ゲイカップル、代理出産に挑む(2)
(構成・文/濱野ちひろ)
【みっつんさんとリカさんに子どもが生まれた場合、その子の国籍と親権はどうなるのだろうか?「子どもはアメリカで生まれますから、自動的にアメリカの国籍を取得します。また、生物学的な父親の国籍も申請する予定です。ですから僕たちの子どもはアメリカのパスポートと、日本かスウェーデンのどちらか一方のパスポートを取得することになります。その時点では、生物学上の父親にのみ親権がありますが、僕らは結婚しているので、イギリスおよびスウェーデンの法律においては、もう片方の親もその後の申請により親権が認められると聞いています」。アメリカのエージェンシーを選んだ理由のひとつに、子どもの親権について明確にされている安心感がある、とみっつんさんは言う。「代理母との契約書には、あらかじめ親権を放棄すると明文化されているので、病院側が出生証明書を作成する時点で、僕たちふたりが父親だと記載してくれるのです」。代理出産で生まれた子の帰国トラブルを防ぐためにも、明確な契約が不可欠だ。また、みっつんさんは、代理母と卵子提供者が別々で、体外受精を伴う「ジェステーショナル・サロガシー」にトライしている。「代理母と卵子提供者が一致しているトラディショナル・サロガシーのほうが、人工授精で受胎できることが多いため、比較的費用が抑えられ、女性に対する肉体的な負担は減るのですが、精神的な負担は増します。イギリスでは、代理母に謝礼を渡す商業的サロガシーが禁止されているがゆえに、トラディショナル・サロガシーが主体です。しかし、その場合、たとえ“私は妊娠出産の経験がしたいだけなので、産んだらあなたたちカップルに子どもを渡します”と善意で協力してくれても、いつしかおなかの子に愛情が芽生えて、出産後に子どもを手放したくなくなるということもあるかもしれません。そうなると、生まれてきた子どもの親権に関していえば、母親がいちばん強くなってしまうので、裁判所では彼女が親権を持つべきと判断される可能性が高いんです。そのリスクを避けるためにも、僕たちはアメリカの商業的サロガシーを選びました」】
――ゲイカップルとレズビアンカップルでは、生まれてくる子どもの戸籍、親権の問題についても多少の差があります。
東 日本では出産した女性と生まれた子の母子関係を分娩の事実によって認める分娩主義がとられています。私かひろこさんのどちらかが妊娠し出産に至れば、私とその子、あるいはひろこさんとその子の間には確実に母子関係が認められ、親権は出産した人が持ちます。私たちは共同親権を持ちたいと考えていますが、現状では婚姻できないため、共同親権を持つことはできません。ただ、生まれた子と産んだ母との間の戸籍関係については自動的に認められるので苦労しなくてすみます。言ってみれば、法律的にはレズビアンカップルの出産はシングルマザーと似た状況なんです。
増原 しかし、ゲイカップルの場合だと自分が出産するわけではないので、話が違ってきますよね。日本国内でゲイカップルが生物学的に自分と繋がりのある子どもを持とうと思った場合、法律面でも私たちよりも難しいのではないかと思います。みっつんさんとリカさんはスウェーデンの法律で結婚していますし、子どももアメリカで生まれるということなので、状況はまた違うと思います。
東 法律的な面で言えば、日本では、私たち同性カップルが特別養子縁組制度によって養子を迎えることも現状ではできません。「婚姻している夫婦」でなければ特別養子縁組で養親になれないのです。みっつんさんとリカさんも、代理出産を決める前にイギリスで養子を取ることを考えたこともあったそうですが、審査の厳しさに直面して諦めたそうです。日本のみならずイギリスでも難しい、ということですね。こういったことも、同性カップルが自分たちの血のつながった子どもを持とうとすることに関連していると思います。
増原 今のところ、私たちは特別養子縁組で子どもを迎えることはできないのですが、もしかしたら里親にはなれるかもしれないんです。ただ、私たちが住んでいる東京都では、今は里親になるには「夫婦であること」という規定があるそうで、まだ難しいです。
東 でも、全国的に里親不足に悩んでいる現状があるので、数年後に規定が変わってくれないだろうか、と前向きな期待はしています。
増原 とはいえ、私はいま38歳で、妊娠可能性を考えるとタイムリミットが近い。なので、里親制度の改善を待つよりも、まずは自分自身がチャレンジしよう、と思っています。
東 人工授精や特別養子縁組で自分の子どもを持つということ以外に、私は里親等の社会的養護にもとても興味があります。時期が整ったら、そういったことも選択肢のひとつに入るのではないか、とは思っています。
「家族を持つ」願いを諦めない
――みっつんさんとの出会いを通して、印象的だったことはなんですか?
東 実際にチャレンジしている彼らの話を聞いて、私自身の世界がすごく広がったと思います。やはり子どもを最初から諦めてしまっている人も多いなかで、たくさんの困難を乗り越えながら「家族を持とう」という思いを実現させようとしている。日本のゲイカップルには代理出産についての情報がいきわたっていないと思うので、それを伝えてくれているみっつんさんには本当に感謝しています。
増原 同性カップルはレズビアンであれゲイであれ、子どもを持つことにおいて難しいことのほうが多すぎて、だからこそ本当に努力する。「どうしたら可能になるか?」を探りながら、頑張らざるを得ないので、そこはむしろ良いことなのかな、と思えます。
【出産や妊娠に関する倫理観は時代や状況、国によっても変わる。みっつんさんは自分たちのことをアクティビストとは思わないし、社会や政治を変えようとしているわけではない。しかし、ブログなどを通し、LGBTが子どもを持つことや代理出産について興味を持つ人が増え、議論がもっと深くなればいいと思っている。その過程で批判があったとしても、反論はしない。それよりも「今あるシステムの中で、どうやって自分たちが生きているかだけを探している」という。「批判されても、自分たちの尊厳が傷つくわけではない。自分たちの出した結論に従って、自分らしく生きていければ」】
著者情報
株式会社トロワ・クルール代表取締役
増原裕子
ますはら ひろこ
1977年、神奈川県横浜市生まれ。株式会社トロワ・クルール代表取締役、LGBTコンサルタント、LGBT研修講師。慶應義塾大学文学部卒業、慶應義塾大学大学院フランス文学修士課程修了。在学中にパリ第3大学(新ソルボンヌ)へ留学。在外公館(ジュネーブ)、会計事務所、IT会社勤務を経て現職。雑誌『日経ビジネス』『日経ビジネスアソシエ』『日経ウーマン』(ともに日経BP社)などメディア掲載多数。LGBTとアライを対象にした日本初のオンラインサロン「こゆひろサロン」運営。著書に『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著。2016年、KADOKAWA)。
LGBTアクティビスト
東小雪
ひがし こゆき
1985年、石川県金沢市生まれ。元タカラジェンヌ。LGBT研修講師。企業研修、講演、テレビ・ラジオ出演、執筆など幅広く活躍中。テレビ「私の何がイケないの?」(TBS)、「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「ハートネットTV」(NHK Eテレ)、「みんなのニュース」(フジテレビ)、「モーニングCROSS」(TOKYO MX)などメディア出演多数。2013年、東京ディズニーシーで初の同性結婚式を挙げ国内外で話題に。2015年、渋谷区パートナーシップ証明書交付第1号。著書に『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(2014年、講談社)、『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著、2016年、KADOKAWA)。ブログ「元タカラジェンヌ東小雪の『レズビアン的結婚生活』」を発信中。