ユニバース化は映画をどう変えるか?
杉山すぴ豊(映画評論家/作家)
邦画では、かつての初期の東宝『ゴジラ』シリーズ=怪獣映画は、まさにユニバース化していました。『ゴジラ』、『空の大怪獣ラドン』、『モスラ』という独立した怪獣映画の後、これらの怪獣たちは『三大怪獣 地球最大の決戦』で『アベンジャーズ』のように共演します。その後の東宝怪獣映画は『ゴジラ対○○』となるので、まずユニバース化があって、次にゴジラを起点としたシリーズ化に至ったのでしょう。
また、『ルパン三世vs名探偵コナン THE MOVIE』、『貞子vs伽椰子(かやこ)』、東映の『仮面ライダー』や『スーパー戦隊』が共演する映画も多いのですが、どちらかと言うと、それらは夢の共演(競演)系のイベント企画であり、例えば“ルパン・コナンバース”や“リング・呪怨バース”までのユニバース化の構築までは至っていないかなと……。
ユニバース化が成立するかは、“複数の作品や多様なキャラクターを生み続けられる世界観を作れるか”に懸かっています。そして、“世界観をわざわざ作った方がいいジャンルかどうか”も重要です。つまり、そもそも日常を舞台にしている作品なら、独自のユニバースを作る必要はありません。山田洋次監督の『男はつらいよ』と『幸福の黄色いハンカチ』と『家族はつらいよ』をユニバース化するメリットなどないでしょう?
邦画は、こうした日常やティーンのラブコメみたいな話が多いので、ユニバース化を前提とした作品が必要ないのかもしれません。また、仮にユニバース化に着手する場合、全ての権利を映画会社なりプロデューサーが集約して“持てる”ないし“持っている”ことが前提になります。そういう意味では、EXILEを擁するLDH JAPANが手掛けている総合エンターテインメント・プロジェクト『HiGH&LOW』はユニバース化できるかもしれません。そこで展開されるのは、SWORD地区という架空の街を舞台にした近未来アクションで、独自の世界観を作って、まさにユニバース化を構築するためのベースができており、ここから様々なヒーローを生み出すことが可能なフレームだと思います。
筆者が“邦画でこういうのがあったら面白いな”と思うのは、日本の戦国時代をかなり誇張して、『300〈スリーハンドレッド〉』のようなテイストで「織田信長」「豊臣秀吉」「徳川家康」のそれぞれの映画が作られ、『アベンジャーズ』的に「長篠の戦い」、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』的に「関ケ原の戦い」が描かれるとか、ガメラをリーダーにした怪獣版アベンジャーズでしょうか。
ユニバース化することへの懸念
ユニバース化がもたらすメリットは、そのユニバースに属することによって、個々の作品のブランド価値が上がることです。MCUで言えば『マイティ・ソー』や『キャプテン・アメリカ』、『アイアンマン』等の各シリーズは、『アベンジャーズ』以降に公開された続編の方が前作よりヒットしています。つまり、世界的な大ヒットとなった『アベンジャーズ』の看板を“アベンジャーズ・シリーズ(ないしプロジェクト)”のように各作品が使えるようになり、それがプラスに働いています。選挙で言えば、「アベンジャーズ公認」がもらえるようなもの。芸能人で言えば、「アベンジャーズという強い事務所」に入るようなものです。
その一方で、デメリットもあるかもしれません。例えば、『ザ・マミー』は単体の映画としても十分面白いのですが、明らかに今後のダーク・ユニバースに向けた伏線もあり、それが本編の流れからちょっと浮いている感じがありました。ダーク・ユニバースという構想を知っていれば、すごく楽しく、ワクワクするのですが、このお約束を知らない方にとっては、唐突に思えたかもしれません。つまり、一つの物語の中に、共通の世界観構築を意識した要素をどう紛れ込ませるか、工夫しなければならないのです。
また、各作品の個性と世界観とをどう両立させ、整合させるのか、という問題も出てきます。DCEUが始まる前のバットマン映画、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』シリーズの世界では、バットマン以外にヒーローはいないという設定でした。したがって、ノーラン監督のようなアプローチでバットマン映画を作りたくても、DCEUが存在する限り、その主張は受け入れられないわけです。
他にも、「今までの作品を観ていないと楽しめないのでは?」と思われて、新規層にとって参入しにくい壁を作ってしまうかもしれません。実際、『アベンジャーズ』の公開の時も、「今までの『アイアンマン』とか観ていないとダメですか?」とよく聞かれました。
製作する方にとっては、「一作でも批評的・興業的に失敗すると、ユニバース全体の価値に傷が付くのではないか?」とのプレッシャーも生まれます。
しかし、こうした懸念材料が、裏を返せば、ユニバース化ならではの魅力要素にもなりうるのです。

ユニバース化することの魅力
“ユニバース化”というのは山手線のようなものだと思います。つまり、どこから乗ってもいいし、それが一つにつながっている。だから、『ワンダーウーマン』からDCEUの世界に入ってくる人もいれば、『バットマン』が始発ということもある。その世界に入り込むための乗車駅は、多い方がいいわけです。
また、ユニバース化は、様々なテイストの作品を大きな懐=世界観の中に取り込む試みです。モンスターバースの『GODZILLA』は大都市パニック映画、『キングコング』は秘境冒険映画と、まるでテイストが違う作品でした。そう考えると、モンスターバースというフレームは各作品を縛るどころか、個性豊かな怪獣(映画)を受け入れる大きな世界なのです。
さらに、単体では勝負できない作品が、ユニバース化の恩恵を受けることで堂々とデビューできるようなチャンスも生まれます。MCUの中でも人気作となった『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は、コミックとしては決してメジャーではありませんでした。恐らく、MCUという信用がなかったら、そして「その中の一つ」という見え方をされていなかったら、決して単独では映画化されなかったでしょう。
ユニバース化についてはMCUが先行し成功しており、今後このスタイルが定着するかはDCEUやモンスターバース、ダーク・ユニバースの成功に懸かっているでしょう。ユニバース化によって似たような映画が増えることを懸念する声もありますが、好きな世界にドップリはまれる幸せを与えてくれることも事実。もともと映画とは、日常とは違う世界に連れていってくれる旅のようなものです。新しい映画を観れば、新しい世界へ行くことができます。しかし、お気に入りの“ユニバース”に出会えたら、それはその人にとって、心の故郷が見つかった、ということかもしれません。なぜなら、そこにひも付く作品を見続けることによって、自分の好きな世界に何度でも帰ってくることができるからです。そう。“新しい世界に行く”というより“里帰り”に近いのです。自分の心の故郷が、いろいろなヒーローが共存している大都会、巨大怪獣やモンスターたちが跋扈(ばっこ)している世界というのは、想像するだけでワクワクしてしまうのです。
著者情報
映画評論家/作家
杉山すぴ豊
すぎやますぴゆたか
広告会社のシニア・クリエイティブ・ディレクターとして、企業CMやテレビ番組のポスターなどに関わるほか、『ガメラ2 レギオン襲来』『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』の製作にも携わった。アメコミ映画評論の一人者で、『アイアンマン』や『ダークナイト』シリーズなど、いくつものヒット作のパンフレットにも寄稿している他、雑誌『ユリイカ』や『映画秘宝』などへも寄稿。
動画サイト「dora Online Video Trend Media」で「すぴ豊のアメコミ道場」(http://do-ra.org/tag/supidojo/)を、出版情報サイト「BOOKSTAND」で「杉山すぴ豊の、アメキャラ映画パラダイス」(http://bookstand.webdoku.jp/cinema/sugiyama/)を連載中。個人ブログ「MARVEL VS Hollywood」(https://supi.owned.media/)も開設。アメコミ映画の最新情報を紹介する他、トークショーや上映イベントなども行っている。