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一語千金

第一次所得収支

[primary income]
日本が頼る「不労所得」

玉手義朗(エコノミスト)

「昔稼いだお金があるから、赤字転落は回避しているんだよね……」というのは、高額の報酬を得ていた外資系企業をリストラされ、日本企業に再就職した知人だ。収入が激減し、本来なら毎月20万円ほどの赤字が出るはず。ところが、外資系企業時代に稼いだお金を株式や不動産に投資していた結果、配当金や家賃などの収入が30万円もあるため、生活が成り立っているというのだ。
 この知人と同じ状況にあるのが今の日本だ。働いて稼いだお金(輸出)と支出したお金(輸入)の収支を示す「貿易収支」は赤字だが、全体的な収支を示す「経常収支」はなぜか黒字。その要因となっているのが「第一次所得収支」の巨額な黒字だ。
 第一次所得収支は対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支状況を示すもの。具体的には親会社と子会社との間の配当金・利子等の受け取りと支払いである「直接投資収益」と、株式の配当金や債券の利子の受け取りと支払いをまとめた「証券投資収益」、これらに「その他投資収益」として貸し付けと借り入れ、預金等に係る利子の受け取り・支払いの収支を合算している。第一次所得収支はかつて「所得収支」と呼ばれていた。しかし、2014年1月から、官民の無償資金提供などの収支を示す「経常移転収支」を「所得収支」のカテゴリーに移したことに伴い、従来の「所得収支」を「第一次所得収支」とし、「経常移転収支」を「第二次所得収支」と呼ぶようになったのだ。
 13年度の国際収支状況(確報値)を見てみよう。収入に当たる輸出が69兆8000億円であるのに対して、支出に当たる輸入は80兆8000億円と、貿易収支だけで11兆円もの赤字を計上している。ところが、第一次所得収支が16兆7000億円もの黒字であるために、全体の収支を示す経常収支が8312億円の黒字となっている。
 第一次所得収支の黒字は、日本が過去に貿易で稼いだ巨額のお金を海外に投資し続け、大きな資産を形成してきた結果だ。第一次所得収支はそこから自動的に得られる「不労所得」であり、これによって経常収支の赤字を防いでいるのである。
 近年、第一次所得収支は増加傾向にある。1990年代半ばの6兆円台から2010年度に10兆円を突破し、13年度には16兆7000億円に到達した。アジアの国々で行ってきた積極的な投資が成功して大きな収益につながった上に、円安も第一次所得収支を押し上げる一因となった。第一次所得収支の大半はドルなどの外貨で受け取ることから、円換算した受け取り額が円安によって自動的に増えたのだ。
 しかし、第一次所得収支への過度な依存は危険だ。日本は原発停止を受けて原油輸入が急増する一方で、輸出は期待された円安の効果が見られず伸び悩んでいる。膨らむ一方の貿易収支の赤字を、第一次所得収支で埋め合わせてきたわけだが、こうした状況は決して長続きしない。第一次所得収支の黒字の源は、貿易で稼いだお金だ。したがって、このまま貿易赤字が続けばやがて海外資産の取り崩しを迫られ、第一次所得収支も悪化、貿易収支の赤字を埋めきれなくなる。その恐れが現実になったのが14年上半期で、貿易赤字が膨らみ続ける一方で、第一次所得収支の黒字が減少、経常収支は5075億円の赤字に転落したのである。
「もう少し支出を減らす努力をしないと、いずれ家計が破綻する……」という知人は、家賃の安いマンションへの引っ越しを検討しているというが、日本国内にはこうした切迫感が感じられない。第一次所得収支で帳尻を合わせるのはもはや不可能であり、大胆な輸出促進策や輸入削減の努力をしない限り、日本は赤字に苦しむ貧乏な国になってしまうだろう。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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