関係なく、国際人としてたくましく生きてほしいと願う母です。

著者情報

地球市民の会ミャンマー駐在員

鈴木亜香里

すずき あかり

1985年生まれ。東京外国語大学ビルマ語専攻卒。コンサルティング会社勤務を経て、佐賀県の認定NPO法人「地球市民の会」ミャンマー駐在員に。南シャン州のタウンジーという町に暮らし、農業支援、教育支援、地域開発、環境保護などのプロジェクトを行う。公的活動の一方で、2010年、現地で知り合った中国系ミャンマー人のイスラム教徒と結婚、自らも改宗してイスラム教徒となる。13年末、長男を出産。なお、現地では中国系イスラム教徒は「パンデー」と呼ばれ、特別なコミュニティーを形成している。

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