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レズビアンカップル、妊活する(1)

新しい家族のかたちを求めて

増原裕子(株式会社トロワ・クルール代表取締役)

東小雪(LGBTアクティビスト)

(構成・文/濱野ちひろ)

「同性婚」を認める動きが世界的な潮流となってはいるが、一方で、同性カップルが子どもを持つことにはまだまだ高いハードルがいくつも存在する。子どもを産み育てていこうとしているLGBTアクティビストの東小雪さんとパートナーの増原裕子さんに聞いた。

子どもがほしい、じゃあどうする?

――結婚式を挙げられてから、2年が経ちましたね。

  はい、おかげさまで。

増原 お付き合いの期間も含めたら、パートナーになってもうすぐ4年。今ではお互いのことがよーく分かるようになったよね。

  うん。つまらないことでけんかもするけどね。

増原 あはは。仕事のメールをちゃんと読んでなかった、とかね。

  茶碗を洗ってなかった、とかね(笑)。でも今はけんかしても、10分後には仲直り。

増原 けんかしてたら仕事が進まないもんねぇ。

  不思議なことに、細かいことではけんかはするけど、大きなことではけんかはしないね。

増原 うん。特に子どもを持つこと、妊娠・出産することについてはけんかしない。私たちは何度も繰り返し話し合いをしてきたけれど、一度も衝突することはなかった。二人とも漠然と「子どもがほしい」と以前から考えていたから、自然と「ほしいね、ほしいね、じゃあどうする?」って話し合ってきたよね。

  大変で難しい目標だからこそ、けんかすることもなかったのかな?

増原 そうだと思う。大きな壁やハードルを一緒に乗り越えるために手を取り合って頑張っているから。まるで部活みたいな言い方だけど(笑)。

――お二人は今、子どもを産み育てるための行動を始めていらっしゃいますね。2年ほど前に東さんにお話を伺った時にも、この件は既に考えていらっしゃいました。

  2年前は今よりも随分悩んでいました。「レズビアンカップルの子どもとして生まれたら苦労するんじゃないか」「精子バンクを利用するとすれば、人種を始め様々な条件で精子を選ぶことは、差別につながってしまうことになるのではないか」などなど……。

増原 随分考え込んでしまいました。

  その後、日本で、私たちと同じような状況で子育てをしているたくさんのレズビアンカップルの先輩たちにお会いする機会がありました。その中で考え方がどんどん変わっていったんです。実際に何人もの子どもたちが生まれていて、すくすくと成長しているのに「子どもがいじめられるんじゃないか」と私が悩むのは、すでに生きている家族に本当に失礼だと思ったんです。

増原 もう実際に学校に行っている子、大きくなっている子もたくさんいます。

  私がいじめを心配することで、逆にそれが負の形で社会に波及していく可能性だってある。私は悩み過ぎていた、恐れ過ぎてはいけない、と思ったんです。実際に子どもたちに会ってみると、悩みが吹き飛ぶ。子どもたちはエネルギーの塊で、パワフルで可愛くって、キラキラしていて。私は子どもって、神様からお預かりするものだと思うんです。素晴らしい存在を預からせてもらって、育てさせてもらうという経験を、私たちもできたらいいな、って本当に思いますよ。

増原 そうだね。自分たちも誰かが産んでくれて社会に育てられたんだもの。そうやって人間はつながっていくのだったら、私たちもできる限りのことをしてみたいよね。

レズビアンカップルと精子提供者の関係

――レズビアンカップルが妊娠・出産を望む時、実際にはどういった手順を踏むのでしょうか?

  2年前には精子バンクの利用も想定して悩みましたが、実際のところ、現在の日本では、私たちのようなレズビアンカップルが精子バンクを利用することは現実的ではありません。国内ではごく限られた病院で精子バンク提供の精子による人工授精が可能ですが、基本的には婚姻している男女に限り利用が可能なのです。つまり、レズビアンカップルが精子バンクで提供される精子を用いて妊娠したいと考えるなら、アメリカを始め海外のバンクを利用するしかありません。

増原 アメリカでは精子バンクは既に非常に一般的で、異性カップルも同性カップルも、シングルの女性も利用しています。ただ、私たちがそれを使うとなると排卵日の度にアメリカに渡って施術を受けなくてはなりませんし、もちろん費用の問題もあります。言葉の壁も心配です。そういった様々な面でハードルが高い。話し合った結果、今は精子バンクの利用は考えていません。

  精子バンクを使わないと決めてから、別の方法を探り始めました。具体的には、知人の男性から精子を提供していただくことを考えています。

増原 小雪ちゃんと私、二人ともが心から尊敬する男性に提供者となっていただけるようお願いしようと思っています。1年半ほど前から、私たちの思いを理解してくださる男性と話し合いを始めました。これまでに複数の方とそれぞれ半年ぐらいずつ掛けて話をしていきましたが、最終的には合意に至りませんでした。

  お一人目の方は、ゲイの男性です。最終的に提供には至らなかったけれど、今ももちろんいい友人です。彼自身にも恋人がいるので、カップル同士、4人で仲がいいという関係です。私たちは4人とも前向きだったのですが、一つの問題が立ちはだかりました。それは、精子を提供してくださる予定だった男性の、家族へのカミングアウト。新しい家族を作ろうという段階で、大事な家族に隠し事はしたくない。彼はそう考えて、この件を機にご両親にカミングアウトしたのですが、すんなりと受け止めてもらうことは難しかったそうです。それが主な理由となってこの時は諦めることになりました。

増原 お二人目もゲイの男性でした。彼にはパートナーがいて、やはり私たち4人とも仲が良く、いい信頼関係を築いています。「できるだけみんなで子育てがしたいね」と私たちは考えていました。すてきなアイデアだと当初は思っていたのですが、大人4人で子育ての方針をすり合わせることはとっても難しかったんです。

  裕子さんと私の二人だけでも何度も話し合いをするもんね。

増原 もちろん、子育てについて話し合いをするのは私たちに限らずどんな家庭でも同じだと思うんだけど、親と呼べる存在が4人いて、祖父母の世代を含めると10人以上も子育てに関わるとなると、本当に大変! と思ったよね。風通しのいい環境で多くの大人と関わりながら子育てをすることが理想だと今も思っているけど、カップル2組とその両親や家族を含めて子育てするというのは、私たちには少々現実的でないと感じたんです。ですから今は、子どもの生物学上の父親となる男性には、精子を提供していただくだけにして、子育ては基本的に私たち二人だけでしよう、と決めました。

  経済的な負担も男性には掛けないことを前提としています。現在、その方向で新たに話し合いを進めているところです。

妊娠するための方法

――精子提供者の男性と合意に至ったら、次は妊娠のための準備ですが、どのような方法で行うのでしょうか?

  私たちがチャレンジしているのは、自宅でシリンジ(注射筒)を使って妊娠する方法です。まさにDO IT YOURSELFです。排卵日に提供者から精子を受け取り、それをシリンジに移し替えて自分の手で膣に入れるんです。

増原 この方法はレズビアンカップルの先輩方も多く実践されていて、何組もの成功例があります。なぜ私たちがこの方法を採るかというと、日本では、不妊治療や生殖補助医療は基本的に婚姻した男女のカップルであることを条件に行われるからなのです。これは法律上の決まりではなく、日本産科婦人科学会の見解に基づくものです。レズビアンカップルであることをカミングアウトしたうえで治療が受けられる所は見当たりません。もちろん、病院で人工授精ができれば、その方が衛生面や安全面でも安心ですし、成功確率も高まるのですが、私たちは自分たちのセクシュアリティを隠さずに妊活をしたいので、シリンジ法を選択することにしました。

  妊娠した後はどこの病院でも妊婦として診察が受けられますから、人工授精の部分のみDIYでチャレンジしよう、ということです。シリンジ法は何もレズビアンカップルだけが用いる方法ではなく、何らかの理由でセックスが難しい異性カップルもこの方法を試し、赤ちゃんを授かっている方々も多いようです。

増原 まずは年上の私から先にチャレンジしてみよう、と思っています。

子どもには何事も隠さない

――子どもが生まれたら、どんな家庭にしたいと考えていらっしゃいますか?

  私たちが決めているのは、子どもには出生にまつわる情報を隠さないことです。あるアンケートでは、AID(非配偶者間人工授精)で妊娠・出産されたご夫婦の大半が、子どもには真実告知をしない、と答えていらっしゃるそうです。異性カップルの場合は、生物学的な親が別だとしても、家庭にパパとママがいれば精子や卵子の由来を隠しやすいです。それが一つの理由になっているのではないかと思います。ですが私たちは女性同士で、お母さんが二人という家庭になる。他の家庭との違いは、2~3歳になれば分かること。だからこそ、出生については秘密にせず、小さいころからわかりやすく説明していくことが必要だと思っています。

増原 日本ではまだ少ないのですが、こういった内容を子どもに伝えるための絵本を、パリのゲイタウン、マレ地区やニューヨークでたくさん見つけました。フランス語のもの、英語のもの、山ほど買ってきたよね。

著者情報

株式会社トロワ・クルール代表取締役

増原裕子

ますはら ひろこ

1977年、神奈川県横浜市生まれ。株式会社トロワ・クルール代表取締役、LGBTコンサルタント、LGBT研修講師。慶應義塾大学文学部卒業、慶應義塾大学大学院フランス文学修士課程修了。在学中にパリ第3大学(新ソルボンヌ)へ留学。在外公館(ジュネーブ)、会計事務所、IT会社勤務を経て現職。雑誌『日経ビジネス』『日経ビジネスアソシエ』『日経ウーマン』(ともに日経BP社)などメディア掲載多数。LGBTとアライを対象にした日本初のオンラインサロン「こゆひろサロン」運営。著書に『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著。2016年、KADOKAWA)。

LGBTアクティビスト

東小雪

ひがし こゆき

1985年、石川県金沢市生まれ。元タカラジェンヌ。LGBT研修講師。企業研修、講演、テレビ・ラジオ出演、執筆など幅広く活躍中。テレビ「私の何がイケないの?」(TBS)、「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「ハートネットTV」(NHK Eテレ)、「みんなのニュース」(フジテレビ)、「モーニングCROSS」(TOKYO MX)などメディア出演多数。2013年、東京ディズニーシーで初の同性結婚式を挙げ国内外で話題に。2015年、渋谷区パートナーシップ証明書交付第1号。著書に『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(2014年、講談社)、『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著、2016年、KADOKAWA)。ブログ「元タカラジェンヌ東小雪の『レズビアン的結婚生活』」を発信中。

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